Beast






太陽はギラギラと照りつけ、甲板を鉄板のように温める。今日は海水浴日和。

「ゾロ〜!!」
とルフィはゾロに後ろから飛びつく。
普段は甲板でトレーニングか、寝ているはずのゾロだが、こんなに暑くては何もできない。そのため、ボクサータイプの海水パンツを着、上はサマーシャツを羽織る格好で、貯水タンクからホースをつなぎ、甲板の床を冷やしているのだ。
「ん?…ルフィか。………どうしたんだ?その格好…。」
ゾロはルフィを見ると微笑み、その後、少し不安そうに尋ねる。
そんなゾロに、太陽に負けないほど明るい笑顔を向けるルフィはといえば…膝が少し隠れる丈の赤い海水パンツ、首には少しサイズが大きすぎる黄色のゴーグルをかけ、胸の下から腰までを、3つの浮き輪で隠している。浮き輪の色は半透明のピンク、水色、黄色で、なんとも子供っぽい。
「ゾロが水着だから、着た!」
と嬉しそうに笑われれば、その滑稽な格好も案外可愛く思えて…。
でも、少し違うのだ。「ゾロが着ていたから」だけ…?
「まぁ俺は、ホースの水で濡れるしな。…でも、お前、その格好……見るからに…」
海に入るつもりだろ?ゾロは不安げにルフィを見つめる。
ルフィはずり落ちてきた浮き輪を引き上げ
「で、ゾロと泳ぐんだ!」
とにぃっと笑う。
「お前なぁ…かなづちなんだから、海になんて入るな。」
とゾロは相手に近づき、真っ黒な瞳を見つめる。
「でも、でも、浮き輪あるし、大丈夫だって!!」
それでもルフィは泳ぐ気満々。
「…やめとけ」
「いやだっ」
「やめとけっ」
「いや!」
ゾロは少し強い口調でルフィに言う。

「駄目だっ!!」

いつもルフィに甘いゾロにしてみれば、珍しく怒っているような口調。ルフィの肩がびくっと震える。

面倒くさいとか、疲れるとか、そんな理由じゃない。心配なのだ…。悪魔の実の能力者にとって、海は「死」を意味するもの。今までだって、何度も海に沈んでいくルフィを見てきたゾロがルフィを止めるのは当然。
「駄目だ!!海には入らせねぇ。かなづちのお前が海に入るなんて自殺行為じゃねぇか!」
声を荒げるゾロにルフィは小さく呟く。
「だって、ゾロと一緒に海水浴したかったから…」
こちらもルフィにとっては珍しく悲しげな顔。先ほどまで楽しそうに輝いていた瞳は、今は涙でユラユラと光っている。
泣くのはずるい…。わかっているルフィは涙が零れないように下唇を軽く噛んで俯く。
「駄目だ…」
それでもゾロはルフィを見つめ静かに言う。
お願いだ、わかってくれ…。口に出すのは女々しすぎる。
ルフィに近付くと少し強引に浮き輪を取り上げる。
「あっ…ゾロ!!やだっ」
浮き輪を取り返そうと腕を伸ばし、泣きそうな顔で叫ぶ。だが、ゾロは浮き輪を遠くに投げとばしてしまう。そしてルフィの腕を掴むと引き寄せ

「わがまま言う奴は嫌いだ」

と冷たい瞳で見つめる。

嫌いな訳ない。そんな、わがままなお前が可愛くて可愛くて仕方ないんだ…。だけど、今は譲れねぇ…。
深い青の中、俺に腕を伸ばし苦しそうな顔をするお前が、俺には見えるんだ。

「嫌い?」
ルフィがホロリと涙を落とす。
「嫌い…?」
もう一度呟くとポロポロと泣き出す。
そして、ゾロの腕をそっと払うと
「おれは、お前がいねぇと溺れちまう…」
と呟いた。
「ああ、そうだな」
だから、海へは…と言おうとするゾロの前をルフィが走り抜ける。そして…

バシャーン…

と一度大きな水しぶきがたって…
「っ!!あの、馬鹿っ!!」
続いてゾロが海へと飛び込む。


深い青の中、ルフィはしっかりとゾロを見ている。ふくふくとたつ泡がルフィを包んでいて、考えている余裕なんてないはずなのに、美しいと感じてしまって…。
ルフィは苦しそうな顔などしない。「お願い、来て?」と寂しそうに微笑んで、両手を開いている。

あいつは信じきっているんだ俺を…。必ず来ると。
あぁそうさ、俺がいなきゃ溺れちまうお前を助けねぇわけねぇだろ?

ゾロはしっかりとルフィの手を握り抱き寄せる。そして、キラキラ光る水面に向かい…


「ぷはっ……馬鹿がお前はっ!!」
と水面に顔を出し、ルフィをぎゅっと抱きしめる。
「まだ、嫌い?」
ルフィは大きな瞳でゾロを見つめる。
「好きに決まってんだろ!」
にししと笑うルフィは可愛くて、太陽よりも眩しくて…


「肩車…して?」

ゾロはルフィを肩に乗せ泳ぐ。少し重いけれど、明るい笑い声が聞きたくて…愛しい声が聞きたくて…








/海は恐怖…でも海があるから出逢えて、海があるから愛する人は笑うんだ
08/12/15


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