Beast



うつして*


「ただいま」
という声を聞き……

玄関で首を傾げる


ゾロの顔には朝はなかった、白いマスク。

「ゾロっ、どうしたの?」
心配そうにルフィはゾロをそっと見上げ
「病気?」
と泣きそうな顔をする。

「ただの風邪…」
とルフィの黒髪を撫で
「病院寄って帰ってきたから、大丈夫だ。薬も貰ってきたしな。」
とマスクの下、優しく微笑む。


「ただいまのちゅーは?」
「今日はお預け、な。」


ルフィはゾロの口を覆うマスクを見
「マスクなんて、大嫌いっ…」
と唇を尖らせて悲しそうな顔を作る。


「じゃあ、今日だけ、おでこにちゅーして?」
とゾロの温かな指がルフィの唇に触れて

「駄目?」


「今日だけ、な?」
とルフィが小さく呟いて、ゾロの額に柔らかな唇をつけ、

「熱、い…」
と驚いたように目を見開く。

「ちょっと熱あるからな。」
大丈夫だ、とゾロはそっとルフィを抱き上げ、キッチンへ向かう。

「ぞ、ゾロはじっとしとかなきゃダメっ!」
急に浮いた体に驚き、ルフィが頬を膨らませる。
「降ろしてっ。風邪ひきさんは、じっとしとかなきゃダメっ」

怒ってくるルフィをゾロはじっと見つめて
「じゃあ、今日は色々やってくれよ?ハニー?」
なんてふざけて笑った。






キッチンで、くるくるとお鍋をかき混ぜる。

ソファーに座るゾロの顔はみるみる真っ赤になって、口から外されて握られた、白いマスクがくしゃりと皺を増やすのも、ルフィには見えて…。

辛いんだな、と感じた…




大きな赤いお鍋の中で、柔らかくなったお米がふわふわと踊って…。

温まったそこに、コンソメスープの素がきらきらと舞う。

ソファーから聞こえる荒い息に「もう少しだから…」と呟いた。






「ゾロ…?」
ぼんやりとした視線の先には心配そうに覗く、愛する人の顔があって……

「おかゆ、食べる?」
と冷たいタオルでそっと額の汗を拭われて、ゾロは
「ありがとう」
と弱く笑った。


温かな湯気をたてて、おかゆがゾロの口へと運ばれる。

「あ〜ん」
「ん」

柔らかな香りがふわりと口内へ広がる。

「おいしい?コンソメ味…」
とルフィがゾロを覗き込んで…

「うん、美味いよ。」
と大きな手が優しくルフィの頭を撫でた






「ゾロ、ベッド行こう?」
ルフィがゾロの手をそっと取って、優しく微笑む。
「ソファーじゃ寝にくいでしょ?」

それでもゾロはソファーに寝たまま動かない。
「ゾロ?」
「駄目だ。うつる。」
ゾロが上半身を起こして、じっとルフィを見つめる。
「ダブルベッドだし、ルフィに風邪うつしたくない。俺はここで寝る。」


「だめっ…」
ルフィがゾロに抱きついて
「ゾロはベッドじゃなきゃ、だめ。」
と瞳を潤わせる。

「でもな…ルフィ…」

「それに……」

ルフィがゾロの胸元をぎゅっと握り締め、ゾロを見上げる。

「一緒じゃなきゃ、やだっ。」
「ルフィ…」

ゾロの手がルフィの頭を撫でて…

「今日だけは…ごめんな……。」




と………


突然、唇が柔らかなそれに塞がれて…




ルフィがゾロへと口付けをする。
恐々と、舌がゾロの口内に触れて、ぴくんと震える。

ぎゅっと瞑った瞳からは、涙が溢れて、鼻から洩れる甘い息は、熱に浮かされるゾロの脳内を溶かして……




必死にしがみついてくる、ルフィの肩にそっと手をかけ、体を離す。

「……ル、フィ…?」
ゾロの唇から、温かな息が洩れて……


「うつった」


ポロポロと涙するルフィが、ゾロの胸に、ぎゅうぎゅうと顔を押し付けて…


「ゾロの、風邪っ……うつったからっ、一緒に…寝る…もんっ………いっしょ…にぃ…」


シャツに染みる涙が冷たくて…

可愛い恋人にそっと、ごめんな、とキスをした。






あぁ、愛しているよ

がんがんと響く頭痛は忘れて


お前だけに包まれて………










/嗚呼、愛という不治の病を私にも……うつして…?
09/03/01


*

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