無知な箱入り娘
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すきならすきって言えばいいなんて
そんな簡単なものじゃないんだよ
初めはなんとも思っていなかった筈なのに。あの金髪が揺れる度、泣きたくなるほど愛しくて。苦しかった。
お腹が空いた、と理由をつけて。またかよ、と、それでも笑う彼がすきで。堪らなくすきで。きっとおれの頭はおかしくなってしまったんだ。
男同士だってわかってる。サンジが女好きだってのも知ってる。でもそれでもサンジがすきで。伝えたくて、我慢できなくて。
伝えた後に向けられた優しく寂しい瞳は、蹴られたときより痛くて苦しくて。
「俺が、女の子がすきなの、知ってるだろう?」
ポンポンと髪を撫でてくれる手が、必要以上に熱くて。あぁ、このまま溶けてしまえばいいのに、なんて考えて。
おれは「そうだよな」と呟いて、笑って頷いた。
夕食後に甲板に出て、星を眺める。
あぁ、これが失恋なのか。なんて他人事みたいに笑って。泣いた。
悲しくて堪らなかった。嫌われた訳じゃない、でも。拒まれたのには代わりなくて。我儘な自分に腹が立って、伝えてしまった馬鹿な自分に後悔して。甲板の床をドンッと叩いた。
そんなことで気持ちが収まるはずないのに。
もう一度、床を見つめて振りかぶる。サンジの優しい笑顔が頭の隅にふっと見えて、拳にぎゅッと力が籠った。
愛しさが込み上げて、また目の前が揺れた。
「そんなメリーを苛めてやるなよ」
そっと掴まれた腕に驚いて振り返れば、そこには、ゾロがいて。
珍しくも甘い笑みを浮かべながら、おれをぎゅっと抱き締めた。
「殴るなら、俺を殴れよ。」
ゾロの言う意味がわからなくて、抱き締められている理由さえ理解できずに、相手の顔を見上げれば、何故だかゾロも泣きそうで。
「メリーでもなく、サンジでもなく…他の何でもなく…」
どうしてそんな声で囁くの?
どうしてそんな風に笑の?
どうしてこんなに温かいの?
どうしてどうしてどうして…
「俺を殴れよ、ルフィ…」
そう呟いて、ピトリと唇が引っ付いて。
気付けばおれはゾロの頬を、振り上げていたはずの掌で、思いっきり叩いていて。
呆然と立ち尽くしたまま、相手の赤い頬を見つめて。それでも笑いながら、腕を開くゾロを見つめて。
おれは声を上げて、わんわん泣いた。
意味がわからなかった。
殴った掌がじんじん痛んで、わからないことが恐くて、何度も謝って。震えながら大きな胸に抱き付いた。
これが「愛」だなんて
まだ知りもしなくて
すきならすきって言えばいいなんて
そんな簡単なものじゃないんだよ
相手を思って拒絶するのも
相手のために犠牲になるのも
全て全て貴方のため。
ほら、
気づかない貴方はまだ箱の中。
恋の仕方さえ知らない
無知な無知なお姫様。
/無知な箱入り娘の楽しみは、ただ隙間から外の世界を見ることだけでした。
2011/06/29
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