今日は2月14日…というのに。
好きな女の子と喧嘩をした。
いや…今回は僕が悪い。

事の原因は…――。



Case1 〜Jun Misugi〜




よく僕の携帯に電話をかけてくる昔からの幼馴染の名無しさん。
バレンタインの一週間前も、彼女から電話がかかってきた。

「でねー、松山くんがさあ…」

最近名無しさんの口から出る話題はほとんどが松山のことだった。
なぜかというと、彼女は北海道の大学に進んだからだ。
幼馴染で小さい頃はほとんど一緒だったため、いつも僕に付き合ってサッカーを見ててくれた。
そのせいか彼女もサッカーに対する興味が普通の女性より高い。
ミーハー…という意味ではなく、技術や感動を生み出すプレイ自体などに惚れこんでいるみたいだった。
そして今いるのは北海道。
当然名無しさんの中にコンサドーレという文字が浮かんできたらしい。
そして、僕を通じて知り合った松山とよく話してるみたいなんだけど…。

あの二人は相性がいいと思う。
なんとなく…僕から見ると似ている。
というか、サッカーの話題をすると止まらなくなる可能性が高い。
純粋にサッカーが好きだからだ。
だから、それでお互い惹かれあうのも当然かもしれない。
だけど…――

「名無しさんはさ、」
「…ん、何?」
「サッカーと松山、どっちの方が興味あるの?」
「…は?」

電話を続けていたら、思わず出てしまった言葉。
僕は感情をむき出しにしてしまった。
まずい…そう心のどこかで直感的に感じた。
ここで切り返せばよかったはずなのに…
僕の言葉は止まらなかった。

「そうだよね、君ももう年頃なんだし、同じ趣味持つ松山に惹かれるのも当然だと思うよ。」
「淳…何言ってるの?」
「松山のことが好きなんだろ?」
「な…ちょ、ちょっと待ってよ!なんでそうなるの!?」
「だって、最近の話題松山のことばっかりじゃないか。」
「そ、それは…」
「…そうだろ?…なら、僕が松山とうまくいくようにセッティングしてあげようか?」

心とは真逆な言葉が口から出る。
余裕があるような僕の声とは裏腹に、心はすごく乱れていた。

(なんで松山なんだ…!!)

「ちょっと淳、話聞いてよ!?」
「…ほら、もうすぐバレンタインだし、ちょうどいいんじゃない?」

君の言葉なんて聞きたくない。
名無しさんの口から「松山が好き」なんて言葉を聞いてしまったら…。
僕はきっと…平常心を保てなくなる。

「もう…っ淳のバカ!!!」

その言葉のすぐあとに、僕の携帯から「ツーツー」という音が耳に響く。
携帯を見て、ため息をついた。
やってしまった…―――。

―――――

あれから一週間、名無しさんから音沙汰はない。
僕も何ども謝ろうかと思って携帯と手に取るが、なんと言えばいいかわからなくて…。
そのせいか、ここ一週間は大学でもサッカーでも僕らしくないミスが多かったらしく、みんなに心配される。
ある人は、「心臓病が再発したのか!?」と心配してくれるけど…。
ある意味、心臓病なのかもしれない。
こんなに名無しさんと離さない時間が長いことは、今までは名無しさんが連絡をくれてたのでなかった。
こんなのは初めてで…胸が苦しくなる。
今日もまた、何度目か携帯を見て、名無しさんの名前をディスプレイに表示するけど通話ボタンを押せず…そんな時間を過ごしていた。

ピンポーン。

突然来訪者の知らせが来た。
出る気はないけど、一応インターホンのカメラを確認すると…――

僕は慌てて解錠のボタンを押し、玄関に走っていった。

そして玄関のドアが開いた。
そこには…――

「…」
「…名無しさん…」

名無しさんが立っていた。
表情は無表情で…僕は当然のことに戸惑っていた。
謝らなきゃいけないはずなのに。
言葉が出ない。

「…とりあえず、家に…」
「…すぐ帰るから、ここでいい。」

招き入れようとしたら、拒否をされた。
その言葉が冷たくて、胸に突き刺さる。
当然かもしれないけど…。
僕は突然の名無しさんの来訪に思わず呟いた。

「どうして…」
「…」

その言葉に名無しさんは俯く。
そしてカバンから何かを取り出し、僕に渡した。
それは…

「…これ…」
「…これ、渡しに来ただけだから。」
「…!」

驚いて僕は名無しさんの顔を見る。
名無しさんは、泣きそうな顔をして少しうつむいていた。

「北海道から、どうして…」
「淳に、どうしても渡したかったから。」
「え…?」
「何か勘違いしてるかわからないけど、私の好きな人、松山くんじゃないよ。」
「…!?」
「私が昔からバレンタインに贈りたいって思ってるのは…淳だけだよ…」
「…っ」

その名無しさんの言葉に胸が熱くなる。
そういえば、昔から名無しさんは僕にチョコを送ってくれていた。
幼馴染としての義理なのかと思っていた。
そして今年は松山にあげるだろうから、名無しさんからは何もないのかとも…。

「淳にとっては…また増えちゃって迷惑かもしれないけど…受け取ってくれたら、帰るから…」
「…それなら、受け取れない。」
「…っ!?」

僕の言葉に、名無しさんが顔を上げて僕を見た。
もう堪えられないくらい泣きそうに顔を歪めて。

「なんで…っ!?今まで受け取ってくれたじゃない!幼馴染としてでいいから…受け取ってよ…っ!!」

名無しさんが叫ぶ。同時に名無しさんの目から涙がこぼれ落ちる。
僕はチョコレートを持ったままの名無しさんの腕をひっぱり、抱きしめた。

「…っ!!」
「だって、受け取ったら君は帰るんだろ?」
「じゅ、淳…離してよ…っ」

「…やだ」
「な…っ」
「僕も何年我慢してたと思ってるの…?名無しさんのそんな気持ち聞いたら…離したくない。」
「…え…」

僕は名無しさんを抱きしめる力を強くした。

「僕は、名無しさんのことが好きだよ。」
「…!」
「…この間は、ごめん。」
「…淳…」

名無しさんも僕のことを抱きしめ返してくれた。

―――――

「忘れ物はない?」
「うん、大丈夫だと思う。」

あの後、離したくはなかったけど、名無しさんも大学の研究のために帰らなくてはいけないため、空港まで送りに来た。
今日も本当は予定があったらしいが、僕にプレゼントを届けに来るために延期してもらったらしい。
また最近松山の話題が多かったのは、僕と長い時間話したいし、松山の話題なら変な話もたくさんあるから盛り上がるだろうと思ってのことだったらしい。
改めてそんなところも愛おしく感じた。

「あ、名無しさん、忘れ物」
「…え!?なんだっ…」

驚く名無しさんの頬に、軽くキスを落とした。

「―――っっ!!」

そこを手で押さえた名無しさんが真っ赤になって口をパクパクさせてる。

「…あ、飛行機の時間だよ。」
「〜〜っ!!もう!淳のバカ!!大っ…」

そこで名無しさんが視線をそらして、真っ赤になりながら俯き…
小さな言葉で、でも僕だけに聞こえるように呟いた。

「…好き。」

ふかくにも僕も言葉を失ってしまった。
そして慌てて手で口を隠す。

「…じゃあね!」

真っ赤になりながら、名無しさんは搭乗口に行ってしまった。
その後ろ姿を見て、改めて思う。
名無しさんを好きになって、よかったと…――。

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