深夜、急に目が覚めて、喉が渇いていた。
水を飲もうと、冷蔵庫のところへ向かおうとしたら…。

…明かり?


Case5 〜Karl-Heinz Schneider〜



この家には、俺と名無しさん、二人しかいないはずだ。
名無しさんと同棲を初めてもう5ヶ月は立つだろうか。
ようやく彼女の家族を説得して、同棲までこぎつけた。
親は抵抗があったのだろう。
なんせ俺はサッカー選手。
普通の安定したサラリーマンとは違う。
まあ、親としては当たり前だろう。

でも。
それでも俺には名無しさんしか考えられなかった。
本当は結婚…とも思ったが。
もう少し経ったら…と考え直した。

そして、やはり彼女の親には信用してもらいたかった。
彼女の家族を壊したくなかった。
俺の家族も一度離れ離れになった経験があるから、余計にそれを感じて…。
彼女にはそんな苦しみを味あわせたくなかった。

そんなこんなで同棲を始めたが。
やはり俺の他にこの家には彼女しかいないはず…ということは。
この明かりは彼女の…?

俺はキッチンをそっと覗いてみた。
彼女は何か奮闘していた。
それと同時に、甘い匂いがした。
この匂いは…。

(ああ、そうか。今日は…。)

彼女の意図が分かると、笑いがこみ上げてきた。
本当に可愛いと思う。
同じ家に住んでるしバレるに決まってるのに。
俺に隠れてこんなことをして…。

ちょっとした悪戯心が生まれた。

「…名無しさん。」
「…っわ!?きゃ!?」

彼女を後ろからそっと抱きしめながら、声をかけてみた。
案の定、彼女は驚いていた。

「カ、カール…」

そして恐る恐る俺を見る。
そんな仕草が可愛く思えて、また笑ってしまった。

「…なによ、寝てたんじゃないの…?」
「偶然起きて、水を飲みに来ただけだが、明かりがみえて…な。」

彼女が「うう…」とうなっている。

「明かり、消しとけばよかった…」
「そしたら危ないだろ?」
「そうだけど…」

バレたら元もこうもないじゃない、と名無しさんは言う。
もうそんな名無しさんがおかしくて、可愛くて、笑いしかこみ上げてこない。
そのまま抱きしめる力を強くした。

「何を作ってたんだ?」
「うー…」

そう言いながら、彼女はレシピ本のある1ページに指を指す。

「…ザッハトルテ、か…」
「せっかくだし、チャレンジしてみたいと思って…」

調べたら、結構歴史のあるお菓子なのよね、と彼女はその本を見ながら言う。
母さんも昔よくザッハトルテを作ってくれたな…
昔のことを思い出して、ふっと笑う。

「…カール?」
「…ん?」
「どうしたのかな、と思って…ザッハトルテ、嫌いだった。」

心配そうに、不安そうに見てくる名無しさん。
その顔に苦笑してしまった。
不安にさせてしまったな、と…。

「…いや、昔を思い出してな。よく母さんが作ってくれていたんだ。」
「…そっか。いい思い出…なんだよね?」
「ああ、すごく美味しかったし、あの頃は父さんとも仲良かったからな。」

今もだけど、と付け加えて。
そうすると、そっか、と言って彼女が微笑んだ。

ふと気がつくと、名無しさんの頬にチョコがついていた。
さっき驚かした時についたのだろうか?
名無しさんが気がついている様子はない。

「…名無しさん?」
「…ん、なあに?」

また名無しさんは俺を見てくる。
そして俺は名無しさんの顔に近づき…

「…っ!?」

名無しさんの顔についたチョコを舌で舐めとった。

「カ、カール!?」

名無しさんは真っ赤になっていた。

「…やっぱり甘いな。」
「…え?え!?」
「頬にチョコがついていたんだ。」
「え!?…ふ、普通に言ってよ!?じぶんでとれたじゃない!!」

俺の腕の中で真っ赤になっている名無しさん。
可愛いな…。

「Schokolade macht gluecklich.」
「…え?」
「名無しさんは知ってるか?」
「う、ううん?」

名無しさんはその言葉に首を横に振った。

「今、その意味通りだと思って、な…」
「え、な、何…?どういう意味?」
「さあ、な…」

そう言って俺は名無しさんを見る。


「チョコだけじゃ足りないな…」
「…え」

そのまま名無しさんの唇に口付けをした。

「…!!」

そして離して笑いながら言う。

「俺は、チョコよりも名無しさんの甘さのが好きだ。」
「〜〜〜っ!!」

そして、名無しさんから離れ、キッチンのそばの椅子に座る。

「お前が作るのを待ってる。」
「…え、カール、明日練習は!?」
「…大丈夫、午後からだからな。」
「…は、恥ずかしいよ…」
「大丈夫だ、またチョコがついたら…」

――俺がとってやる。

その言葉に、名無しさんは恥ずかしそうにしていたが…。

「…うん、とってね。」

と、可愛らしく言って、また料理作業へと戻っていった。

俺は料理する名無しさんを見ながら、幸せを感じていた。
今年のバレンタインは、良い日になるだろうな、と…。

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