Beast



僕の御守り*

(ゾロミチ×ルフィシロウ)



君のその言葉は
僕の心を惑わせる。

嗚呼、どうして、
僕は君がすきなんだろう。




冬の寒さに肩を揺らせば、腰にある刀がカチカチと鳴って。眼鏡越しに丸い瞳と目があった。
さむいの?とでも、あの愛しい声で聞いてくれるのかと、期待すれば、
「勉強に集中できない。」
とぷいっと顔を逸らされて。
なんだよ。心配してくれたんじゃねぇのかよ。なんて、悪態はつけない。なぜなら、神経質なルフィシロウの隣を、こうやって歩けるだけで充分に幸せなのだから。

俺とコイツは恋人同士。
それでも、きっとルフィシロウが好きなのは、俺みたいな馬鹿より、今も眺めている参考書で。
付き合って暫くは、時間が勿体ないと一緒に出掛けも出来ず、やっと何処かへ行くとなっても、何かあるごとにブチギレられて、デートは無茶苦茶。受験が近付いた、この冬からは更に気がたっているのか、話しかけるなとまで言われてしまったわけで。
どうにか許された2人きりの下校デート。まぁ、デートと言っても俺がルフィシロウの家までただ黙って隣を歩くだけ。
でも、それでいいんだ。俺はそんな理不尽にも一直線に突っ走るコイツがすきなんだから。だから、せめて一緒に過ごす時間を増やそうと同じ様に机に座って教科書を開いた所で、ハーバーディ大学なんて、不良の俺にはレベル違いな学校で。結局、俺は進学を諦め、親の店を継ぐことになった。
試験勉強を必要としなくなってからは、更に恋人と過ごせる時間を作ろうと努力したのだが、それが逆にルフィシロウには負担だったのかもしれない。
さらりと黒髪を揺らして、参考書に落とす瞳を眺めて。時折、眼鏡を上げる白い指先にドキリと胸が跳ねた。
ルフィシロウだって、念願の大学に合格出来れば、その綺麗な瞳に俺を映してくれるだろう。甘いその唇で難しい公式なんかじゃなくて、俺の名前を何度だって呼んでくれるだろう。
…なんて。ただの思い上がりだろうか?

念願の大学に受かれば、きっと今みたいに毎日は会えない。俺みたいな馬鹿なんかじゃなくて、話の合う大学の仲間と遊んで、恋をして…

俺を忘れてしまったりしないだろうか?



「僕がハーバーディ大学に受からなかったら、ゾロミチ君のせいだから。」



ぽつりと呟かれた言葉に、はっと現実に引き戻されて。また何かしてしまっただろうかと、相手の様子を窺えば
「ほら、寒いんでしょ?」
と参考書をパタンと閉じた温かな手が俺の手を取って。ことんと小さな頭が冷えた肩に傾いた。


「勘違いしないでよ。別に僕は、」
「すきでやってるわけじゃなくて、隣にいる奴が煩いと勉強に集中できないから、だろ?」

自分を否定されるのが恐くて、先手を打てば、ピタリとルフィシロウの足が止まって。


「そんなこというなんて、許さないよ!」


と潤ませた瞳で俺を睨んで、顔を真っ赤にした。
いつものブチギレモードとは違い、身体から蒸気は出ていないし、何故だか肩も震えている。
とてもとても怒っているくせに、今にも泣きそうなのだ。

「…ルフィ、シロウ?」
そっと眼鏡越しに瞳を覗けば、確かにそこには間抜けな顔をした俺がいて。


「勘違いしないでよ!僕は別にゾロミチ君のことが嫌いなんじゃない!ただ、」
そう叫んだ声が愛おしくて、
「ただ…」
ぽたりと落ちた涙が余りにも綺麗で、


「君がすきでどうしたらいいのか、わかんないんだ!」


そう静かに、ぴたりと引っ付いた温かな唇に、俺は瞳を見開いた。




自販機で買ったカフェオレを差し出せば、鼻を赤くした恋人が恥ずかしげに俯いた。
「こんな気持ち、初めてで。ハーバーディ大学に行きたくてここまで頑張ってきたのに…。」
きゅっと俺の手を握れば、
「君と会えなくなるかもしれないと思うと、何も考えられなくなっちゃうんだ。」
なんて。




「すきだ。」



そう囁いて抱き締めて。キリリと締めた鉢巻きをズラして、額にそっとキスをした。

「もし、お前がハーバーディ大学に受かったら、」
眼鏡越しにあたふたする、可愛い瞳を独り占めしたくて、小さな顎に指を掛けて




「結婚しよう。」




ぱっと開いた瞳から、また真珠みたいな涙が落ちて
「まぁ、受からなかったら無条件で俺の家に嫁いでもらうからな!」
と震える背中を抱き寄せて、照れ隠しにぽんぽんと撫でた。




冷たい帰り道、君のピアスが揺れる度、心が震えた。
好きなのに、勉強とのバランスが取れない自分に腹が立って。いっそ、嫌われてしまいたいと君を突き放したりもした。

嗚呼、何故こんなにも君がすきなんだろう。
嗚呼、どうしてノートの隅に君の名前を何度も書いてしまうのだろう。

君の隣で参考書を開いて、その答えを調べたって、わかりやしないのに。

僕はその文字の海から瞳を逸らすことが出来なくて。君の瞳を見つめることが、出来なくて。




勇気を出して、触れた唇は思った以上に熱くて。
見つめた瞳は柔らかだった。




小指を絡めて、

「精一杯がんばるよ。」
そう、2人で笑って、



カフェオレ味の誓いのキスをした。










2013/01/13
/そっと、マフラーの下に隠したキスマークは、未来の約束と共に受け取った、大切な大切な僕の御守り。




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