Happy surprise day



太郎君がフランスに行ってから、一年が経とうとしていた。
今は、遠距離恋愛している太郎君と電話をしている。

「・・・それでね、今日は早く上がれたから、久々に夕食気合入れちゃった!」
「いいな、名無しさんちゃんの料理、久々に食べたいな。」
「も、もう、太郎君ってば・・・」
「だって、僕にとってはごちそうだよ、ものすごく美味しいし。」
「・・・煽てたって、何も出ないよ。」

太郎君はたまにそうやって、突然ドキリとすることをストレートに言ってくる。
私は、電話ごしに照れがバレない様になんとかすねて誤魔化してみた。
でも、そんな私の態度も恋人である太郎君にはきっとお見通しで・・・
今も電話口から笑い声が聞こえてきた。

・・・ああ、会いたいな。
正月に彼が日本に帰ってきた以来会ってないから、もう4、5ヶ月は会ってないのか・・・

ふと、カレンダーを見た。

(・・・あ)

「・・・」
「・・・?名無しさんちゃん、どうしたの?」
「・・・!あ、ああと・・・ごめん、何でもなかった!」
「え?」
「えと・・・誰か来たと思ったら、ただ風が強かったみたい。」
「・・・大丈夫?」

あ、やばい。
ごまかしたつもりが、余計に心配させちゃったかな・・・。

「大丈夫大丈夫!これでももう一人暮らし7年目位だし!」
「何、その根拠・・・でも」

クスクス笑っていた太郎君の声のトーンが、変わった。

「本当に何かあったら言ってね?名無しさんちゃんは女の子なんだから。」
「・・・っ」

いつもの柔らかい声じゃなくて、真剣な太郎君の声は、少し低くて私の心に響く。
いつもながら、その声には慣れない。
まるで、耳元で囁かれてるみたいで・・・

「・・・わ、わかってる。大丈夫だよ・・・?」
「・・・名無しさんちゃんは無理する時もあるから、我慢しないでね?」
「・・・うん。」

物凄く、ドキドキする。
さすがは太郎君。
もう6年の付き合い・・・実際はその前からお互い知ってたけど、それだけ付き合っているとお互いのことがよくわかるようになっていた。

ワールドユースの決勝のあと、私は思わず太郎君に告白をした。
太郎君は驚いていたけど、私と同じ気持ちだったって言ってくれた。
あれから、もう6年位経とうとしている。
太郎君もリハビリを頑張って、私もそれを支えられるように・・・と。
二人で頑張ってきた。
そして、ついに太郎君は夢を果たした。
念願の、海外デビュー。
私もすごく嬉しかった。
本当は、私も一緒に行きたかったけど、自分はまだ未熟だって感じたから、太郎君の誘いを断ってしまった。
でも、その時に約束した。
自分で「もう大丈夫」と思えたら、太郎君の元に行くことを・・・。
もともと看護系の大学に進んでいた私は、太郎君の怪我がきっかけで、看護の勉強をより励むようになった。
太郎君をいつも支えられるようになりたい・・・そう思って、少し栄養士の勉強もかじった。
もう少し・・・もう少ししたら・・・
正直、もう太郎君のもとへ行きたい。
でも、それは私のわがままだから。我慢しなきゃ。

あの後、少し話してから電話を切った。
もう一度カレンダーを見る。
次の週の次の日は・・・私の誕生日。
それで先ほどはそれに気がついて、一瞬止まってしまった。
最近忙しくて、つい忘れてしまってたけど・・・。

(太郎君、覚えてるかな・・・?)

きっと覚えてないだろうな、忙しいし、と思いながら太郎君を思い浮かべてクスクス笑った。

***

一週間後。
私は夜遅くまで起きていた。
偶然、自分の誕生日である明日は、仕事が休みであった。

夜更しできると思って、テーブルに顔をつけながら、DVDにとってあったフランスでの太郎君の試合を見ていた。

「・・・かっこいいな・・・」

遠く離れてるけど、太郎君は一生懸命頑張っている。
そして、周囲も太郎君の実力を認めている。
もともと実力がある選手だったし、何よりどこへ行っても適応力があるから、どんな選手ともすぐチームワークが取れる。
この人が自分の恋人だと思うと、凄く恥ずかしいけど、凄く嬉しい。
なにより、そんなこと関係なしに大好きなんだけど。

「・・・会いたいな。」

ボソリと呟く。
その私の小さな呟きは、画面の中の試合の音に飲み込まれていった。

時計をみると、0時を少し過ぎていた。

「あ・・・」

自分が誕生日を迎えたことを示していた。

「・・・はっぴーばーすでーじーぶんー。」

虚しいけど、画面の中の一生懸命な太郎君を見ながら、誕生日の歌を歌った。
そして歌い終えたら、「今日は何をして過ごそうかなー・・・」と、ぼーっと考えていた。

チャラーララーララー♪

その音に顔を上げて携帯を見ると、光って震えていた。

(・・・電話?誰だろ・・・えーと、着信、岬・・・太郎!!?)

慌てて体を起こして携帯を通話状態にする。

「も、ももももしもし!?」

思わず正座でどもりながら出てしまった。

「・・・ど、どうしたの?」

・・・うん、太郎君の声がした。
きっと太郎君にとってみたら、普通のことだったのに、今の私は誕生日を意識していたから太郎君のグットタイミングな電話に驚いてしまって・・・

「あ、あああ・・・ご、ごめん、なんでもないよ!?」
「・・・嘘だよね?」
「え、えーと・・・」
「・・・僕に言えないこと?」
「違うよ!?なんていうか・・・ええと・・・」
「・・・」
「・・・た、太郎君のことちょうど考えてたから・・・」
「・・・え?」
「太郎君の録画してた分の試合見ながら・・・ぼーっと考えてて・・・」
「・・・」
「・・・会いたいなーって、思ってたから・・・びっくりして・・・」

うん。私、嘘は言ってない。
ただ、自分が誕生日になったことを言ってないだけ。

「・・・なんか」
「・・・ん?」
「・・・恥ずかしいな・・・」

太郎君が照れて笑ってる感じが伝わってくる。
良かった、私の気持ちもちゃんと伝えられたみたい・・・

「ごめんね、こんな遅くに。起きてた?・・・て、ビデオ見てたって言ってたもんね。」
「うん、大丈夫だよ。この前伝えた通り、明日・・・というかもう今日かな?は休みだし。」
「そっか、よかった。」

そういって太郎君が安心するような感じが伝わってきた。
でも。
今日はいつもと何か・・・違う?
急に太郎君の方が黙っちゃったみたい・・・

「・・・どうしたの?」
「・・・え?」
「何か・・・あった?」

そんな太郎君を心配になって、声をかけてみた。
・・・どうしよう。
本当に何かあったのかな・・・

「・・・あの、さ。」
「・・・うん。」
「・・・とりあえず、玄関開けてくれると・・・嬉しい、かな・・・?」
「・・・え・・・」

それってどういう・・・
・・・え。
ま、まさか・・・

私はひとつの考えにたどり着いて、慌てて携帯を持ったまま玄関に行った。
そしてそのまま、鍵をあけ、扉をあけた。
そこには・・・

「はっぴーばーすでぃ、名無しさんちゃん。」

目の前と、持っている携帯から、同時に声が聞こえた。

「・・・嘘。」

驚いて、それしか言葉が出なかった。

「本当、だよ。」

目の前には携帯を片手にした太郎君が立っていた。
その太郎君が本当と言ってくれた。

やばい・・・
わたしは思わず顔を手で覆った。

「名無しさんちゃん!?」

太郎君が驚いていた。

ごめんね、太郎君。
嬉しすぎて、顔・・・見せられない。
私、今・・・ものすごい顔してる。

「・・・ごめ・・・っ」

そんな私の気持ちは、言葉にならなかった。
嗚咽で、うまくしゃべれない。
ああ、どうしよう・・・!!
本当に、本当に・・・嬉しすぎて・・・!!

「・・・びっくり・・・して・・・っ」
「・・・うん」

太郎君が落ち着いて聞いててくれる。
太郎君の声が、電話越しじゃなくて、目の前からすぐ返ってくることが、聞けることが、こんなにも嬉しいだなんて。

「・・・私、うれしい・・・っ」
「名無しさんちゃん・・・」

そういって、太郎君は私をギュッと抱きしめてくれた。
久しぶりに感じる太郎君のぬくもり・・・
凄く暖かくて・・・
なんだか、安心する・・・

***

あの後、玄関前だったことに気がついた私たちは、二人で赤くなってこそこそと中に入っていった。

「でも太郎君、あっちは大丈夫なの?」
「うーん・・・」
「うーん・・・って・・・」
「いや、僕、実は追い出されたんだ。」

ははは・・・と笑いながら言ってるけど・・・
え。
今、重大なこと聞いた気がするんだけど・・・

追い出されたって、言わなかったっけ・・?

「・・・ごめん、太郎君。私の聞き間違えかな?」
「・・・?」
「今、"追い出された"って・・・」
「うん、それが、そうなんだよね。」
「・・・!!!」

ちょ・・・!?
なんで!!?太郎君ぐらい実力のある人が!!
というか、太郎君はなんで笑ってるの!!?
あれ?今日エイプリルフールじゃないよね・・・!?
・・・うん、祝日ではあるけど!

私が目を白黒してると、太郎君が話し始めた。

「実はね、名無しさんちゃんのことを相談したんだ。」
「・・・え?」
「"今度誕生日なんだけど、どんなものをプレゼントすればいいかな?"って・・・」
「・・・」

た、太郎君・・・
そんな相談をしていただなんて・・・
思わず、赤面した顔を手で押さえた。

「そしたら・・・"日本に帰らなくていいのか?"っていわれて・・・」
「え、ええ・・?」
「昨日になってチケット渡されて"太郎は彼女のことを笑顔にするまで、帰ってこなくていいからね"って言われて・・・」
「・・・」
「・・・ピエールに。」

それは・・・ええと。
う、嬉しいんだけど・・・
ピエールさん、話は聞いたことあったけど・・・
・・・すごい人、なのね・・・

「監督にも確認したけど・・・」
「・・・う、うん・・・・」
「"お前は10日ぐらい首だ・・・でも、11日後には戻ってこい"って言われて・・・」
「え、ええー?」

フ、フランス人って・・・
みんなそんな人ばかり・・・なのかな?

でも、10日後ってことは・・・

「太郎君の誕生日も、こっちにいられるってこと?」
「・・・うん、そうだね。」

そういって、太郎君はふんわりと笑った。

「ねえ、名無しさんちゃん、突然来て申し訳ないけど・・・」
「うん、何?」
「・・・10日間、泊めてもらって・・・いいかな?」

本当に太郎君は申し訳なさそうに言ってきた。けど・・・
私からしてみたら、その申し出は・・・

「もちろん!私のほうがそうして欲しいくらいだから・・・」

10日間だけど、太郎君と一緒に生活できる!
本当に嬉しかった。

「ありがとう。」

太郎君も安心そうに笑った。
と、おもったら・・・何か思い出したような顔をして、カバンをあさり始めた。

「・・・?」
「名無しさんちゃん、ちょっと目を閉じてもらえるかな?」
「?う、うん・・・」

目を閉じる。
太郎君が後ろに回った気配を感じた。
なんだろう・・・?
しばらくすると、首のあたりに、何か冷たい感触を感じた。

「目をあけていいよ」
「・・・?・・・!!」

こ、これ・・・!
ネックレス・・・!?

「え、た、太郎君・・・」
「・・・誕生日プレゼント、だよ。」
「・・・!」
「・・・名無しさんちゃん、誕生日おめでとう。」

そういって、太郎君が後ろから抱きしめてくれた。
私は前にまわっている太郎君の手を掴んで、後ろにもたれながら、微笑んだ。

すごく、嬉しかったから・・・







―――――――――――
「ワカドシヨリ〜実は青春真っ只中〜」の結宇様に、誕生日のお祝いとして捧げました!

岬君の電話口の囁きとか・・・しかも低い声!!
聞いてみたい!囁かれたい!(笑)
そしてプレゼントのネックレスは、私の趣味です(笑)
ピエールさんたちフランス人は・・・そんなことをするのでしょうか?いや、しないな(笑)

結宇様、おめでとうございます!!

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