Beast






あぁ、あれは俺が悪いんだ…。あいつを置いて、アホコックとばかりしゃべっていたから。まさか、あんなに悲しい顔するなんて…。からかうもんじゃねぇな。

「酒くれるしな、コイツは」

そんな一言で、あいつがあんなに焦るなんて、思ってもみなかった。そうか…と呟くあいつが頭から離れない。本当は否定すべきだった。ただからかいたかったんだ可愛いあいつを……




バカみたいだ。あれぐらいでヤキモチ妬いて。最近、毎晩ゾロは酒を飲みにキッチンへ行く。だから、寂しくて、今夜はこっそりキッチンを覗いた。サンジと、酒を手に何か話している。何だかんだ言って二人は仲がいい。似ているからこそ、喧嘩するんだ…きっと。大笑いはしない、でも楽しそう。サンジはテキパキと酒にあう、つまみをこしらえ、ゾロの前に出す。マネしたくたって、到底おれには出来ないこと。我慢できなくて、これ以上見ていると苦しくて、キッチンへ入った。ゾロはちらっとだけ、おれを見た。でも、何も言ってくれない。

「ゾロ…最近サンジと仲いいな!」

出来るだけ寂しい気持ちが伝わらないよう、元気よく言う。いきなり入ってきて可笑しな言葉。でも、何も触れられず返ってきた言葉はおれには冷たく感じた。…その通り、何も否定しようのない言葉。でも、おれは、出来ることなら否定して欲しかったんだ。お前の方が大切だって……。女々しいってわかってるけど、そうして欲しかったんだ。そうか…と呟いてキッチンを出る。泣きそうな顔を見られないように。ただ、ひたすら、寂しくて、苦しい…。サニーの頭に乗っかって、背中を丸めた。海や月が何だか揺れて見えて…。




船首の上に小さな影。
「ごめん…」
後ろから抱きついた。いつも明るいお前をイジメてみたかったんだ。ただそれだけ…。お前からねだられて見たかったんだ、俺という存在を。
「ゾロ…?」
と尋ねる瞳には涙が溜まっていて、それでもこいつは無理に笑って
「何が?」
としらばくれる。
何だかその笑顔が痛々しくて…

「お前が一番だから…お前が好きだから…。」

ただ伝える、本当の想い。酒が入っていたとしても、少々やりすぎたと自分でも思う。こいつを哀しませるなんて、俺はなんて酷い奴なんだろう。
「嫌われた、かと、思っ、た……」
とふにゃと表情を崩し、泣きながらギュッとしがみついてくる。俺はそんなルフィの背に優しく腕を回す。
「おれこそ、ごめん…。もう大丈夫。」
目元をゴシゴシ擦り、真っ黒な瞳は俺を見上げてくる。




ゾロも泣きそうな顔をしていて…。そんな顔するなんてずるい。嫌われたかと思った。ゾロを独り占めしようとしたから。サンジと仲良く話していたから。こっちを向いてくれなかったから……。拭ったはずの涙がホロリと零れる。

「よかった……」

そうとしか言えなかった。それだけだった。毎晩毎晩、不安の連続だったから。
「おれのことが嫌いだから、毎晩、酒飲んでんのかと思った。昼間は優しいのに夜だけ一人でキッチンに行っちゃうから、夜なんて来なけりゃいいって思ってた。」
でも、夜が来てよかった。だって、ほら、今夜は二人っきり。




「不安にさせちまったな?悪かった。」
なんて、可愛いのだろう。本当にこいつは…。
「本当はな、毎晩、エロコックとお前の話してたんだ。クリスマスちけぇし、好きな食べもんとか、ケーキとか、お前が飲めるようなあんま強くねぇ酒とか。面と向かって聞けばよかったな…。あと……」
寂しがりやの船長の頭を優しく撫でてやる。
「お前に"お前がいないとダメだ"って言って欲しかった。だから毎晩キッチンへ行った。でも、お前を苦しめちまった。俺が悪かった…ごめん」
もう一度素直に謝る。
「おれはいつでも"お前がいないとダメ"だけど、そう言って、嫌われるかもって怖かった。素直に言えばよかった。ごめん」
ホロホロ涙が溢れ出て、柔らかな頬を伝う。謝る必要などないのに…なんて純粋で一途なんだろう、こいつは。愛おしすぎてクラクラする。
「もう、泣くな…俺はずっと傍にいるから。」
ぎゅっと抱きしめてやると、ルフィはもっと泣いた。
困って頭を撫でてやるとボソリと聞こえる、かわいい声。
「うれ、しいんだ…」
ん?と涙で濡れた顔を覗き込む。
「大好きだ…」
覗き込んで見えた顔は笑顔で。
「キス、して…?」
長い睫を震わせる。
俺は静かに静かに口づけした。

心配しなくてもいい。
ルフィ…俺はお前がいないと生きてけねぇから。


波は穏やか、星は涙のようにキラキラ輝く……








/あぁ神様!!嬉しすぎて、涙が涸れてしまいそう!!
08/12/11


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