Beast



子猫


ぴくぴくと震える愛らしい耳…
ひらひらと揺れる愛しい尾……
そんな、君も可愛くて…




「んにゅ…」
体が揺すられて、上から甘い声が降ってきて…

ゾロは眠そうに、むっくと、上身を起こす。

ゾロの上には、何故かルフィが跨っていて、泣きそうな瞳で、ゾロの胸に顔を埋めた。

「どうかしたのか?ルフィ…」

優しく、黒髪をといてやる……

と………


ゾロの手に違和感。

不思議そうに眉を潜めたゾロが、ルフィの頭を見つめると…


そこには、三角形の艶やかな黒い、お耳。


「ルフィ、これ…」

驚いて、目を見開いても、ルフィは、みうみう、と鳴くだけで…


何かが苦しいようで、一生懸命訴えてくるルフィだが、ゾロには何を言っているのか、伝わらなくて…


ルフィがホロホロと泣き出して、ゾロの胸にすりすりと顔を擦り始め…

困ったようにゾロがルフィの背中を撫でた。


「泣いてちゃわかんねぇだろ?」
薔薇色に染まった頬を伝う涙を、そっと拭ってやっても

「にゃあ…」

とルフィから洩れるのは、猫のような、甘い鳴き声で…



じっとルフィを見つめていたゾロが、ハッと気付いて……

「まさか、お前…喋れねぇの?」

ルフィが一生懸命、頭をこくこくと振って、助けて、と言うようにゾロの胸を掻く。


不安で仕方がなくて、苦しくて仕方なくて、ゾロのシャツをぎゅっと握っていたいのに、指が上手く動かなくて…

手は丸まるばかりで…


「苦しいのか?ルフィ…」

心配そうに、ゾロがルフィを抱き締めて…

ルフィが小さく

「にゃあ…」

と鳴いた……





とにかく、これはチョッパーに診せるべきだ、と朝早くから医務室へ向かう。


ガチャリと扉を開くと、そこには、楽しそうに談笑する、我が船の船医と狙撃手。


「チョッパー!ルフィが…」

急いで、状況を説明しようとした、ゾロの瞳には、驚いたように目を丸くする2人がいて……


「ゾロ…お前…」

ウソップがとても真面目な顔で、ゾロをじーと見つめて…


「どんなプレイしてんだよ?そりゃ…」

と真っ赤な顔を、手のひらで隠して…




頭に猫の耳を着けたルフィが、ぐしゃぐしゃ皺になったパジャマに身を包み、ホロホロと泣いていて…

そんなルフィを恋人のゾロが、しっかりと抱き締めているのを見れば……


なんとなく、淫らな想像も浮かんでしまうもので…




「アホか!それより、ルフィを…」

ウソップを押しのけて、腕の中のルフィが見えるように、チョッパーの前に腰掛ける。


「にゃあ…」
ルフィが小さく鳴いて…

「猫…?」
戸惑ったようなチョッパーの呟きに、ウソップが、今更気付いたのか?と笑う。


「違うんだっ…ルフィの鳴き方…鳴き真似なんかじゃなくて、本当の…」

「猫の声…。」

ゾロの言葉に驚いたように、2人が泣き続けるルフィを覗き込んで…


「コイツが喋ってんのは、本当の猫の言葉。…話そうとしても、どうしてもこうなっちまうらしい。」


なんとなく、状況が読み込めてきたチョッパーが
「どこが痛いんだ?」
とルフィに優しく尋ねる。

ルフィはゾロに体を埋めながら、みうみう、とチョッパーを見上げて……


「しっぽ…?」

チョッパーが小さく呟いて、ルフィの背中側のシャツを捲り上げる。


そこには、ズボンのゴムに締め付けられ、苦しそうに揺れる長いしっぽがあって…

「ちょっと、ごめんな?」
と、チョッパーが尾てい骨辺りまで、ズボンをずらしてやる。


ルフィが、ぱっと潤んだ瞳を開いて…

ホロリと、輝く雫が零れて…

自分のしっぽを見て、不思議そうに目をパチクリとさせた。


先程までボロボロと泣いていた、涙が留まって………

甘えたように、すんすんと鼻を鳴らすルフィを見て、ゾロが安心したように息を吐いた。


「しっぽが挟まれて痛かったんみたいだ。」
チョッパーがよしよしと、ルフィの頭を撫でて…


「に、しても…なんで猫になっちまったんだ?」
とウソップがルフィの鼻を、こそばって…


鼻をぴくぴくと動かして
「クジュっ…」
と小さく、くしゃみをしたルフィが可愛くて、ゾロはそっと額に口付けた。





「で、1日で治るわけね?」
ナミが、ウソップ特製の猫じゃらしを振りながら、チョッパーに尋ねる。

「多分、前の島で、この実を食べちゃったんだと思うんだ。」
ホラ、これ、と植物図鑑をナミに見せるチョッパーの隣で…

ルフィはすっかり猫じゃらしに夢中。


クリクリと大きな瞳で、フワフワと揺れる猫じゃらしを見て…

時折、丸めた手をひょいひょいと伸ばしている。


チョッパーの話によれば、きちんと、ルフィには自身の人格があるらしいのだが、どうも不思議な木の実の力で、猫の本能の方が強く働いてしまうらしい。

だから、言葉も話せなければ、手も使えず、二本足で歩くことも出来ないらしいのだ…


「でも、ここに最長3日って書いてんぞ?」
サンジがナミの肩越しに図鑑を覗き、指をさす。

「あぁ…でも症状が軽いし、多分、1日で治ると思うよ。」
チョッパーが、猫じゃらしを目で追うルフィを見て、大丈夫だ、と呟いた。


「これが、軽い症状なのか?」
とサンジがルフィの前に、おやつのフルーツゼリーを置いて、ルフィの顎下をコショコショと撫でてやる。


「ふにゃぁ〜」
間抜けな声を挙げ、ルフィがゴロンと床に寝転ぶ。

そして、もっともっと、と喉をゴロゴロと鳴らして…


「あらま、サンジさん。ペットの扱い、慣れてらっしゃるんですね?」
とブルックが呑気に、紅茶を啜る。

「まぁな。」
とサンジが笑う。

「どうせ、女にモテるためだろ…?」
と、隣でウソップが呟いて、なるほど、と一同が頷く。



「に、しても…この格好はないんじゃねぇか?」
とフランキーが、ルフィの首根っこを掴んで持ち上げる。


急に体が浮いて、キョトンとしている、今のルフィの服装はと言えば……

明らかにサイズが合っていない、だぼだぼのゾロのシャツ一枚だけで……


「仕方ないんじゃない?ズボンを着れないなら、こうするしかないわ。」
ロビンが、頬杖を付いて、微笑んで…

「しっぽに気をつけてズボンを履かせても、お尻が半分見えちゃうんだよ。」
とチョッパーが、パタンと分厚い図鑑を閉じた。


「まったく、世話の焼ける船長だわ…」
とナミは、困ったように息を吐くと、フランキーに変わり、ルフィを掴んで……

ダンベルを持ち上げ続けているゾロの膝に、子猫を押し付けた…


「じゃ、ルフィのお世話はよろしくね?」
とルフィの頭をくりくりと撫で、ゾロを見つめれば…

「しょうがねぇな…」
とボソリと、素直じゃない言葉が返されて………




ゾロの膝の上で、キョロキョロと周りを見渡すルフィが、ゾロの首筋に鼻を埋め、小さく甘えた声を出して………

急に、何かに気付いたのか、ゾロの首筋をペロペロと舐め始めて………



「おいおいおい…、なんかスゲェことになってますよー。」
その様子を見ていたウソップが、ルフィの行動に驚いて、呆れたように声をかけて………

「お腹がすいたんですかねー」
ブルックが、カップに紅茶を注ぎながら、2人を眺める。



首を舐められているゾロは、嫌がる様子は見せず、両手のダンベルを床へと下ろすと、ルフィの頭を優しくなでてやる。

と………


ルフィが、かぷりとゾロの首筋に噛み付いて……



「あら、噛みついちゃったわ。」
楽しそうに、2人を観察していたロビンが、くすりと笑って……


「歯痒いんだろ…」
とゾロがルフィの耳をペロリと舐めると

「んにゃあ…」
とルフィから甘い声が洩れて……


かぷりとゾロが、ルフィの首筋に噛みついて……



「欲情すんな、レディの前だ…。」
とサンジが煙草に火をつけて、フゥーと白い煙を吐いた。


ゾロが、ルフィの首筋から顔を上げ

「欲情なんてしてねぇよ、ラブコックが。」
と暴言を吐いて………



「子猫のうちに、上下関係を教えといてやらねぇと、大人になった時、大変だろ…?」


と、ゾロの意地悪な笑顔が覗いたが……

首筋を噛まれ、少し不安げにゾロを見上げるルフィの顔を見れば、悪戯をする気も、なんだか失せて……



ゾロは柔らかな頬を、優しくなでて、誰にも聞こえないような、小さな声で囁いた……


「あとで、イイコト、してやるな?」


その言葉だけで、ルフィの細い肩がふるりと震えて……


熱い視線で、ゾロをじっと見つめた後……


チュッとゾロの額に、柔らかな唇が触れた…








ベッドの上で甘い時間を過ごした子猫は、ゾロの胸の中で安心したように眠っていて…


ゾロは、そっと毛布をルフィへかけてやる。


すやすやと眠るその寝顔は、
本当に可愛くて………

愛しくて…………



艶やかな唇に、ゾロのそれが重なって………


「おやすみ、俺の可愛い子猫…」



誰も聞いたことのないほどの、甘く優しいゾロの声が……

ただ1人眠る、愛らしい恋人の為だけに告げられて………








あぁ……

その震える耳が…
揺れる尾が……

僕の心を掴んで…………










/可愛い子猫を拾いました。可愛い恋人になりました。
09/04/06


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