Beast



風邪っぴきさん*


大きな背中にぎゅっと掴まり
すりすりと首筋に顔を埋めてくる
可愛い可愛い、真っ赤な恋人




「ゾロぉ…熱、いぃ…」
胸に柔らかな感覚を覚えて目覚める。
胸元には、すりすりと顔を寄せてくるルフィの小さな頭があって…

「どうしたんだ?ルフィ…。」
いつもと様子の違うルフィの黒髪を撫で、心配そうにゾロが尋ねる。

「頭、ぼーっ、と、するぅ…」
涙でいっぱいの瞳で、ルフィはぎゅっとゾロに抱き付く。




ゾロはそっと赤く染まったルフィの頬に触れる。

そして、ふと眉を潜めると
「熱、あるな…」
と小さく呟く。




「ゾロっ…ゾロぉ…」

ルフィにとっては、普段体験することのない、慣れない熱はとても辛くて、必死に愛しいゾロの名を呼ぶ。

「大丈夫だからな、ルフィ…」

不安げに体を寄せてくるルフィの熱い額にキスをして、そっと背中を撫でてやる。






「……はい、よろしくお願いします。」
受話器をコトリと元の位置に返す。

職場に休むことを連絡し、ルフィの待つ寝室に戻ろう、と振り返ると…

そこには…

「ゾロ…」
フラフラになりながらも自分の後を追ってくる真っ赤な顔をしたルフィがいて…

今にも倒れそうなルフィを抱き留めて
「ルフィ…ベッドで待ってろ、な?」
ふぅふぅと苦しそうな顔を不安げに覗き込む。


「や、だぁ…」
ルフィの鼻にかかった小さな声が聞こえ…

「ゾロと、い、っしょ……ゾロが、いないと…やだぁ…」


細い腕がゾロの首へとしがみつく。


ゾロはしょうがないな、と苦笑し、ルフィをそっと抱き上げる。


「どうしてほしいんだ?」

ポンポンと背中を撫でてやりながら、優しく尋ねる。
「ルフィは、どうしてほしい?頭痛いなら一緒に寝る?汗かいたし、冷たいタオルで体拭いてやろうか?」
ゾロは、赤く染まった目尻に甘いキスを落とす。


「ずっと一緒にいてやるよ。なぁ、ルフィ…まず、何からしよっか?」





「お腹がすいた」と小さく呟く、愛しい愛しいハニーの為に、ゾロは台所でくるくるとお鍋をかき回す。

その背中にはルフィがぎゅっと抱きついていて…


片手でルフィを背中に抱いて、ゾロは大切そうにルフィをおんぶ…

少し大変ではあっても、「離れたくない」と駄々をこねる、可愛い可愛いルフィを安心させるためなら、ゾロにとってもそれは、幸せで……


「もう少しで出来るからな、ルフィ…」
「お、かゆ…?」
ルフィがゾロの首元からお鍋を覗き込んで尋ねる。

「たまごがゆ、な。」
ゾロは背中の恋人に微笑むと、カチリとコンロの火を止める。

そして、優しく、ルフィをソファーへ運ぶと
「ちょっとだけ、待てる?」
とルフィの頬を撫で、甘い声で尋ねる。

こくん、とルフィが頷くのを確認すると、ゾロの唇がルフィの形のよい鼻に触れて…




ふわりと湯気を出す小さなお茶碗と、麦茶の注がれたペアカップを持って、ゾロがソファーにやってくる。

ことりと、ソファーの前にあるテーブルにお茶碗とカップを置くと、そっとルフィを抱き上げ、ソファーに座り、小さな体を自らの膝に降ろす。

「お待たせ。」
離れていたのは、ほんの少しの間だけ…。しかも、ルフィの目の届く範囲。
けれど心配そうにするルフィに優しく呟いて、ゾロはそっとルフィの頭を撫でてやる。

ルフィもすりすりとゾロの胸に顔を寄せて………






「はい、あーん。」
ゾロの膝に、ちょこんと座ったルフィが薔薇色の唇をそっと開く。

「美味い?」
とゾロがルフィの顔を覗く。
「美味しいっ」
とルフィが小さく呟いて、少しだけ笑う。

そんなルフィを見て、ゾロも安心したのか、自然と笑みが零れた。






「今日のルフィは子供みたいだな?」
とゾロがルフィの口元を清潔なタオルで拭いて、何気なく微笑む。


「…や?」
と、ルフィから小さな声が聞こえ…

あまりに小さな声に不思議に思い、ゾロがルフィを覗き込めば、そこには…

ルフィの泣きそうな、悲しい顔があって…



「ごめん…ゾロ…」
と弱々しい声が洩れる。

先程より少しはマシになったが、まだまだ熱っぽい赤い顔がゾロを見つめて……

「おれのせいで、ゾロ、お仕事、いけなかったし…、いっぱい、いっぱい…おれ、迷惑、かけてるっ…」

真っ黒な瞳がゆらゆらと輝いて…

「子供、みたいでっ…わがまま、ばっかり、で……ごめん、ゾロっ…」


ホロリホロリと涙が伝う………




「ルフィ…」




そっと抱きしめて…

「愛してる」

と、囁いた…………




「好きだよ、ルフィ…」
「うん…」
「愛してる…」
「うん」

「だからな……」
「ゾロ…?」

静かに体が離れて、ホロホロと涙が溢れる瞳を見つめる。


「幸せだよ。ルフィ…」

柔らかな頬に温かな手のひら。

「一緒にいられて、俺は幸せだ。」


小さな手のひらもゾロの頬に触れて…

「迷惑、じゃ、ない…?」
可愛い幼い声が響く。
「嫌にならない?子供みたいでも、やじゃない?」
不安げに瞳が揺れて、ふわふわと長い睫が尋ねる。




「愛してる。」


揺らぎのない真っ直ぐな言葉。

「俺はいつだって、ルフィを愛してる。迷惑なんて思ったことないし、やだって思ったこともないよ。」
ゾロは心配そうにするルフィの頬を優しく撫でる。

「子供みたいって言ったのも、そういうルフィが好きだって意味。」

いつもは雪のように真っ白な額が、今日は少し色付いていて……

「ごめんな、不安にさせたな…」

ちゅっとゾロの唇が触れた…


「おれもっ…」
ルフィがゾロの背中に腕を回して…

「すきだっ。大好き、だっ」

しっかりとした首筋に柔らかな口付けをした………





「あ〜…」
ゾロが、しまった、とルフィを見つめる。

キョトンと小首を傾げる、ルフィの愛らしい顔は、先程と比べものにならないほど真っ赤…。

おかゆを食べて、少し落ち着いたと思ったのに、泣いたせいで、また熱が戻ってきたらしい。




「ルフィ…病院、行く?」
ゾロが、ふぅふぅと苦しそうなルフィを見つめる。

「やだっ」
ルフィの唇がぷっくりと尖って…

「注射、きらいっ…」
とゾロにぎゅっと抱き付く。


病院慣れしていないルフィは注射も大の苦手で…


「注射しなくても、いいかもよ?」
「かも、じゃ…やだっ」

困ったようにゾロはルフィの黒髪をとく。

「じゃあ、俺から注射しないように頼んでやるから…」

そんなこと出来るものなのか不安だが、今回ばかりは仕方ない。

ルフィの顔はみるみる赤くなり、息遣いも荒くなる。
これは本格的に不味い。

どうにかして病院に連れて行かなければ…とゾロはルフィを見つめる。


「それ、でも……やだぁ…」
ルフィが首を横に振って、鼻にかかった声で訴える。

「やだぁっ…行きた、く…ないぃ」

先程止まった涙も、またポロポロと溢れてきて、どうしたものか、とゾロが頭をかく。


「注射、しなくていいから。お医者さんに見てもらうだけ、な?」
ゾロがぽんぽんと背中を撫で、ルフィを宥める。

「や…だぁ…」
それでも、ひっくひっく、と嗚咽を洩らし、ルフィは断固として首を振り続ける。


「ルフィ…何がやなんだ?…病院が恐い?薬飲むのが嫌?」
ゾロがタオルでルフィの顔を拭いてやる。

「にゅ、う…いん…」


ルフィの小さな声が聞こえて…

「…入院?」
ゾロがルフィに静かに聞き返す。

「にゅ、いん…したらぁ……ゾロ、と…いっしょ……いら、れないぃ…」


どうやらルフィは、病院に行くと入院させられるものなのだと勘違いしているらしい。
まぁ、テレビでしか「病院」というものを見たことがないルフィが、勘違いをするのも無理ないのかもしれないな…

と考え、ゾロはしっかりとルフィを抱き直し、そのまま立ち上がる。


「や、だぁっ…びょ、いん…いきたく、ないぃ」
抱き上げられたルフィはパタパタと脚を揺らして、どうにか抵抗する。

そんなルフィの頭をそっと、自らの肩に押し付け、ゾロが囁く。


「ちょっと、診てもらって、一緒に帰ってこよう?」

ルフィの脚が次第に止まって…

「いっ…しょ…?」
「あぁ、一緒。」
と小さく呟いて、ゾロがそっと、ルフィをベッドへと降ろす。


「にゅ、いん…しなくて……いい…?」
ルフィが不思議そうにゾロを見上げて…

「しなくていいよ。」
と大きな手がそっと小さな頭を撫でる。
「ぜっ、たい…?」
ルフィの瞳はまだ少し濡れていて…


「俺から入院しないように頼んでやる。」
とゾロがルフィを見つめて…

「俺もルフィがいないと、困るから…」


ルフィがぼんやりとした頭で、ゾロの言葉を繰り返して…

真っ赤な顔でクスリと笑った。


「いっ、しょ…に…いって、くれる…?」
ルフィがゾロに向け、ふわふわと両手を伸ばす。
「びょ、いん…いっしょに、いって…くれる?」

ゾロがルフィの腕が届くように身を屈める。

しっかりとした首筋が小さな手に触れて、そっと引き寄せられる。


「もちろん。」
と囁く低い声が、ルフィの耳元で響いて…





「パジャマじゃ格好悪いから、お洒落してこうな?」
とふざけたようにルフィに笑いかけて、ゾロがクローゼットを開ける。

「帰りに病院の近くのカフェでパフェでも食べよっか?」
ルフィのパジャマのボタンを丁寧に外しながら、ゾロがルフィに優しく問いかける。

「フルーツ、パフェ…ある?」
真っ赤なルフィが小さく尋ねて…
「あるよ。チョコレートパフェも、苺のも。ルフィが好きなの食べていいからな?」

「ゾロ、は…?」
ティーシャツを被されながら、ルフィがゾロを見上げる。

「じゃあ、一緒にコーヒー頼もうかな。」
と、ゾロがルフィの柔らかな頬にキスをする。

「今日は久々のデートだな?」

なんて、優しく囁いて、ルフィを抱き締める。


真っ赤な顔が嬉しそうに綻んで…


「デートっ…」

と、ゾロの言葉を確かめるように繰り返す…








不謹慎だとわかっていても

ただ、お前といる時間が幸せで…


恨めしくも

風邪をひいたお前に感謝している

俺がいて…………










/どうぞ、何なりと…風邪っぴきさん?
09/02/27


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