くだらない、
初めて聞いた時にそう思った。
ウォーゲームなんて…バカじゃない?
だって世界を自分のものにするだなんて。目の前に立ち、チェスの兵隊に向かって告知をしたファントムを見上げながら小さく小さく呟いた。周りはみんな戦争が始まる事に歓喜しているためか、喜びの声が響いていた。
そんな中だというのにあの男は私のそんな呟きを聞き流す事はなかった。ツカツカとヒールの響く音が近づいてくれば私の背後でピタリと止まる。
「くだらないとは聞き捨てならんな」
「すごい地獄耳ね、恐ろしい。」
私が振り向きもせずに皮肉を言えば、いつも通りにクッ、と笑い、私の目の前に立ちふさがった。私よりコイツの方が身長が高いからその分少しでもうえを見る形になってしまうのがすごく憎い。
「なんなの、私がウォーゲームにたいしてどんな感情を抱こうがあんたに関係ないでしょう。」
「関係ある。私がこの戦争の指揮をとるのだからな、少しでも危うい感情を持つ者がいれば何とかしなくてはならん。失敗は許されない。」
「だったら私をゲームに出さなければいいだけの話でしよ。危ういなら。」
「ふん、お前は予想以上に強くなったからな。ゲームに出さないわけはないだろう?此方に有利を持ち込む為には。」
キッ、と睨みつければこいつはあの細い指と赤い爪ですっと顎をなぞってトドメをさすように、楽しみにしていろ、出番はそう遠くない、と一言私に投げつけてきた。
あいつの触れた部分が火傷みたいにヒリヒリ痛んで仕方ないから手でそれを払いのけて逆方向に走った。
悔しい。
あれから幾度となく修練の門に入って修行を重ねているのにコイツだけ、ペタだけには届かない。私は墓場を走りぬけて城へとかけもどった。イライラが募るせいか自室のドアを乱暴にあけてベッドにバッと寝転んだ。
今自分はどれだけ強いのか。
本当にペタを殺す事は出来ないのか。
色んな思いが込み上げて胸の中のたまらなく熱くては深いそれが痛くて痛くて耐えられない。その時、寝転んだ衝撃でずれたのであろう棚のARMボックスから一つ、私の足に落ちてきた。
「…これ……」
普段は気しない所だけどそのARMは特別。
だって…これは初めてボスにプレゼントしてもらった物だから。
私が戦えるようになったから、と言ってくれたARM。それをみると、楽しかったルベリアでの生活を思い出す。それに比べてここは…冷たくて、暗くて、赤い。そんな生活。私は丁寧にそれをボックスに戻した。
そして外をみればお祭り騒ぎになっている墓場。ああ、いいよ、やってやろうじゃないか。隙があれば裏切ってやるよ。きっとボスは仲間を傷つけたチェスを許さない。だからウォーゲームに出ればボスたちに会うことができるかもしれない。
そんな期待が頭をよぎった。
うまくいくかはわからないけども。
そんな事を墓場の灯りに誓いながら私は眠りについた。
裏切りの誓い
(どうなるかなんてわからないけれど、)(試す価値はあるはず、)