Beast



星に手を伸ばす魚




きらきら輝く星が
まるで笑いかけているようで。





おいで、とでも言うように開かれた腕に、そっと身体を預ければ、優しいキスが降ってきて。
「…ルフィ」
なんて、いつもとは違う未来の大剣豪の寂しげな声。
他の誰も気付かなくたって、おれにはわかるんだ。寂しいんだなって。不安なんだって。

「どこにも、行くなよ。」

そう呟いて、抱き締めてくる腕にぎゅうっと力が加わって。更に身体が密着すれば熱い筈なのに、この高い体温がおれには必要なんだと思えて
「行くわけないだろ、ばか。」
大きな背中に回した腕に、おれも負けじと力を込めれば、元気に返した筈の声が何故だか少し震えた。




静かな見張り台でふたりきり。
きらきら瞬く星は手が届きそうなほど近いのに、どれ程腕を伸ばしたって届かないんだ、とおれは小さく笑った。
「ゴムでもか?」
そうからかうように返した恋人の肩に頭を傾けて、コクンと頷いて空を見上げれば、かじられたような形をした月がおれたちをぼんやり照らした。


「すき。」


ぽつりと洩れた言葉は、静かに揺れる波に溶けて。
「だから、ずっと傍にいるんだ。」
すぅっと頬に当たる夜風が冷たくて、あぁ泣いているのか、とどこか客観的におれは考えた。

「…そうか」
と大好きなあの声がまた寂しげに響いて、そっと身体を抱き上げられれば、安心できる膝の上に向かい合わせに座らされて。優しい親指で頬の涙を拭われれば、堪えきれなかった感情が後から後から溢れ出て、ポタポタとゾロのシャツを濡らした。
柔らかな唇を塞いで、髪を撫でられれば、それだけで幸せで。こんなにすきなのに!どうして伝わんないんだよ!そう考えるだけで、苦しくて仕方なくて。熱い舌を甘く噛んだ。






不安げに涙を溢す綺麗な瞳に、そっと絡めた舌。密着する身体を離すものか抱き締めて、

「愛してる」
小さく小さく囁いた。



近頃、嫌なビジョンが頭を過る。それはきっと、遠くか近くか変えられない未来。占いや予言は信じやしない。でもこれは、そのどれとも少し違っている気がして。


地面が揺れて、仲間の悲鳴に叫ぶ声が耳に響くそんな中、腕を伸ばしたルフィが、俺の名前を叫んでいて。
見開かれた瞳に、傷だらけの身体。悲しみに歪むその心を抱き締めてやりたいのに、

俺の意識はそこでプツリと途絶えるのだ。


こんな未来必要ない。望みやしない。
でも、もしも、この腕からこの愛しい体温が消えてしまうなんてことあったら。そう考えるだけで、臆病な俺の心は焦るんだ。




キラリと落ちた星を拾おうと手を伸ばしたって、触れることは出来なくて。俺もルフィと同じだな、と小さく苦笑して、泣き疲れて眠ってしまった愛しい船長の髪を掻き上げた。


相手を心配するフリをして、震えているのは自分なんだ。

そう溜め息を付けば、恋人の身体が小さく揺れて。



桃色の頬をふわりと撫でて、額をコツンと合わせれば、


「絶対に、お前をひとりにはしないから。」


そっと呟いて




静かに静かに唇を重ねた。






煌めく星は掴めなくとも、
星空はいつも私を見ていてくれる。
だから、私は恐くはないんです。

そんな風に強がりを呟いて
小さな魚は泡を吐いた。










2012/10/12
/近くにあるものを永遠だと言う人は、星に手を伸ばす魚と同じ。




*

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