ストレートティー 〜私の想い、あなたの気持ち〜



21歳の冬、高校の時の同級会が行われるとの連絡が着た。
日付を確認すると…特に用事はない。
日付的には次の日も何も用事がないという、ばっちりな日だ。

ただし一つだけ問題があるとすれば・・・

私自身の、気持ちだけ。

***

私の高校、特に私の学年には、サッカーの選手が何人もそろっていた。
サッカー界では黄金世代と呼ばれているらしい。

岬くんをはじめとして、石崎くん、来生くん、滝くん、高杉くん、森崎くん・・・
一個下の学年では新田くんが、今もサッカー界で活躍している。

そして・・・

私の悩みの種、井沢くんもその一人。

私は井沢くんと高校3年間ずっと同じクラスだった。そして1度だけ席が隣になり、2度だけ一緒に帰ったことがあった。
2度目に一緒に帰った時は、手を繋いだ。

たった、それだけの関係。

だけど、あれから4年立っているけど、いまだに井沢くんを越えるくらい恋愛感情を持てる人は居ない。
井沢くんのことを今も好きかどうか聞かれると…好き、なのかも。
ただのクラスメイトなので、連絡は取り合ってないけど、井沢くんは横浜マリノスの選手。テレビにも出て、活躍している。
テレビで彼のプレイを見る度、いつも釘付けになってしまう。
彼の真剣な目を見る度、一緒に帰った時のことを思い出してしまう。

そんな彼にももちろん同級会の連絡がいっているはず。

正直、物凄く会いたい気持ちと、会いたくない気持ちと、私の心はその二つの気持ちで揺れていた。
だから参加するかどうか迷っている。

忙しい彼が来る確率なんて、半分もないくせに。

***

・・・結局、友達の「会いたい!」という声に乗せられてしまい、店の目の前まで来てしまった。

えぇい・・・!こうなりゃヤケだ・・・!!

思い切って店のドアを開ける、そこには…


「あ〜!!あい久しぶり〜!!」
「こっちこっち!!」


懐かしい級友の顔が既に何人か揃っていた。
私は懐かしさに心を躍らせる。
と同時に、辺りを見回して彼がいるか確認する。

・・・・・・居ない。

私は何だか複雑な気分になった。
でもそうだよね、忙しい身だもん。

「あれー?そういえば今日岬や石崎や井沢はくるのかー??」

自分の考えていたことを友達が突然幹事に聞いて、心が読まれたのかと思い、思わずびくついてしまった。

「あー、あの3人は忙しいから、まだわかんないって言われてたんだよね。」

わからないって…さすが有名なサッカー選手。
とりあえず席について、友達との懐かしい再会を喜びあった。

***

「おーわりぃわりぃ!遅くなったな!!」

その声に、みんな会話を止めて声の方を向く。

「お、来たな石の湯のおぼっちゃん!」
「せめて今を輝くサッカー選手といえよ!!」

そのやりとりに笑いが起こる。
私はというと・・・笑顔のまま固まっていた。
私の目の錯覚じゃなければ、石崎くんに岬くんに・・・・・・

・・・・・・井沢くん!!?

お、落ち着くのよ私!井沢くんはただのクラスメイトただのクラスメイト、

ただの・・・クラス、メイト・・・?

バカな私は、自分を落ち着かせようと暗示をかけつつ、さらに自分をへこませていった。
そんなことを一人でやっていると、3人ともバラバラにみんなの輪に混じっていた。

「ここ、いい?」
「あ、うん」

気がついたら岬くんが隣にきていた。

「名無しさんさんとはあまりしゃべったことなかったよね。」
「そうだねー、だって岬くん、いつも誰かに囲まれてるんだもん。」
「そんなことないよ、いつも石崎くんと一緒にいたからじゃないかな?」
「確かに、石崎くんはクラスの盛り上げ役だったもんね!」

高校生の時の話に花を咲かせる。
結構岬くんは話しやすい、あまり喋ったことはなかったけど…これも岬くんの天性の才能なのかな?
誰とでもすぐ仲良くなってる気がする。

「そういえば岬くん、ずっと南葛にいたわけじゃなかったんだっけ?」
「うん、父さんと一緒に色々な所を転々としてたよ。でも日本では南葛に一番いるかな・・・、あと一番印象に残ってるのもやっぱり南葛なんだ。」
「そうなんだ!じゃあ南葛が岬くんにとっての故郷だね!」

そういうと、岬くんはきょとんと目を丸くした。
あれ?変なこと言ったかな?と不思議がってると、今度は笑い始めた。

「何か変なこと・・・言ってた?」

岬くんはまだ笑いながら「違うんだ、ごめんね」と言って続けた。

「そう言ってくれたのって、二人目だなと思って。」
「え?」
「実は井沢にも同じことを言われたんだ。」
「・・・え?」

意識している人の名前を出されて、一瞬止まってしまった。そして井沢くんを見る、井沢くんは友達と笑いながら会話していたが、こちらに気がついたのか目があってしまった。

「・・・名無しさんさん?」

岬くんに名前を呼ばれてハッと意識を戻し、何でもないよと笑いながら答えた。

あの後も岬くんや色々な友達と色々な話をした。
でも結局、井沢くんとは一回だけ目が合ったきりだった。
私が何だか気恥ずかしくて、意識的に避けてたせいでもあるけど・・・。

***

「じゃ、次行く人〜!!」

そのまま一次会は時間がきてお開きになって、みんな外にでた。
私は井沢くんと話せなかったな・・・とぼんやり考えていた。

井沢くんは2次会行くんだろうか・・・?でも、忙しそうだし・・・
今日のうちに気持ち伝えて、もう切り換えなきゃいけないのかなぁ・・・?

ぼんやりとそんなことを考えてると、誰かに引っ張られて転けそうになった。

「俺と名無しさんさん、2次会行かないから」

はっ!?と思い顔を上げると・・・

・・・井沢君!?

騒がしかった周りも静かになった気がする・・・。

頭が追い付かず、ずっと「え?」 と連発していると、井沢くんに手を引かれてみんなと逆方向に歩き始めた。
後ろからは復活したみんながヤジを飛ばしている声が聞こえる。
私は恥ずかしくなって井沢くんに声をかけた。

「井沢くん・・・?!どうしたの!?」
「別に・・・」

そのまま井沢くんは無言になり、私の手を引いて歩き続けた。
でもさっきより手を引く力が弱くなっている気がする。
私は今にも爆発しそうなくらい鼓動が早くなっていた。
そして素直に井沢くんに従った。

***

しばらく歩いていると、懐かしい道を歩いてることに気がついた。
ここ、高校の時の帰り道・・・。

「・・・あれからさ」

急に井沢君が話し始めた。私は静かに耳を傾ける。

「・・・あれから、全く帰り合わなくなったよな・・・」
「・・・あ、うん・・・」

多分井沢君が言ったのは、2度目に一緒に帰った時のこと。そう言えばあの時も手を繋いでいたっけ・・・

あの時は私から。
今は・・・井沢くんから。

「・・・まあ、俺はサッカーやってたから遅いのが当たり前だったけど。」
「私は早く帰ってたからね」

そうだよな・・・と井沢君が呟いた。

「実は・・・名無しさんさんと一緒帰るの、結構楽しかったんだよな・・・俺。」

その言葉に思わず井沢くんを見る。
そう思ってくれてたなんて、知らなかった・・・。

「え・・・と、それは、私も・・・」

あのあとも、何度か帰り道にあの自販機の前で止まってみたが、なかなか井沢くんは現れなかった。
当たり前だけど。

「そりゃ嬉しいな。」

井沢くんが優しく笑った感じがした。
胸が締め付けられる。
こんな時に改めて井沢くんが好きだったんだなという気持ちに気づかされる。

今も、だけど。

「・・・私・・・っ」

俯きながらこのまま自分の気持ちを伝えてしまおうかと、口を開きかけた。
だが、井沢君が話したことによってそれが遮られた。

「・・・っと、着いた。」

井沢くんが私の手を離した。えっ?と顔を上げる。
そして横が光ってるのに気がつき、横をみてみると・・・

「あ・・・」

あの時の自販機があった。
何を考えてるのかわからないけど、井沢くんはここに私を連れてきたかったのだと初めて気づく。

ここは私と井沢くんにとっての思い出の場所・・・。
ここで井沢くんと初めて話して、ここで井沢君を好きになった。

井沢くんにとっても、ここは大切な場所だって思っていいのかな・・・?

そう思い始めると、もう自分の気持ちをコントロールできない。
我慢できない・・・
私、井沢くんが好き・・・!

「・・・井沢くん・・・あのね・・・っ!?」
「・・・ん?」

井沢くんがこっちを向く。
私は段々気持ちが溢れ出てきて、涙がでそうになった。

「あの・・・私、井沢くんのこと・・・!」
「・・・!名無しさんさん、待って!!」
「・・・え・・・」
「だめだよ、その先は・・・俺は聞けない。」

「・・・っ」

"聞けない"

拒否の言葉。

・・・ダメなの?
言うことも、許されない?
私の気持ち、どうしたらいいの…!?

井沢くんの言葉に自分の気持ちだけが溢れかえり、涙が止め処なく出てきた。

「・・・名無しさんさん・・・」
「・・・やだ!私言いたいの!言わせて!?」
「名無しさんさん、落ち着け!!」
「だって、私・・・私、井沢くんのこ」

そこで急に喋れなくなった。
井沢くんの手が、私の口を塞いでいた。

「・・・ごめんな・・・」

私は頭が真っ白になった。ショックだった。

そんなに聞きたくないの・・・?
だったら何故私の手を引いたの?

私をここに連れてきたの・・・?

そんなことを考えてると、目の前でガタンと音が鳴った。
いつの間にか私の口から手を離した井沢くんが、自販機の中からペットボトルを一本取り出した。

こんな時に井沢くんは悠長にジュースなんか買って・・・!

すると、井沢くんが今買ったペットボトルを私に差し出してきた。

「ミルクティー・・・みたいに甘いこといえないから、今回はストレートティーで我慢してくれ。」

確かに井沢くんが持っているペットボトルの名称は、"ストレートティー"だけど・・・

私は井沢くんの言っている意味が全くわからなくて、泣きながら井沢くんを見た。

「俺、名無しさんが好きだ。」

その言葉に、思わず固まってしまった。
あんなに拒否しといて、好きだなんて・・・。
そう考えてると、私は井沢くんに抱き締められた。

「泣かせて、ごめんな。でも俺、どうしても自分から言いたかった。言わなきゃ、気が済まなかったんだ。」

そう言うと、井沢くんの抱きしめる力が少し強くなった。
少し井沢くんの声も震えてる気がする。
井沢くんも同じ気持ちだったんだ…と何だかホッとして、心が暖かくなった。
そして井沢くんにこう答えた。

「ミルクティーもすきだけど、ストレートティーも大好きだよ。」
「・・・え?」
「私も井沢くんが、大好きです。」

***

「電話かけて良い?」
「うん、いいよ」

あのあと近くの公園に行き、2人で過ごしていた。

今は井沢くんが昔から仲の良かった来生くんや滝くんに報告の電話をしている。
2人とも凄く井沢くんの心配と応援をしてくれていたみたい。
そんな仲の良い幼なじみの関係、羨ましいな・・・。

「・・・っ、ばーか!!」

突然大声を上げ、電話を切ってしまった。
びっくりして見ているとそれに気がついたのか、「ごめんな」と言って苦笑した。

「あいつら、俺を茶化してきて・・・」

そう顔をしかめながら呟く。
そんな井沢くんに対して可愛く感じてしまい、笑ってしまった。

「・・・っ、笑うなよ!?」
「きゃっ!?」

そういってまた抱き締められる。
あたりの空気がまた静かになった。

「・・・寒いだろ?」

そう言って井沢くんは手を握ってきた。
井沢くんの手、暖かい・・・。
つい嬉しくて笑顔になる。

「井沢君いるから、寒く・・・ないよ?」
「・・・、そうか・・・」

顔が見えないけど、井沢くんも笑ってくれてる気配を感じる。




まさかこういう風になると思ってなかった自販機の前での思い出。

あの自販機は、私たちの恋のキューピッドなのかもしれない。

・・・ね、井沢くん?






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こちらも同じく「ワカドシヨリ〜実は青春真っ只中〜」のみる様、結宇様に捧げた井沢ドリーム、ティーシリーズ完結編です!
こちらも文を少し修正しました。

何年越しの恋・・・井沢くんは必ずこういうのはきっちり決める時を決めて、行ってくれるタイプかなーと思ってます。
そして私の趣味で、岬くんと仲がいいです(笑)

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