Beast



甘い秘密*

(新婚ZL)


甘い甘い香りに
愛らしいハートを添えて…




「for you…」と書かれたベアの可愛いカードを買って、見つからないようにと、宝物箱にしまって。

去年は結局作れなかったから、と今年は沢山のレシピ本を買って、毎日毎日開いて眺める。


ウイスキーボンボンなんて、作れはしないけれど…お酒が大好きなゾロは、きっと喜ぶのだろう。

ガトーショコラなんて、作れはしないけれど…甘いものが苦手なゾロも、きっと食べてくれるだろう。

チョコレートマカロンなんて、作れはしないけれど………


本の挿し絵や写真を見ているだけで、甘い匂いがしてきそうで…

沢山のチョコレート達が、ルフィを見つめて…

「私を作って!」

と囁きかける。






背伸びしたって届かないものに、手を伸ばすなんて、馬鹿な話。

でも、でも、ルフィは一途なのだ。


「今年は、がんばるぞ!」
とエプロンをつけるルフィが見つめているのは、チョコレートマフィンの挿し絵。
ふんわりと膨らんだマフィンは優しくて、これなら愛しい人に想いが伝わるんじゃないかと願って。








オーブンを覗けば、5度目にしてようやく膨らんだマフィン達が並んでいて…

「やった。膨らんだっ!」
きらきらと輝いた瞳でマフィンを見つめるルフィの後ろでは、もう既に夕日が沈もうとしていて…

「ここで焦っちゃ駄目なんだっ」
と先程の失敗を思い出し、三角座りをしてタイマーを見る。

ほんの後、数分。

ついさっき焼いたマフィンは、膨らんだ途端開けられたオーブンに驚いたのか、萎んでしまって……

「ちゃんと、優しく、ゆっくり…」
何度もレシピ本を、指をなぞって読んで。



キッチンのテーブルの上には、カチカチのマフィンや、しなびたマフィン、上手く焼けなかった生焼けマフィンが並んでいて…

「ごめんな、上手に作ってやれなくて。」
と小さく謝ってゴミ箱へ。


そっとテーブルに取り出した、綺麗なマフィンに真っ白な粉砂糖を震って……

「お前達は、捨てられた仲間の想いも一緒に、ゾロに届けてな?」
と魔法の呪文のように囁けば、ピンクのボックスに丁寧に並べて……


大袈裟なのかもしれない。
ただのマフィン如きに……

でも……


捨てらてしまったマフィンにだって
一生懸命想いを込めたんだ。

全部全部、ゾロの為に……

だから、せめて、想いだけでも……




メッセージカードをちょこんと添えれば、深く甘い溜め息をつく。

「できたっ!」


途端に玄関から「ただいま」が聞こえて…

驚いたように振り返れば、パタパタ急いで玄関に駆ける。








「だーかーらー、牛乳コンビニで買ってきてっ」
と懸命にルフィは、帰ってきたばかりの相手の背を押して…
「そ、そんなの、明日でいいだろ?」
困ったように振り返るゾロは愛しい相手を抱き締めて……

「明日なら、会社の帰りにでも買ってきてやるから。今夜は飲まないだろ?」
額にそっとキスをして……

ふと、温かな腕の中で
「お願い…だから…」
と弱々しく聞こえる声に目を丸くして…


ここまで完璧にやったんだ!
サプライズにしたいのに……


考えれば考えるほど、みるみるうちに涙が溜まって……

みっともないのだけれど、ホロリと涙が零れて……

ゾロのネクタイを濡らした。




「わかった。」
とゾロが、ゆっくりとルフィの黒髪を撫でて……
「行ってくるよ。」
甘く甘く囁いて……


「牛乳だな?…後は?」
とにっと笑って、ホロリと零れた涙を親指で拭ってやり、そっとハンカチをルフィに手渡した。

もしかしたら、ルフィについたチョコレートの香りで何か察したのかも知れない。


「あと…卵と、ヨーグルトと…電池っ」
とルフィは、ゾロにぎゅうぎゅう抱き付いて、思い浮かんだ物を次々と告げる。

その言葉に、ゾロが優しく頷いて……




「じゃあ20分ぐらいで帰ってくるから、待ってろよ?」
と本日二回目の「いってきます」のキスをして。


温かなゾロの背中に、ぎゅうっと甘い体温が伝われば…

玄関にチョコレートより、甘い可愛い我が儘が響いた。








「ゆっくり、でも早く帰ってきて。」




「あぁ、もちろん。」

と俺はまた甘いキスをした










/貴方への甘い秘密は食器棚へ。
2010/02/11




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