純白ネクタイとシンデレラ*
(新婚さん)
真っ白に洗い上がった
トナカイ柄の筈だったネクタイ。
雪のような美しい純白に
寒く冷たい足元を想った。
「ただいま」
と玄関に進めば、飛び付いてくる細い身体。柔らかな洗剤の香り。
涙を溜めた可愛い瞳が俺を映して、
「どうしよう…」
と不安げに呟いた。
もうすぐクリスマスだなぁ、なんて、まるで子供みたいに気早く笑った今朝のルフィの手の中にあった、俺のネクタイ。お気に入りだ、と言ってネクタイの中を堂々と歩くトナカイを眺めては、撫でていた細い指先を思い出して、ふと気付く。真っ白なネクタイに微かに残った、柄の跡。
あぁ、なるほど。と愛しい黒髪を撫でて、優しく抱き締めた。
クリスマスまで、まだまだ時間があるというのに、トナカイさんを綺麗にしてやろうと、誇らしげに笑う奥さんの顔が頭を掠めて。意地悪いと感じながらもクスリと笑みが漏れた。
ルフィのことだ。きっと漂白剤を大量にいれた洗濯機で、このネクタイを洗ったんだろう。
「また新しいのを買えばいいだろ?」
そっと囁けば、今にも涙が溢れそうな潤んだ瞳が返ってきて
「じゃあ、明日、同じの買ってきて。」
悪気のない我が儘が、甘い吐息と共に溶けた。
仕事帰りに寄った百貨店にずらりとならんだ男性ものの靴下、シャツ、ネクタイ。たくさんあるそこから、目当てのものを捜すなんて無自覚方向音痴のゾロには至難の技で。
数十分歩いただけで、気づけばそこは違うフロア。
愛らしいリボンが着いたコートに、ボア付きニット。手に持ったネクタイに負けないくらいに綺麗な雪色をしたムートンブーツ。そっと手に取ったブーツは軽くて、ふわふわと柔らかなファーがなんとも愛らしかった。
これから寒くなる時期に、こんなブーツは暖かいのだろう。ファッションに疎いゾロにでも、防寒を思えばそれはとても良いものだと思えて。
手に持った紙袋の中身は、自分のためのネクタイではなくて。愛しい彼への可愛い贈り物。
「おかえりなさいっ」
とエプロン姿で駆けてくる軽い身体を抱き上げて、リビングに向かえば、そっとソファーに座らせ、可愛い額にキスをした。
「ネクタイは見つからなかったけど、これ…」
改まったプレゼントは、何だか久々で。少し照れながら差し出したそれに、真っ黒な瞳が見開かれて。ふわりと甘い笑みが溢れた。
そっと足をいれたブーツは、サイズが合わずにブカブカ。
それでも、ほんわか温かで、涙が出るほど愛しくて。
思った以上に大きなサイズのブーツに、謝罪しようとする旦那様の唇にちゅっと小鳥みたいなキスをして
「トナカイさんは一緒に捜しに行こうなっ」
とニッと笑った。
かぽかぽと鳴るブーツで駆けて
暖かな手を握れば
真っ白なネクタイが隣で揺れて。
まだまだジングルベルが鳴らない夜に
雪陰に隠れてしまったトナカイを探して
愛しいふたりがフロアを歩く。
ほら、ここにいるよ
そう笑うトナカイを探して。
/雪夜に迷ったおっちょこちょいなトナカイさんを探すのは、これまた不思議な純白ネクタイとシンデレラ。
2012/10/09
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