Beast



中庭*


退屈な授業をただ呆然と聞く。
毎日、毎日…

でも、それでも、休まず登校するのは
寂しがりやのお前のため……




一度聞けばわかるというのに、黒板の前に立つ教師は、先程から同じ単語を何度も繰り返す。
ゾロは机に頬杖をつき、ぼんやりと窓の外を眺める。
今日も、何も変わりなく、寒くて静かな1日。

教師の声が心地よい子守歌に聞こえ、うつらうつらとゾロの瞼は重くなる。




ガラッ!!




教室の扉が勢いよく開いて……


ルフィの愛らしい顔が、今は悲しそうに歪み……

「ゾロっ」
とゾロに抱き付く。






教室がしーんと静まり返り……

カチカチと鳴る時計の音が、少し耳障りに感じた…





「ち、ちょっと、君。一年生だね?」

と教師がゾロにしがみつくルフィに近付き
「教室に戻りなさい。今は先輩たちの授業中だよ。」

ルフィをゾロから引き離そうと、小さな肩にそっと手をかける。


「…ゾロっ」
ルフィは離れまいと、更にゾロの胸にぎゅっと顔を押しつける。

ゾロも、そんなルフィをそっとを抱き寄せ、困ったように教師を見上げ……






「先生ー!」

教室の隅の席に座る金髪の生徒が、静かすぎる、その場に合わないような、妙に明るい声を出し立ち上がる。
「その子、気分悪そうだし、ゾロ君に保健室に連れて行かせればいいと思いまーす。」

チラリとゾロを見、金髪の生徒、サンジはにっと笑う。

到底、優しい笑みだとは思えなかったが、助かった…とゾロはサンジに瞳で伝える。


「でもねぇ…」
教師は困ったようにゾロとルフィを見下ろし、眉を下げる。



ガタン…

と机と椅子が鳴る…


「先生、授業を続けてください。」
ゾロがじっと教師を見て…
「俺、こいつを保健室に運んできます。」


「え、あ、ロロノア君っ?」
ゾロは、慌てる教師を無視して、ルフィを抱き上げる。

教室のドアをガラリと開け
「貸りは返す…」
とサンジに小さく呟き、冷たい廊下へと踏み出して……



「はは、素直に好意を受け取れよ。負けず嫌い…」
と小さな声でぽつりと呟き、しぶしぶ黒板に戻る教師へと、サンジは静かに視線を向ける…




授業中の中庭は静かで、ゾロとルフィのふたりきり…。
ゾロはそっとルフィをベンチへと降ろして
「どうした?」
と、柔らかなルフィの頬を撫でる。

「なんか、恐いことでもあった?」
ホロホロと落ちる涙を、温かな親指で拭ってやる。


ルフィはスンスンと鼻を鳴らし
「やな、こと、あった……」
と自分の頬に触れる、ゾロの腕をぎゅっと握る。
そして、涙で潤むまん丸の目で、ゾロをじっと見つめ……


「ゾロは、おれのこと、すき?…嫌いになんない?」




ゾロが優しくルフィの唇に触れる…

「嫌いになんてなるかよ、馬鹿。」

ぎゅっと抱き締めてやる。
「不安になんてなるな…」

優しい瞳で見つめられれば、涙は自然と治まって…


「何?やなことって…」
と柔らかに黒髪を撫でて、ゾロはそっと尋ね…


「教えて…?」


とルフィの耳元で、甘く甘く囁く。


ルフィの小さな肩がふるりと震え…

「ゾロっ……」
とゾロの背中にルフィの腕が回され…


「男同士は…」
ルフィがゾロのブラウスをぎゅっと握る。
「赤ちゃん出来ねぇんだって…」
ルフィがまた瞳に涙を溜め……






数日前、ルフィが自宅に泊まりに来たときのことを、ゾロは、ふと思い出す。

確かにゾロは、甘いひとときを終えた後、静かにルフィにこう言ったのだ…


「お前との子供が出来たら可愛いだろうな…」


行為のせいで少し火照った可愛いルフィの顔を見て、ただ何気なく呟いた、夢見る一言………






「おれ、ゾロの赤ちゃん、産めないっ」
ルフィが悲しげにゾロを見上げて…

「こんなに大好きなのにっ」

ウルウルと輝く瞳にはゾロの困ったような優しい笑みが映って………




「ルフィでいい」

たまらなくて抱き締めて…

「ルフィだけでいいよ、何も要らない」



無知なお前に、
苦しいほど胸が焼かれて…

馬鹿な俺の一言で、
そこまで悲しむお前が愛おしすぎて…



「ゾロっ…?」
ルフィが驚いたように目を見開いて、

「赤ちゃん、産めなくても…」
ルフィの顔がへにゃんと崩れて

「おれでも、いいの…?」

ホロホロと涙が零れて…………




「お前がいい。」

大丈夫だと、ぎゅっと引き寄せ

「お前じゃなきゃ駄目なんだ。」

心配させて悪かったと黒髪を梳き




「ルフィ…愛してる……」



そっと甘くキスをした…









何もない中庭を眺める。

何も変わらない、日常。

退屈で、つまらなくて………

だけど、でも、
わざわざ学校に来るのは…




俺の隣で泣き疲れて眠る
寂しがりやのお前のため……










/静かな中庭で薔薇に隠れて紅いキス。
09/01/26
(2000hitフリー小説)
09/02/07
(配布終了)


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