花火に消された言葉



「東京に遊びに来ない?もうすぐ祭りがあるんだ。」

この間電話で会話した時、松山は三杉にそう誘われた。
学生とは言え、サッカーづくしの松山はお金を使う場面もあまり少なく、幸いお小遣いも溜まっていた。
それに、三杉が言った日程なら偶然練習も休みになっている。
色々考えて「行く」と言おうとしたら、三杉は電話口の向こうで松山が迷っていたと思ったのか、「旅費なら僕が払うから」と突然言い始めた。

「・・・はあ!?お前にそんなことまでしてもらえねぇって・・・」
「いいよ別に、プロになったら返してくれれば」

冗談のように三杉は言う。でも、確かに松山の夢はプロのサッカー選手になること。ずっとサッカーをし続けることである。

「まあそうはなりてえけど・・・その頃にはお前もそうなってるだろ?」

自分たちにしてみたら、早くても2年後の話だ。しかも2年後そうなれてるという保証もない。
松山自身も覚えてる自身もないし、ましてや三杉にお金を借りてまでして東京に行くなんて・・・そう考えていた。

「・・・僕は・・・」

急に三杉が言い淀んだ。いつもならきっと、「当たり前じゃないか」という言葉が帰ってくるはずなのに。松山は疑問を感じた。

「・・・三杉?」
「・・・まあ、別に返してもらわなくても僕は松山に会えればそれでいいんだ。」

松山がその疑問をぶつけようとした時、三杉からそう言われて一気に全身が熱くなる。

「・・・な!?お、前・・・っ」

よくもそんな小っ恥ずかしいこと言えんな!?と叫び、ため息をつく。そんな松山に対して、三杉が笑う声が聞こえた。

「どっちにしろ、浴衣と泊まれるところは確保しておくから。」
「・・・ああ。頼む。・・・て、浴衣!?」
「母さんの知り合いがこの前僕にって作ってくれたんだ。せっかく貰ったんだからやっぱり一度は着ておかないと・・・それに、君は僕と背丈が似てるから入るんじゃないかな?」
「・・・まあ、多分。」
「せっかく祭りに行くんだし・・・ね?」

そう三杉に押し切られ、松山はつい肯定の返事をしてしまった。
そんなこんなで突然決まった東京行き。久しぶりに三杉に会える嬉しさと、どこか少しおかしいと感じた三杉の様子に戸惑いを感じていた。
直接会って確かめるか・・・そう松山は考えた。

そして、その日はあっという間にやって来た。

***

東京駅で待ち合わせた二人は、まずはホテルに行き三杉が持ってきた浴衣を着て、荷物をおいて祭りへとやってきた。

「・・・やっぱり松山、こういうの似合うと思ってたよ」
「・・・そう、か・・・?」

三杉に着付けてもらい、何とか浴衣を着ることができた松山。でも普段とは違う自分の衣装に戸惑い、どこかしらそわそわしてしまう。

(それに・・・)

ちらっと三杉を見てみると、三杉も同様に浴衣姿で松山の隣を歩いていた。色々な出店に興味があるのか、色々なところを見渡している。

(・・・こいつの方が似合ってると思うんだけどな・・・)

松山は今日浴衣姿の三杉を見た瞬間、心臓が飛び跳ねた。見慣れていると思っていたその姿は、普段とは違う魅力があってとても新鮮で・・・
男なのに、自分とは全く違うものと感じられ・・・

「・・・つやま?」

三杉の呼びかけに、ハッと意識を戻す。

「・・・どうしたの?疲れたのかい?」
「い、いや!」

まさか自分が三杉に見惚れてました・・・なんて、返せなくて。松山は思わず辺りを見渡して、三杉の後ろにちょうど見えた「金魚すくい」の看板を指差した。
三杉もその指先を見る。

「・・・金魚すくい?」
「こ、これ!俺これを探してたんだよ!!」
「・・・でも、僕たちは今日ホテルだよ?」
「でもやりてえんだよ!」

必死に弁解する松山を呆れた様に見ると、「しょうがないな」と言ってふっと笑う。

「・・・俺の金魚すくいの技、見てろよ?絶対逃さねえからな。」

そう言って店のおじさんにお金を払い、お椀とポイをもらう。そのお椀に水をいれると、真剣な顔つきになりポイを構えた。
そんな松山の隣に一緒にしゃがみ、真剣な松山の顔を見る三杉。松山は気がついてないのか、「うーん」と金魚を見つめながら唸っている。そんな松山を見て、優しそうに三杉は微笑んでいた。

***

「・・・これが、君の金魚すくいの技の結果かい?」
「う、うるせえな!」

松山の手には、ビニールの袋の中で泳いでいる金魚が、2匹。
三杉は冷めた目で金魚を見つめていた。
「今日は調子が悪かったんだよ!」とそんな三杉に対して必死に言い訳する松山。

「・・・あ」
「なんだい、話をそらすつもり・・・」
「見ろよ、あれ」

その声に三杉は松山を見ると、松山は一点を指差し見つめていた。なんだろう?と思い、三杉もその先を見つめると・・・

ドォーンという音と共に暗闇に花が輝いた。

三杉は手元の時計を確認すると・・・

「・・・もう始まったみたいだね。」
「花火もあるっていってたもんな」
「行こう、僕一番見えやすい位置を知ってるんだ。」

そう言うと三杉は踵を返した。

「え?・・・え?」

松山は花火と三杉を交互に見る。三杉が進んだ先は花火とは逆方向だったから、松山は戸惑っていた。でもこのままだと人ごみで見失うと思い、慌てて三杉を追いかけた。

「・・・松山、こっち」

三杉に誘導されてきたところは、草木の多い道であった。でもその先には広い場所があった。そこに行くと・・・

「・・・っ、すっげ・・・」

松山は目の前の光景に感動していた。
そこには、大きな花火が見えた。さっき見た時よりも、ずっと近い。しかもそこには人影も見えず、二人だけ。

「・・・これを君に見せたくて、今日誘ったんだ。」

花火を見つめながら、三杉が呟いた。そんな三杉の横顔を見ると時々花火に照らされて、その表情は儚げというかなんというか・・・なんとも言い難く、松山はただ綺麗だと思った。
急にそんな事を考えた為、自分で自分を恥ずかしく思いまた花火へと視線を戻す。
ドォーンと花開く瞬間の音は自分の胸にまで響き渡り、二人とも目の前の光景に感動してずっと目を奪われていた。

「花火って、なんでこんなに綺麗なんだろうね。」

花火を見続けてどれくらい立ったのだろうか・・・三杉が小さく呟いた。思わず松山は三杉を見た。

「でも、瞬く間に消えてしまう。・・・まるで人の生き方みたいだね。」
「・・・三杉?」
「・・・僕は・・・」

その瞬間またドォーンという大きな音を上げて、花開く。同時に松山の三杉を見つめる瞳も開かれた。
音に消された言葉。でも、しっかりと松山の耳には届いていた。

その花火が消えた瞬間、ふっと笑って三杉は松山の顔を見つめた。その微笑みは、今にも消えてしまいそうで・・・松山は胸が締め付けられた。

「・・・まだ、治りきってなかったんだ。」
「・・・何・・・言って・・・」
「・・・この前が最後の手術だと思ってた。でもこの前の検診で・・・見つかったんだ。」

「何が?」松山は簡単にそう問えなかった。それは、松山自身も理解していることだったから。

「今度、もう一度手術をすることになったんだ。けど・・・」
「・・・けど?」
「・・・今度も、成功するのかな?」

目を松山からそらして、細めた。表情は笑っているが、虚ろげで・・・。

「・・・僕は、いつまで生きられるのかな・・・」

先ほど花火に消された言葉を、もう一度三杉は繰り返した。瞬間、松山は三杉の腕を引いて三杉のことを抱きしめた。

「・・・!まつ・・・」
「ばかやろう!そんな・・・そんな悲しいこと言うなよ!?」

ぎゅっと、その抱きしめる力を強くする。三杉の存在を確認する様に。

「絶対、その手術も成功して、今度こそお前はサッカーできる体になるから・・・!」
「・・・っ」
「・・・だから、そんな事言うな・・・っ」

苦しそうに、でも必死に松山は叫ぶ。三杉もその言葉に胸が締め付けられ、ぎゅっと松山の裾を掴んだ。

「・・・本当は・・・」
「・・・」
「・・・本当は、怖かったんだ・・・っ、もう治ったはずなのにまたそんなことがあって・・・もうずっとこんなことが続くんじゃないかって・・・」
「三杉・・・」
「・・・ならいっそ!・・・もう、全部諦めた方が楽なのかなって・・・」
「・・・っ!」
「・・・サッカーも、君のことも・・・生きることも・・・全部・・・っ」

その先を三杉は続けることができなかった。松山が自分の唇で言葉を塞いだ。
そしてゆっくり離すと、三杉をもう一度真剣に見つめた。

「・・・俺は、お前が必要だから。」
「・・・松山。」
「だから、そんなこと言わないでくれ・・・」

そしてもう一度その儚げな、消えそうな体を抱きしめた。

「今みたいに辛いなら辛いって素直に吐き出して欲しい。そんな時は俺が支えてやるから・・・」
「・・・まつ・・・やま・・・」
「・・・いつでも駆け付けるから。」
「・・・」
「・・・だから、生きろ。お前はまだまだやれる。俺はそう信じてる。」
「・・・っ」
「だから、手術が終わったら・・・もう一度一緒にサッカーしようぜ?そして・・・また、この花火を2人で見に来ようぜ。」

三杉の瞳から、涙が溢れ出ていた。

自分が今本当に欲してたものは、その先に見える希望だったのかもしれない。三杉はふとそんなことを考えていた。そして今日松山はその希望を与えてくれた。
実は今日は、松山との思い出を作っておきたくて三杉は松山を東京に呼んだはずだった。手術のことも自分の体のことも言う予定はなくて・・・でも、思わず出てきてしまった本音。
それに松山はしっかりと答えてくれた。
やっぱり松山に出会って・・・好きになって良かった。三杉は心の中で松山に感謝していた。

「・・・うん」

三杉は色々な思いを込めて、松山に返事をした。そしてその手を背中へと回し、しっかりと抱きとめた。

まだ鳴り響く花火は、そんな二人をずっと照らし続けていた。





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4321キリ番リクエスト品です!
『頂いたイラスト、浴衣2Mにお話を』という内容でした!
なので、今回は挿絵としてrudolf様の絵も入っています!
頂いた絵はこちらですv

素敵な絵で、一気に話が膨らみました!
浴衣〜!!祭りの季節ですものね!!
でも、話自体悲しく切ないものになってしまったような気が・・・
も、もうしわけありません!!
祭り→花火で、「花火」は昔みた漫画の影響があって・・・
「どうせ生きるなら、花火みたいに一花咲かせたい」(だっけかな?)
そんなイメージです。そんな生き方をしたい・・・と言わせるつもりが・・・
何故こうなった(笑)

リクエストしてくれたrudolf様へv
こんな内容になってしまい申し訳ないですー!!
もっと明るい話をかきたかったのに・・・!
同時に曲もお送りしますー!!
では、リクエストありがとうございました!!

ええと、頂いた絵を元に音楽も作ったんで、絵と音楽と、小説の一部セリフを使った動画?みたいなものも作りました(笑)
こちらです♪
(PCの方のみ観覧可能です。)

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