Beast



わがまま*

(少年ゾロ×幼いルフィ/親戚?)


まだ、ひんやりとした春風が、俺達の間を通って……




「や、だぁ…」

俺の胸では、ルフィが泣いていて。ただ、ぎゅっと抱いてやることしか出来なくて…。


「こら、ルフィ…ゾロに迷惑かけんなよ。」

エースが俺にしがみついてくるルフィを抱き上げて
「世話になったな。次はゴールデンウイークか、遅くても夏休みには遊びに来れると思うよ。」
にっこりと笑って俺に礼を言う。

「おう、また来いよな。……じゃあな、ルフィ。」
俺もエースに笑顔を見せて、エースの腕の中で泣き続けるルフィの小さな頭を撫でてやる。


とたんに腕がぎゅっと引かれて……


「ゾロもっ!」
ルフィが俺の腕に抱き付いていて。

「ゾロも、一緒に帰るんだもんっ!」

柔らかな唇をむっとさせ、薔薇色の頬にはらはらと涙を散らし、ルフィが俺とエースを見上げる。


「わがまま言わないの。」
エースが静かにルフィを見つめる。

「やだぁ〜!ゾロと、一緒じゃなきゃ、やだぁ〜!」
わんわん泣き出すルフィを見て、エースは困ったように笑う。
「本当にお前はゾロが好きだなぁ…」
よしよしと、駄々をこねるルフィの髪を撫で、エースが俺へと笑顔を向ける。

「遅くなるって電話かけてくるから、ルフィ頼むわ。」




ひっくひっくと嗚咽を洩らすルフィを抱いてやる。

この数日間、ずっと一緒だったルフィと、今日でしばらくの間、お別れ。

兄弟のいない俺にとっては、可愛い弟のようなもので……

いや、それ以上に、感じていて……



駅前にあった公衆電話に駆けるエースの姿が、なんだか憎らしくて、帰ってくるな!なんて悪い心が叫んで…

ただ、その背中を見つめた。




「ゾロぉ…帰りたく、ないよぉ…」
ルフィが首筋に顔を埋めてきて。

ルフィから甘い匂いがふわりとした。

きっと、さっき食べた、どんぐり飴のせいだと思う。


酔いそうなほど、甘くて、優しくて、愛おしい香り………




「帰るな。」

そっと抱き締めて呟いた。

「ゾ、ロ…?」
ルフィが不思議そうに、ビー玉のようにキラキラ輝くまん丸な瞳を俺に向けて…




「愛してる。」


なんて、まるで大人みたいな言葉を伝えて……

でも、今の俺は、そんな難しい言葉しか知らなくて……






「ゾロ…?」


柔らかな手のひらが俺の頬に触れて。

「どこか痛いの?」

視界が歪んで、ポロポロと温かなものが頬を伝って…


「心が、いた、いんだ…」

あぁ、情けない。
ルフィの前で泣くなんて。

ただ、なんだか哀しくて。

ルフィが遠くへ行くなんて、考えたくもなくて…

冬休みに来た時には、何も感じなかったのに、今は本当に辛くて、なぜか恐くて……






「いたいの、いたいの、とんでけ」


ルフィの小さな手が、俺の胸をクルクル撫でて、ふっくらと膨らんだ唇から甘い息が洩れて…


涙が止まらなくなった。

下唇をぎゅっと結んで、涙に止まれ!止まれ!と命令しても、とうてい無理で…

ルフィの優しさが胸をぎゅっと掴んで離してくれない。



「少し遊んでおいで。」

電話を終えて、帰ってきたエースは俺とルフィを見て、困ったように笑い、そう言った。

「俺はホームのベンチで寝てるからさ。」

優しく微笑むエースに頭を下げて、駅の近くの公園へと向かう。




水道でバシャバシャ顔を洗う。
ルフィが水しぶきを浴びて、ケラケラと明るい声で笑う。

「もう、だいじゅうぶか?」
とルフィが俺の顔を覗き込んで…


「ありがとな、ルフィ…」

そっと白い額にキスをした。


きっと、今のルフィにはキスの意味がわかっていない。

でも、それでいい。


「おでこ、なに?」

不思議そうに小首を傾げる、ルフィがあまりにも愛らしくて…

「なんでもねぇよ。」
とくしゃくしゃと頭を撫でてやる。

「それより、ルフィ…何して遊ぶ?」

きっと、お前の口から出る遊びは、俺には、つまらないものだけれど…

お前となら、そんなのも悪くないって思えるんだ。






ジャングルジムのてっぺんに登ってみたり、ブランコを押してやったり、前回りを手伝ってやったり………

あっと言う間に、辺りは暗くなっていった。


俺の腕には、疲れて眠ってしまった、可愛いわがままっ子。


大切に抱き締めて、エースの元へ。




逃げてやろうかと思った。
(どこへ?)

ふたりっきりになりたかった。
(エースをおいて?)

ルフィが欲しかった。
(ルフィの気持ちは考えず?)




意気地なしだと、思い知った。

ルフィは今、エースの腕の中。


「スッキリしたか?ゾロ…」
エースが静かに尋ねる。

「お前にしては珍しいよな?」

エースが小さく笑って、
「すぐに会えるさ。」
と俺の肩をポンポンと叩いた。





「ルフィのわがまま、聞かせて悪かったな。」

カンカンカンと踏切の音が、冷たい空気に響いて…

「ルフィも寝てたら、可愛いいもんだろ?」
とふざけたように笑ったエースの背中が、電車の中へと進んで……


「また、来るよ。」


俺が見たのは、そう言うエースではなくて、愛しいルフィの寝顔で……




電車が見えなくなるまで、ホームで立ち尽くして………

ただ、星の瞬きと、ルフィの笑顔を重ねて眺めた……






あぁ
俺は………

あのわがままさえ
愛おしくて堪らないのに……



聞きたいよ…
聞かせてくれよ…

お前の声を………










/次に来た時、帰ってほしくない、なんて…僕はわがままを言うかもしれない。
09/04/02


*

[ 46/99 ]

[prev] [next]

Back



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -