迷惑な親切*
(恋人ZL/サンジ視点)
窓の外を見上げれば
柔らかな雪がしんしんと降り
イルミネーションに反射して…
今宵は楽しいクリスマス・イヴ。恋人達が手を取り合い、俺の店へと足を運ぶ。
愛しの彼に輝かしい笑顔を向けるレディ達を眺めつつ、ディナーを盛り付け運び、邪魔にならないようにさり気なくワインを注いでさしあげる。
もちろん、宝石のような笑顔を独り占めしている、幸せな野郎の邪魔をしてやりたくて堪らないのだが、そうして素敵なイヴの夜、麗しの女性達の涙を見るのはどうもいただけない。だから、俺はレディのため喜んで、プレゼントに飾られたリボンのように、目立たず彼女達を彩るのだ。
チキンをオーブンに入れ、タイマーを確認すれば、空いた時間にそっと煙草を吹かす。
カウンターから店内を見回せば、道側の大きな窓から、広場の真ん中に置かれた巨大なツリーが見えて…キラキラと反射する星飾りは、月明かりを静かに映していた。
あぁ……
なんて素敵なイヴだろう…
とふわりと紫煙を吐き出せば、広場のツリーの影から、見慣れた2人の姿が見えて、俺は時計を見つめ、やれやれ、と溜め息を付いた。
「クリスマス・イヴの7時に、予約を取りたい。」
なんて、余りにも真剣な声で告げてきた悪友に、俺は内心クスリと笑った。
「お二人様でよろしかったでしょうか?お客様…。」
と、ふざけて甘ったるい声で尋ねてみれば、鬱陶しい、と怒るはずの相手から
「あぁ…」
と小さな返事が聞こえた。
相手は聞かなくともわかる。アイツが喋ることといったら、「ルフィ、ルフィ…」と、そればかりだから。
別に羨ましいなどとは思わない。俺は男に興味はないが、正直、あの馬鹿の珍しく困った顔を見るのが、俺の楽しみでもあるわけで。
「ペアリングってのは、高いのか?」
なんて、低い声で慎重に慎重に尋ねてくるアイツが可笑しくて
「まぁピンからキリまであるな。……よかったら、店、紹介してやろうか?」
なんて、俺はついつい協力してしまう。
羨ましいなんて思わない。
ただ、俺は恋愛の先輩として、2人が微笑ましくて仕方がないのだ。
「7時の予約じゃなかったか?」
と雪の中歩く2人に苦笑すれば、既に45分を過ぎている時計から視線を逸らす。
鼻を赤くして、俺が渡した地図を上下逆に持つ緑髪に、紙コップのココアを手に、一生懸命相手に話し掛ける小柄な少年。
「また迷ってやがる。」
とボンヤリ眺めていれば、ゾロが思い出したようにポケットから携帯を取り出して……
案の定、俺の携帯が小刻みに震えた。
携帯を手に取ろうとするも、俺はゆっくりと、また手を煙草に戻す。
もう暫く、2人の時間を楽しんで来いよ…
と、携帯をまたポケットに直すゾロを見つめ小さく笑う。
これは意地悪などではない。俺からのほんの些細なプレゼント。
困ったように肩を落とすゾロに、ルフィがにっこり笑って、相手の鼻にキスをして……
「大丈夫、すぐ見つかるって」
なんて優しい言葉を告げているんだろうな、と俺は煙草を灰皿に押し付ける。
店内に漂ってくるハーブとチキンの焼ける芳ばしい香りに、俺の足は次第にオーブンに向かい……
ふと思い出したかのように、クリスマス限定で手伝いに着てくれるナミさんに
「マリモ等の予約、2時間延長しといてくれる?」
と告げれば、俺の言葉にクスリと甘い笑顔を向けて
「既に記入済みよ。」
と予約表を俺へと見せて
「アイツ等が予約通りにくるはずないもの………それに…」
雪が降る明るい夜に、2人の影が走り出し…
「ほら、ゾロっ…あそこにフランクフルトが売ってるぞっ」
と愛らしい声が跳ね、大きく温かな手を引いて。
「こらっ…ルフィ、それよりアイツの店を……」
と珍しく慌てたように、相手の後を追う柊色の髪が冬の空気に揺れ………
「それに…?」
と問う俺に、天使のような笑みを浮かべ、ナミさんは…
「サンジ君が書いた地図にもう一本道を書き加えておいたのよ。」
あぁ…それは聖母マリアの麗しい笑顔に隠れた、甘い甘い悪魔の悪戯…
意地悪?
いいえ。
これは私達からの
些細なクリスマスプレゼント……
/貴方のその迷惑な親切が、私は涙が出るほど嬉しいの。
/2009/12/24
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