毎年2月15日は、松山光休日デー。
誰が決めたんだかしらねえけど、チームメイトやクラスメイトなど、俺と関わった奴らの間では大抵そうなってるらしい。
そして2月に入ると必ず、みんなが俺を通夜のような目で見てくる。
その理由は…――。



Case3 〜Hikaru Matsuyama〜



「松山ー!」
「…な、なんだよ…」
「もう、今日が14日なんだな…」

泣きそうな顔でチームメイトの小田が話しかけてくる。
小田は特に昔からの仲だったから、事情は全てわかっている。
そして気が付けば、みんな俺のことを哀れな目で見ている。

毎年のことなので、もういい加減ウンザリしてきた…。

「お前もう貰ったのか?」
「いや?まだだけど…」
「よかったー!!」
「てか、必ずしも俺がもらうとは限らないだろ…」

そう、俺がもらえるとは限らない。

今日は2月14日。
世の中ではバレンタインデーと騒がれている。
いつも俺は幼馴染である名無しさんからもらっている…が。
なぜか次の日、立てないくらいの痛みが俺を襲う。
去年は腹痛、一昨年は頭痛、その前は…
それでおれはいつも2月15日だけは必ず学校も、試合も休んでいた。
そのために、俺をよく知る奴らの間では、「2月15日は松山光休日デー」の方式が出来上がってるらしい。
でも、名無しさんもただの幼馴染。
もしかしたら名無しさんに好きな人ができて…という話もあるかもしれない。
そしたら俺はもらえないだろう。
…正直、そんなことは考えたくない。

いつも前に進みたいとは思うが、俺が名無しさんに告白しようとすると必ず邪魔が入る。
そうなり続けて、名無しさんからのチョコで15日を休み続けて、もう十数年になると思う。
もういい加減、自分の気持ちを伝えたいとは思うが…

「…ん?」

考え事をしていたら、小田が顔をしかめていた。

「なんだよ?」
「松山ってさ、本当にこういうことに関しては鈍いよな…」
「…は?」

俺がわけわからずに首をかしげていると、「もういい」と言ってため息をつきながら小田は練習に戻っていった。

なんだよ、あいつ…。

―――――

練習を終えてみんなで帰ろうと歩いていると…

「あ、光!!」

名無しさんが向こうから走ってきた。
「いいっ!?」「きたっ!」とみんな小さな声で言う。

「よかった、あえて…」

ちょっとまだ息を付いている名無しさんをみて、そんなにいそいで来てくれたのかと思うと少し胸が熱くなった。
そしてそれを悟られないように、少しだけ顔を背けて聞く。

「な、なんだよ…」
「あのね…はい、これ!」

笑いながら名無しさんは俺に差し出す。
それはラッピングされたものだった。
「おおー!」と後ろから声が聞こえるのは無視をして、それを俺は受け取った。

「…サンキュ。」
「よかった、渡せて…」

ほっと名無しさんが息をつく。
でもなんだかわからないが、俺は違和感を感じた。

「…じゃあ、私用事あるから!」

え…と声を付いている間に、名無しさんはまた走って行ってしまった。

おかしい。
俺は違和感がすごく強くなった。
いつもなら、「光!今すぐ食べて!」と言って食べさせられ、感想をせがまれる。
だけど今日は…
…本当に、用事なのか?
別に渡すやつができたとか…

考えてもしょうがないと思った俺は、その場でラッピングをとり、箱を開けた。

「ええ!?松山!?」
「…お、すげえ…」

とても整ったトリュフが何個も入っていた。
でも、このトリュフは…。

何も言わず、俺は口に入れて食べた。

「お、おい!松山!?」
「やめろー!!」
「はやまるな!!」

「これ…」

(違う…っ)

よく見ると、箱やラッピングは確かに市販のもの。俺も見たことはある。
けど中身のチョコは…

俺は何も言わずに走り出した。
仲間が俺を呼んでいた気がするが、それに応えてる暇はなかった。

―――――

「…見つけたっ」
「…!!…光…」

名無しさんは川原のベンチでひとりポツンと座っていた。
顔を見ると、なんだか元気がない気がする。

「…なんで、きたの?」
「…お前が…」

すぐそっぽむいて、川の方をむいてしまった。
俺は隣まで移動し、隣に座った。

「お前が、様子おかしいからだろ。」
「…!」
「…どうした?」

その言葉に名無しさんがうつむいた。

「…」

何も言わなくなった名無しさんを見て、俺はため息をついて気になったことを告げた。

「…チョコ…」
「!」

その言葉に名無しさんがぴくりと反応する。

「あれ、お前が好きな菓子屋のチョコだよな?」
「…バレたんだ…」
「お前「これ美味しいの!」っていつもうちに持ってくるだろう…」

やはりそうかと思った。
食べた時のあるチョコ。全然素人の手作り感じゃなかった。
その時点で気がついた。

「なんで…」
「私、いつも今度こそって思って光に渡すけど、いつも失敗しちゃって…光が…」

ポツリポツリと名無しさんが本当の事を話し始めた。

「なんで私光のためのつもりなのに、失敗しちゃうんだろうと思って、市販ならきっと光に迷惑かけないし…どうにかしても光に渡したくて…」

名無しさんが溢す言葉と共に、雫も溢れてくる。
すごく抱きしめたい…その涙を拭ってやりたい。

「でも、やっぱり手作りで光に渡したくて…」
「じゃあ…一緒につくろうぜ。」
「…え?」

俺の言葉に名無しさんが驚いて俺を見る。
笑いながら俺は告げる。

「二人でやれば、どこが悪いのかわかるだろ!だから作ろうぜ!!」
「きゃ…っ」

そういって俺は名無しさんの腕を取り、引っ張ってチョコの材料を買いに向かった。

今はまだ、頑張ってる名無しさんの姿をただ応援したい。
それでいつか名無しさんが一人で作れるようになったら、ちゃんと告おう。

でも、俺が我慢できなくて今日告っちまうかもな。
覚悟してろよ、名無しさん!

※今年の15日、松山くんは休みませんでした。

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