Beast



水族館*


ゆらゆら揺れる青いランプに、君の顔が照らされて……






「見て見てっ!魚がいっぱいっ!」
嬉しそうに、はしゃぐ、愛しの恋人を後ろから抱き締めて、ゾロが耳元で囁く。

「館内では走っちゃ駄目。」

ただ、注意しているだけな筈なのに、ゾロの腕はギュッと結ばれて、ルフィを離してはくれなくて…


「ど、したの…?」

ルフィは、青く光る水槽に薄く映る自分たちを見つめて、恥ずかしそうに真っ赤になった。


「綺麗だ…ルフィ…」

ゾロがルフィの首筋に顔を埋めて…


「覚えてるか?初めてのデートも水族館だっただろ?…あの時、ルフィのこと、本当に綺麗だと思ったんだ。」

ゾロの手が伸びて、ルフィのポケットに消えて、ごそごそと中を弄って…



「これ…ここで買ったんだよな?」
ゾロの手にはルフィの携帯。

「イルカの、ストラップ…?」

不思議そうに見つめるルフィの瞳には、キラキラと揺れるイルカが一匹。


そうだよ…

だから、おれは此処が好きで…。
だから、そのストラップが宝物で…。




そっと背中から熱が消えて…

でも、まだドキドキと胸は鳴って……


ギュッと手を引かれると

「次は人形だったよな?」

ゾロの温かな声が聞こえ、優しい微笑みが降ってきて…







初デートの帰り…

たくさん並ぶお土産の中から、ルフィが抱き締めて来たのは、大きなサメのぬいぐるみで…

「これが欲しい!」

輝く笑顔のルフィが、まだ幼さを残すゾロに抱き付いて…

「ん…?」

ルフィをしっかりと抱き止めたゾロは、ルフィに隠れて、ぬいぐるみについた値札を捲る。

そこには、学生にはとうてい手の出せない0の数。


「今日は持って帰るの大変だから、もっと小さいもんにしとけよ?…な?」

これなんかどうだ?と尋ねたゾロの手には、後にルフィの宝物となる、色違いのイルカのストラップ。




「次は一緒に帰ろうな?」
とぬいぐるみの頭を、ポンポンと撫でるルフィの笑顔が、なんだか切なくて…

「今度来たら、ぬいぐるみ買おうな…?」

ゾロの腕にルフィが捕まって…

そっとそっと、抱き締められた。






あれから、あんなに経ったのに、ゾロは覚えていてくれたんだ…

ルフィの顔が俯いて…


「ゾ、ロ…」
ギュッと拳を握り返して…


あのぬいぐるみが欲しかったのは…


「ん?どうかしたのか?」
ゾロが心配そうにルフィを覗き込んで…


あのぬいぐるみがとっても……

「お願いっ…」
ルフィの体がゾロに飛び込んで……


とっても、ゾロに似ていたから…


「少しの間でいい……」

海が揺れた気がした。


「もう少し、このままがいい…」

ゾロの腕がゆっくりと細い体を抱き締めて……


「ずっと、このままでもいいよ…」


青い光の中、ひとつの影が、ふくふくと昇る泡に包まれて…








もう、ぬいぐるみが欲しいなんて
わがまま言わないよ…


だって
貴方の代わりなんて
今はもう要らないから…










/水族館という創られた海で、僕たちは漂って…。行き着くのは、そう…ふたりだけの島。
09/04/03


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