Beast



case by case


すき、と呟いてふと気付く。
あぁ、この言葉にはたくさんの意味がある。




秋空を見上げ甲板で眠る、ゾロの腹を枕代わりに寝転がって
「すきだぞ」
と呟いてみる。
高い雲がおれを見下ろして、ふわりと涼しい風が頬を擦った。

すき、そう告げた唇が何故だかこそばゆくて、手の甲でゴシゴシ拭えば、不思議なほどに高鳴った鼓動が胸を打って。泣きたくなって、その場から駆け出した。



いつもと違った感覚。
違う意味を持ち始めた言葉。



まだまだ恋に疎い船長はきっと気付きやしないけど。
隣で頬杖をつく橙色の髪を見つめて、代わりにオレが溜め息をつく。
「ゾロは気付いているのかしら?ルフィの気持ち。」
気怠げなその声がまだ蒸し暑い夏の空気に溶けて、消えた。
「さぁな?少なくとも、あの鈍感なキャプテン様は自分の恋心にも、オレの隣で泣き泣き想いを寄せる、乙女の気持ちにも気付いてはいないようだぜ。」
ふと、視線をやった航海士が涙を溜めた瞳を向けて
「あら、誰のことかしら?」
なんて呟くものだから、オレは小さく息を吐いて、優しい声で囁いた。

「それでも、オレはそんなアイツがすきだと思うけどな。」

ニッと見せた白い歯に、整った綺麗な顔がふにゃりと崩れて
「ウソップには、負けるわ。」
とわざとらしい溜め息をついて。

「私だって、あんな鈍感で頼りない船長、だーいすきよ!」
子供っぽく返ってきた言葉とは裏腹に、潤んだ瞳は窓から見える剣士と船長を眺めて。長い睫毛がふるりと揺れた。




すき

すき

すき


皮肉のすき、
それはきっと裏返しの意味。

単純なすき、
それはきっと友達止まり。

複雑な、すき
それは




相手に伝えたくて堪らない
澄んだ色をした真っ赤なハート。




2012/10/10
/想いを伝えたいなら、考えて?ほら、言葉はcase by case。愛している、とは違うのよ?




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