Beast



ソファー*


せっかくのお休みだと言うのに、今日は何故か客入りが少ない。

バレンタインは自宅で過ごすってか?
と皮肉を心で呟いて……

汚れてもいないテーブルを布巾で拭いた…





カラン…

とドアの開く音がした…


「いらっしゃいませ。」
と入り口でお迎えする。


茶色の花がついた可愛いカチューシャに、細い足がすらりと伸びるチェックの短パン。白い、比較的短い靴下にツヤツヤの深いブラウンの靴がよく似合っていて…

細い肩からして、まるで少女のようで…




「ゾロ、来ちゃったっ」
と可愛い、可愛い、お客様は微笑む…


「いらっしゃいませ、お客様…」
ふざけて丁寧に挨拶をして、ふわりと柔らかな黒髪を撫でた……



大切なお客様をお席へとご案内。



小さなこのカフェには、全くと言っていいほど同じ物がない。

カップもお皿も、店長の手作りだし、家具もアンティークショップで買い集めた物ばかり。
だからこそ、ひとつひとつ、テーブルもイスもそれぞれ堂々としていて…

バラバラではあっても、何故かすべてが調和して、落ち着く空間…



一番奥の桃色のソファーまで、白い手を引いて…

「こちらへどうぞ。」

メニューを小さな円テーブルへ



「ルフィ、今日お休み?」
とまん丸な瞳を覗けば

「うん、おやすみっ。」
とにっこりと笑うルフィ。
「土曜日だからっ」



「そっか…」
と呟いて、ゾロはそっとメニューの右上を指す。


「これ、オススメ。」



しっかりとした指の下には、バレンタイン期間限定のホットチョコレート。



「じゃあ、これください。」
とパタンとメニューを閉じて、にっこり笑うルフィの額に甘くキスを落とし…

「了解…」
と囁いて……







清潔に保たれた愛らしいキッチン…


「ゾロ君、あの子お友達?」
店長がエプロンを外しながら、尋ねる。

「もし、そうならゆっくり喋っていいよ。お客さん少ないし、今日はもう店仕舞い。」
店長は困ったような笑顔をみせる。

「CLOSEの札掛けて帰るから、戸締まりお願いしてもいい?鍵はいつものボックスによろしく。…ほいっ」

「あ…はい。」
ポンと投げられたキーホルダーを受け取る。


店長はテキパキと身支度を整えると

「じゃあ、よろしく。あの子のお代はオマケしたげるからっ」
とカバンを持ってそそくさと店を出る。



大切な鍵を自分に預けるなんて、なんて適当な店長なんだろうと、ゾロは少し呆れるも、自分を信頼してくれていることに心の中で感謝する。




ホットチョコレートを温めて恋人へ……


ピンクのソファーにちょこんと座るルフィは、近づいてくるゾロを見上げ、にっこりと微笑む。

「オススメ、できた?」

と瞳をきらきらと輝かせて…


「お待たせ致しました、ホットチョコレートでございます。」

ルフィの前に大きめのマグカップがそっと置かれる。


ルフィはくすりと笑い
「ありがとう…」
とゾロの鼻にちゅっと口づける。


ルフィの唇から甘い香りがして………


すっとゾロの手がルフィに伸び…

「お客様、当店は持ち込み飲食禁止となっております。」


ゾロがルフィの手から、食べかけのチョコレートを取り上げる。


「ゾロっ」

ルフィが手を伸ばすも、立っているゾロの高く上げられた手に届くはずもなく…


「俺の愛のホットチョコレートの前に、何食ってんの?」

とゾロはルフィの耳元でそっと囁き、チョコレートを少しかじる…


甘い……




「さっき、貰ったんだもんっ」
ルフィが唇を尖らせて…

「誰に?」
ゾロがにやりと笑って…

「俺よりすきな奴?」
と意地悪く尋ねる……


「ち、違うぞっ!ただ、さっき、道端で友達に会って、ただの友達でっ」


焦っているルフィを可愛いな…なんて、眺めて…



知ってるよ?
お前は俺が一番すきだもんな?



「だから、返してっ」

とルフィがソファーの上で膝立ちし、ゾロに手を伸ばす。






ルフィの手にチョコレートを押し付けて、不安定な小さな体を容易くソファーへと転がして…


「ゾロ…?」

自分を見つめてくるゾロに、ルフィがそっと呟く……


「ルフィ……」


ゾロは優しくルフィの頬に手を添え、そっと口づけを落とす。




「ゾロっ、ここ、お店っ…」
ルフィが顔を真っ赤にさせ、チョコレートを持った手でゾロの胸を押す。

「でも、誰もいない。」
ゾロの温かな手のひらがルフィの細い脚を撫でて……

んん、とルフィは瞳を瞑る。

そんなルフィからそっとチョコレートを取り上げて、テーブルへと静かに置く。


「なぁ…ルフィ、誰もいない。」
わざと耳元で濡れた声で囁いてやる。

「で、でも、誰かくるかもっ…」

ルフィの手はゾロのエプロンをきゅっと握りしめ…


あぁ、愛おしい…………




「誰かきてもいいだろ?」


今日はもう店仕舞い、だなんて教えてやらない。


「やだっ、誰か来たら、やだっ」

ルフィの瞳が揺らいで……




「ふたりだけのバレンタインがいいっ…」




じっと見つめる瞳は深い黒…

何でも呑み込んでしまうような………


あぁ、愛らしい、愛おしい…




「わかった…ふたりだけのバレンタイン、な?」

と……








ありったけのキスをして

ありったけの愛を注いだ……………



抱き締めた体は温かくて……

甘くほろ苦い、

心地良い匂いがした…………










/ねぇ、こんなソファーじゃなくて、貴方のお膝に座らせて…?
09/01/31
(2000hitフリー小説)
09/02/07
(配布終了)


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