Beast



擦れ違い*

(新婚/微シリアス?)




おれみたいな、奴なんて…
きっと邪魔で…
必要なくて………






「ただいま…」
と言う声は虚しく玄関に響いて…

今朝のことでまだ拗ねているのか?と朝の喧嘩を思い出し、ふぅっと息を吐いて…


そっとキッチンへ進むと…

そこには………




「ルフィっ!!」


仲直りに一緒に食べようと買った、駅前のロールケーキ屋の袋がグシャリと音を立てて、床へと落ち、遠くから救急車のサイレンが、冷たい耳なりと共に聞こえた。








「なんで、こんなことになったの?」
ナミの言葉は静かだけれど、怒りを帯びて、トゲトゲしくて。

「ナミさん、落ち着いて…」
サンジがそっと、ナミを待合室のソファーへと座らせる。


「あたしはね、あんた達の結婚に反対なんてしてなかった!むしろ、応援してたのに!」
ナミの手がギュッとスカートを握り締めて、下唇をきっと結んだ。

「俺だって、そうだ。…どうして、こんな…。」
サンジも黙ったままのゾロを見つめて…



「全部、俺のせいだ。」


ゾロがふぅっと深く息を吐いて、もう一度。


「俺が、ルフィを責めたせいだ。」


じっと見つめる、ゾロの瞳には驚いたような、悲しそうな2人の顔が映り込み……




パンっ!


と静かな白い廊下に、冷たい音が響いて…

「最低だわ。あんたなんてっ!」

ゾロの頬が赤みを帯びて…
熱をもって…


ナミの手がもう一度振り上げられると……

そのままダラリと下へと下がる。


「せめて、これからは大切にするとか…そういう、そんな言葉が聞きたかった。ルフィを守るって言って欲しかった…。」

ホロホロと涙はゾロへと降ってきて……



重い空気に、サンジが立ち上がり
「ナミさん…ルフィに会うのは、また今度にしよう。今日は家まで送るよ。」

優しくナミへとハンカチを手渡して、静かな瞳でゾロを見つめる。


「あいつだって、辛いんだ…」


サンジがそっとナミの肩を支えて、出口へと向かう。


「あぁ、そうだ。ウソップが仕事終わったら、様子見にくるってよ。」

サンジが困ったように笑って
「なんだかんだ言っても、みんなルフィが心配なんだよ。」

ナミさんもな…とゾロの手に紙袋を押し付けて、俺とナミさんから、とひらりと手を振って……








「ルフィ…」

真っ白なベッドに横たわるルフィは、一定のリズムですーすーと寝息を立てていて。

静かに眠っている様子を見れば、まるで普段と変わらないのに、この顔を見るのはもう二日目。

ルフィは昨日から一度も目を覚ましていないのだ。


「ごめんな…ルフィ…。」

ギュッと、意識のないルフィの手を握ったゾロの拳は、ふるふると震えていて…

「俺が悪かったから…起きろよ、ルフィ…」







コンコン…

と夜の病室にノック音が響き、ひょっこりと見覚えのある顔が覗いて…

「よぉ、ゾロ。わりぃ、遅くなった。」


ウソップがにっこりと笑って
「ルフィの好きなやつな。」
と枕元のテーブルへと、包装された箱を置く。

「本当に、呑気だよなぁ。オレ達がこんなに心配してやってんのにさ。」
ウソップがルフィの寝顔を覗いて…


「愛する者のキスで目覚めたりしてな?」


なんて、無理して、ふざけて笑った…


「ウソップ…」

ゾロが、ウソップの腕を掴み

「聞いて欲しい話がある。」

低い声がボソリと部屋に響いて……








いつもと変わらない朝。
いつも通りの朝食。


「今日は目玉焼きが自信作なんだぞっ」
ルフィがきらきらと輝く笑顔をゾロへと向けて…

「どれどれ…」
とゾロが箸を伸ばす。

むぐむぐと咀嚼して、ゾロが眉をムムっと寄せる。
「ルフィ…また、塩と砂糖間違えてる…」

にこにこと、ゾロを見つめていたルフィが、驚いたように自らも目玉焼きに箸を伸ばす。

そして…


「美味しくない…」

と呟いて、悲しそうな顔をするルフィの頭を、くしゃりとゾロが撫でてやる。

「大丈夫だ…料理なんて、その内、上達するよ。」


その言葉に、嬉しそうに、にっこり笑って…

「ありがとう、ゾロ…」

そっと柔らかな唇が、ゾロの額に触れて…




玄関で身支度を整えて、ルフィに、いってきますのキスをする。

「気を付けて、お留守番するんだぞ?」

そっと柔らかな頬に触れてやると…

「うん…。」
ルフィの長い睫がふるふると揺れて…


もう一度、甘い口付け…


「今日は、美味しい天ぷら作って待ってるから、早く帰って来てな?」

ルフィがギュッとゾロに抱き付いて…


「天、ぷら…?」


ピクリとゾロの眉が歪む。


ゾロの腕の中、不穏な空気に気付かないのか、ルフィは上機嫌で話を続ける。

「そう!昨日な、本で読んだんだっ。きっと美味しく作るから、」


「駄目だ。」


ルフィを抱くゾロの力が強くなって…


「天ぷらは止めとけ。」

その言葉を聞いて、ルフィは何だか不満そう。

「なんで、ダメなの?…ゾロ、天ぷら好きでしょ?」


どれだけ、可愛い唇を尖らせたって、どれだけ、愛しい瞳で見つめられたって……

目玉焼きも、上手く焼けねぇのに、天ぷらだなんて、まるで、火事でも起こせ、と言っているようなもんだ…

とゾロは心配そうにルフィを見つめる。


「油は危ないから…」
「出来るもんっ!」

ルフィがむっと頬を膨らませて…

「昨日は、卵焼きだって、サラダだって、上手に出来たもんっ」


愛する人に美味しいご飯を食べて欲しい…
そう願って何が悪いの?


ルフィがゾロのコートをギュッと握った。


「でも、今朝だって、目玉焼き、上手に焼けなかっただろ?」

「そ、それは…」
ルフィがそわそわと目を泳がせて…



どうして気付いてくれないのだろう…

俺は、お前が心配で堪らないんのに…

仕事なんて、ほおりだして、ずっと一緒に居たいぐらいに、お前がすきなんだっ!

だから、今は……


「昨日の泡だらけの洗濯物は?」

ゾロの静かな声が、ずっしりと、玄関を冷やして…

ルフィは下唇をきゅっと結んで、悲しそうに俯いた。



意地悪なことをしているのは、わかっているんだ。

でも、こうでもしないと、お前は…


「一昨日は掃除機を壊しただろ?」

ゾロのコートを掴む手に力がこもって…
ルフィの顔がだんだんと赤くなり、熱を持って…


「お前は、料理も、洗濯も、掃除だって、苦手だろ?だから、天ぷらなんて…」


「違うっ!」


ルフィの瞳からポトリと涙が零れて…

「違うもんっ。出来るもんっ。」
ポロポロと零れる涙を、一生懸命に拭って、ゾロを見上げる視線は、悲しみと不安に溢れていて……


「ルフィ…」
「違うもんっ」

愛する気持ちがすれ違って…

「なぁ…」
「違うんだもんっ」

どうして伝わらないの…?

「ルフィっ!」
「出来るんだもんっ!」

プチンと、何かが切れたような音がして…


ドスンと、ルフィの体が靴箱へと倒れて…

「俺は、ワガママなお前なんて嫌いだ!」


なんで、わからないんだ?
愛する人が心配で…

いつだって、
お前には伝わらない…

心配で、恐くて、
仕方ないのに……


ルフィのための、嘘なのに…
何故か、心がズキズキ痛んで…


「ゾ、ロ…?」

ルフィの真っ黒な瞳に、今までに見たこともないような、ゾロの姿が映って……

「きら、い…?」

脅えたように、洩れた言葉を置いて…


「天ぷらなんて食べない。」


心の中で強く謝って、玄関をバタンと閉めた。


しばらくして、わんわんと、大きな泣き声が聞こえたけれど…

戻ってはいけない、と駆け出した。






きっと、ルフィを傷付けてしまった。


帰る足は何だか、重くて…

食べ物で釣る気ではないが、ルフィが大好きな、駅前のロールケーキを片手に…

そっと玄関を開けた。


「ただいま……」

いつもなら、聞こえる「おかえりなさい」の声はなく、そりゃそうだよな…と肩を落とした。

そっと玄関を抜けて、キッチンへと入る。

ルフィのことだから、ソファーの上で、頬を膨らませているだろうと思ったから…


でも……

そこには………




「ルフィっ!!」




開けっぴろげのベランダから、冷たい風が吹いていて、床へと倒れたルフィの黒髪をサラサラと遊んだ。

「ルフィっ!…大丈夫か!ルフィ!」

手に持った荷物なんて投げ捨てて、ルフィを抱き上げる。

抱き締めた体は、冷たい空気のせいで、冷えていて、まるで氷のようだった。

ダラリと垂れた腕は、いつものように、ゾロを抱き締めてはくれなくて…

明るく愛らしい声は聞こえず、ただ、細く静かな息が、唇から漏れて……






「倒れた原因は、睡眠不足と疲労。あと、極度のストレスだと思うよ。」
真っ白なベッドで寝息を立てる、ルフィの傍ら、ゾロがチョッパーの診察結果に耳を傾ける。

「…ルフィらしくないよ。ゾロ、何か原因わかる?」
チョッパーが心配そうに、ゾロをじっと見て…

「今朝の喧嘩のせいかも、知れないな…」

ゾロが自らの額を抑えて俯いて、深く息を吐いた。


「暴力なんて、奮ってないよな?」

チョッパーが怖々とゾロに尋ねて

「奮うはずねぇだろ。…俺はルフィを愛してるんだぞ…」

ゾロの声は震えていて…

チョッパーも悲しそうに、ごめん、と呟いて、俯いた。


「もし、そのショックが大きいなら、目覚めるまで時間がかかるかも知れない。」

でも、治すよ、絶対に…最後に一言、小さな誓いが静かな空気に溶けて……

真っ白な部屋は、本当に静かになった………








深夜の暗い待合室。


「それから、起きねぇのか…。ルフィは…」
ウソップが自販機で買った、ホットコーヒーを片手に、ゾロを見つめる。

「ルフィは毎晩、一生懸命、料理の勉強をしてたんだ。本なんて苦手のくせに。眠い目を擦りながら、夜遅くまで…俺のために…」

ゾロが手の中の缶を、強く強く握り締めて……

「気付かなかったんだ。…睡眠不足だったなんて…。」

ウソップが、そっとゾロの隣に腰掛けて…

「しょうがなかったんだろ?…自分を責めたって、何も始まりゃしないんだ。」


しょうがない…?と小さくゾロが呟いて……


「俺が気付かなかったんだよ!」
ゾロの声は、静かな廊下にビンビンと響き……


「近頃、失敗ばかり繰り返してたんだ…アイツは…。気付くべきだったんだ。体調が悪いなんて、俺が気付かなきゃ、ルフィは、ずっと隠し通そうとするに決まってんのに…。」


ウソップが、そんなゾロを静かに見つめて……

ふと、気がついたように、自分のカバンへと、手を突っ込んで…


「これ、ナミから。」


ゾロが手渡されたのは、桃色がかった綺麗な封筒。

そっと開けば、中には、小さなメモと一枚の写真が……



「あんたが、あいつを愛してるって想ってる以上に、あいつは、あんたのことが好きなのよ!」


繊細な模様の描かれた便箋には、不釣り合いな、乱暴で、大きな文字が、ゾロの胸をぎゅうぎゅうと掴んで………


ひらりと落ちた写真には、嬉しそうに微笑む自分と、ウェディングドレスにくるまった、キラキラと輝く、可愛いルフィがいて…


そっと写真を拾い上げ……

見つめるゾロの瞳から、ホロリと涙が落ちて………


ポタポタと写真を濡らした。




ウソップがそっと、ゾロの肩に触れ……

「オレは帰るから……ルフィの側にいてやれよ。」


大きな背中が震えていて…

真っ暗闇の中、微かに呻くような、泣き声が響いた…









バタンと扉がしまって、玄関にはルフィ1人だけ。

ポロリと涙が零れて…

寂しくて仕方なくて…


わんわんと声を挙げて泣いた。
「嫌いなんて、やだぁー!」
ぺたりと座り込んだ、床はヒヤリとして冷たくて……

「行っちゃ…やだぁ…」
力なく、扉を叩いた…




随分、長い間泣いて…


ピ、ピ、ピ…

と洗濯機が、洗い終わりを知らせる声を挙げて……

ルフィの肩がピクリと震えた…

「「昨日の泡だらけの洗濯物は?」」


違う…今日は上手くできてる…

冷たい洗濯物をカゴに入れ、ベランダへと運ぶ……



「「お前は、料理も、洗濯も、掃除だって、苦手だろ……」」


ゾロの見たこともないような怖い顔がグルグルと頭を巡って……

また、ポトリと涙が落ちる……
冷たい洗濯物を見つめて、真新しいキッチンを見つめて……


自分の居場所がないように思えた………


「どう、しよう」

嫌われた……


「ど…しよう…」

もし、ゾロが帰ってきてくれなかったら…


「ど…しよ、う……」

もし、ゾロに会えないなんてことになったら………




「死んじゃう……」

肩がガタガタと震えて、自分で自分を抱き締めて……

涙がホロホロと零れて、ゾクゾクと冷たい感覚が背中を伝って………


「洗濯…物……」

今は出来る仕事をしなければ、とふらりと濡れた洗濯物に手をかける




こんなことを一生懸命頑張ったって、ゾロはもう帰ってこないよ

心の奥の意地悪な悪魔が囁く


「帰って……くる……」


どれだけやったって、お前は失敗ばかりじゃないか

「……違…う」




もう終わりさ……お前との愛なんて………


「………ゾ、ロ…?」

……先程まで響いていた心の声が急に、ゾロの、あの大好きな声になって……


終わりだよ。
なんてったって俺は………




「「俺は、ワガママなお前なんて嫌いだ!」」




ぐらりと理性が揺れて…

目の前が真っ暗になって……

ゾロの冷たい背中が見えたような気がした………








ハッと目覚めるとそこは見たこともない真っ白な部屋……

ベットから降り、辺りを見渡す

「……ちが……う」

ここはゾロとおれとの家じゃない


「…ちが…うぅ………」

こんな場所見たことない


「ちが………う……ちが、う」


……棄てられたんだ、おれは………




その場にうずくまって…
ボロボロと泣く……


ゾロが欲しい
愛が欲しい

ゾロが欲しい
温かみが欲しい

ゾロが欲しい
ゾロが欲しい




お願い……
神様………

もう一度だけ……
チャンスが欲しい……


もう、絶対に………
彼と離れないって誓うから…!!





だから






ゾロに会わせて……!!








急にがらりと部屋の扉が開いて…

入ってきた相手はギョッと驚いたようにルフィを見つめた。




「…ゾ、ロ………?」


ルフィが小さく震えた声で呟いて……

ボロボロと泣いて、ゾロにギュッと飛び付いて……

離すもんか、とゾロの胸に顔を埋めた………




あまりに驚いて……
あまりに嬉しくて……

抱き返すことも忘れて、ルフィを見つめた………


「……ル、フィ………」

背中にぞくぞくと何かか走り、視界がぼんやりと歪んで………



「……あり、が…とう」




ゾロを見上げるルフィの顔は、涙でいっぱいなのに……

それでも幸せそうに微笑んでいて………




「……迎えに、きてくれて……ありが…とう」




涙で濡れた唇が、そっと塞がれて………

ルフィの頬をゾロの涙が伝った…………








幸せだった
貴方がいるだけで…

幸せだった
何もなくとも………


ごめんなさい

そして……




ありがとう










/擦れ違って、向き合って……向き合って、擦れ違い。幸せって難しいよ……

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