Beast



おれの


大切なものには
失さないように名前を書いて?






暑い夏、船の中で一番涼しい場所と言えば、図書室で。トレーニングを終え、昼寝の前に読書に向かう。
俺が読む本と言えば、ナミやロビンが読むような、あんな難解なものじゃない。トレーニングに関わる肉体についての本だとか、刀の手入れについての本、そして昔からよく読んでいた賞金リスト。

最近の俺は、気付けばよく賞金リストを手にとって、高額の海賊達を眺めている。もちろん、海賊狩りに戻る気はない。今は俺も本の中から雁を飛ばす、コイツ等と同じ海賊なのだから。
ただ気になるのは、こんな奴らがルフィの敵になるのだ、ということで。ルフィが海賊王に近づく度、こんな高額な賞金首達も近付いてくるのだ。
俺も強くならなきゃならない。勿論、負けてやる気は更々ないのだが。






ふと目が覚めれば、腹に温かな感触が。

「ル、フィ……」
と腹の上の愛しい存在に手を伸ばして、優しく髪を解いてやれば、何故だか機嫌悪そうな瞳で睨まれた。
その後、首に何やら札を掛けられれば…
「ずっと付けとけ!船長命令だっ!」
と不意打ちにキスされた。



可愛い人の不機嫌の理由が分からず、仕方がなくナミに相談してみれば、首からかけた札を見てクスクスと笑われた。
「で、名前を付けたわけね、アイツは。」


ことの発端は、最近俺が賞金リストを見ていたことらしい。


「最近、よく賞金リスト見てるじゃない?で、ルフィがそんなアンタを見てたみたいでね、何がおもしろいんだろうなーとか喋ってたのよ。」
泥棒猫だとか呼ばれる相手に、情報料として仕方なくチップを渡す。仲間相手に金なんか取るなよ、なんてコイツにだけは絶対言えない。
「そしたらね、サンジ君が、リストの中に気になる奴がいるんじゃないかって言ったのよね。」
こうなりゃ金よりルフィだ。真剣に相手を見つめて頷けば、目の前の整った顔がニッコリと微笑んで…


「それだけよ。」


「はぁ?それのどこに不機嫌になる理由があんだよ…」
と相手の一言に抗議の声を上げれば、側にいたフランキーがニヤニヤと笑う。
「船長が間抜けなら、その相棒も間抜けだな。」
やれやれと肩を竦めれば、作業の手を止め、フランキーはこちらに向き直る。
「よく考えろよ?自分の好きな奴に"気になる奴"が出来たら…意識するだろ?普通。」
「でも、俺は…」
とフランキーの言葉に「気になる」の意味が違うだろう、と返そうとすれば
「勘違いしてるのは私達じゃなくて、アンタの可愛い船長だけよ」
とナミが何かを俺に投げて…

パッと受け止めたのは、只のペン。
「アンタが寝てる間、ルフィはクルー全員に"ゾロは俺のだ"なんて言い回ってたのよ?だから…」

ルフィにかけたれた札に目をやる。
白い板に紐がついただけの安っぽい物だが、ルフィに書かれた文字があるだけで、なんとも愛しく思われて…
あぁ、なるほどな、アイツらしい。
なんて、笑ってみる。

「そんなに大切なら名前でも書いときなさいって言ったのよ。」

札に書かれた下手な文字は、確かに可愛い可愛いアイツの字。大きく書かれた、その文字は…


「おれの」






話を聞き終え、甲板に出てみれば、ルフィが凄い勢いで駆けてきて。そのままギュッと抱きつかれた。
「どこ行ってたんだ?ゾロのバカっ!」
ルフィの細い腕は、強く強く俺の背中に回されていて、外そうにも外れそうにない。

「ちょっと便所へな。」
今のルフィに本当のことを言えるわけない。本当はナミと話してました、なんて。

「ゾロはおれのなんだから、ずっと一緒にいろっ!これも船長命令だ!」
と理不尽に怒鳴られたって、嬉しいだけ。

「おれ以外の奴とは喋んなよ、これも船長命令っ」


だんだん増える、愛らしい我が儘。

そんなに焦らなくたって、
俺にはお前しかいないのに。




「あと、これも船長命れっ……」

新しい約束事を呟く前に、相手の唇を塞いでやる。ゴムのせいか日焼けしない真っ白な肌が、いきなり赤くなって
「ゾロっ!ちゃんと聞けよっ!」
と、またムッと尖らされた唇にキス。
少し照れたように視線を逸らす、愛しすぎる相手を優しく抱きしめて
「お前なぁ…俺はお前のなのは当たり前だが、その前に…」

ナミから借りたペンで、相手の頬、左目の傷の下辺りに自らの名前を書いてやる。
昔、捕まえた賞金首を政府に手渡す際に書類にサインしたように、滑らかに。でもそれと比べものにならない程に、たっぷりの愛を込めて。


「お前は俺のだろ?ルフィ…」


耳元で優しく囁けば、ルフィの瞳がパッと見開かれ、黒に自分が映っているのが見える。まるでタトゥーのように際立つ名前に、手を添えて
「ゾロ、の?」
と尋ねる相手が愛おしすぎて、苦しくて
「嫌か?」
と答えの決まりきった質問をすれば、ルフィは俺の胸の中でふるふると首を横に振った。


「おれはお前のだぞ、ゾロ。」








紡がれる言葉は、余りにも甘くて…

満足するまで抱き締めて、お互いの唇を合わせて、名前より確かな証を相手の首に残した。




お前は俺の
俺はお前の。










/目覚めたら頬に「おれの」なんて…油性ペンだぞ!
2010/07/30
(茉莉花様リク「積極ルフィとヘタレゾロ」)



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