Beast



カレーライス*

その辛さの中に甘さを感じて……




「久々にカレーでも食いたいな」
なんてベットに横になり、ゾロがぼそりと呟いて…

その隣でごろんと転がっていたルフィはゾロを見上げる

そして…


「じゃあ明日、カレーつくる!」
とにっこり笑う。


「明日、ゾロ、早く帰ってこれるんだろ?」

とゾロの腕に抱きついて…

可愛い瞳でゾロを見つめて…


「まかせといてっ」

と自信満々に、にしし♪と笑う。




その笑顔が可愛くて、ゾロもついつい
「楽しみだな。」
なんて微笑んで……




内心不安で仕方なくって…

普段は危なっかしくて任せていない

料理をさせるなんて

本当は無謀で……


でも、信じてやりたくて…

あいつの笑顔が好きだから……






その晩、ゾロは真っ白の紙にボールペンを滑らせた……







いつもと変わらぬ…
朝の玄関。


「早く帰ってきてなっ」

と見上げてくる可愛い奥さんにキスを落とし、ゾロはそっとルフィに昨夜遅く書いた手紙を渡す。


「…なに?」
とルフィが小首を傾げると、ゾロは優しく黒髪を撫でて…

「愛の手紙…」

とからかうように、耳元で低く温かな声で囁く。


「あとで、読んどけ。な?」
とぎゅっと抱きしめて、名残惜しげにもう一度キス。


「カレー、楽しみにしてっから」
と微笑んで、ドアに手をかける。


「行ってくる…」








ルフィはゾロにたくさん「いってらっしゃい」と手を降った後、リビングのソファに三角座り。


「何だろ、この手紙…」


じーっとゾロに渡された封筒を見つめ、そっと開いてみる。




中には2枚の白い紙。


1枚目の紙を開くと、そこには……




-ルフィへ-

カレー凄く楽しみにしてるけど、怪我とかはしないように。なんかあったら、すぐに電話しろ。あと、カレーの材料は多分冷蔵庫ので、足りるから。
お昼は昨日作ったチャーハン温めて食べろ。冷蔵庫に唐揚げもあるから。

俺、心配はしてるけど、ルフィのこと、ちゃんと信じてるからな。頑張れよ。




しっかりとした、ゾロの筆跡。

「頑張れよ…っ」

手紙の最後の一言を、嬉しそうに、噛みしめるように、ルフィは呟く。


もう1枚の紙を見れば、細やかに書かれたカレーのレシピ。

ところどころに、「指を切らないように」だとか、「火傷に気をつけて」だとか、ゾロの愛情がちらほら覗く。


ルフィはそのレシピを見、嬉しそうに微笑むと、ちゅっと文面にキスをする。


絶対に美味しいカレーを作ってやるっ!


と心に決めて、エプロンに手をかける。










「ルフィ…カレー作って待ってんだろうな…」

とゾロが空を見上げて呟く。


今は仕事の帰り道。

今日は珍しく、早く仕事が終わる日で、まだ5時前……


可愛いルフィの顔を思い浮かべ、自然と足が進む。






玄関の前に立つと、すでにカレーの匂いが漂っていて…


「ただいま」

とゆっくりドアを開け、玄関で「おかえりなさい」を待つ。


スリッパのぱたぱたと鳴る音が聞こえ、キッチンの方からルフィが駆けてくる。


ゾロの胸に両手を当てると、そのまま……



「ごめんっ」
とルフィがゾロを突き飛ばして……




パタン……………




と扉が閉まり……




ゾロひとりが、外へと取り残され…



ゾロは呆然と扉を見つめて
「ル、フィ……?」
と扉の向こうに問いかける。


「ゾロ、ごめん……」

小さな小さな声が聞こえて…

「家に入らないでっ」

いつもは明るく輝いている声も、今は怯えるように震えていて…



「なんで?カレー食べねぇの?」

とゾロは扉にもたれかかって…

「なぁ、ルフィ?」

と甘い声で名前を呼ぶ




「カレー…は…」


と小さな声がこぼれた後…


沈黙…………




「ルフィ…何があっても、俺はルフィを信じてるから……」

ドアに優しく手を添えて……


「開けて?」








「ゾロ〜っ!!」

玄関がぱっと開いて、大泣きするルフィが飛び出す。

ゾロはしっかりとルフィを抱き止め、よしよしと背中をさすってやる。


「また、美味くできなかったのか?」
と静かに尋ねると、ルフィは首を横に振る。

「美味くできたのに、泣かなくていいだろ?」
と優しく抱きしめて

「どうした?」

とそっと問う。




わんわん泣いているルフィは、涙で震える声で、一生懸命答える。


「か、カレー…じょ…ずに出来た、のにぃ…おれが、おれが…しっぱ、してっ……食べれない、のぉ…」
ヒックとしゃくりあげ、ゾロにぎゅーっと抱きつく。


「あぁ、そうか…。残念だったな?」

ゾロは困った顔をつくると、ぽんぽんと優しくルフィの頭を撫でてやり



「なぁ、ルフィ…家、入ろ?」

とルフィの冷える身体を気遣い問う。




途端にルフィがゾロに抱きつく腕に力を入れる。
まるで、動きを封じるように……


「入っちゃ、やっ…」

ルフィはゾロの耳元で、小さく小さく呟いて……



「なぁ、ルフィ?こんな寒いところでずっといたら、風邪引いちまうから…」

ゾロは、そっとルフィを抱き上げ

「大丈夫…。怖がんなくていいから…」

とルフィの耳へと静かに口付けし、家へと上がる。


ルフィは黙ってゾロにしがみついて…






ゾロはキッチンへと真っ直ぐ歩を進める。

ルフィが涙する原因が、きっとそこにはあるから…………




だんだんと、キッチンのカレーの匂いが強くなって……


そっとキッチンへと続くドアに手をかけた……




「いや…だ」

ルフィが涙いっぱいの瞳でゾロを見つめる。

「ゾロ、絶対悲しむもん。…やだっ」

瞳からホロホロと溢れる涙はゾロを濡らし……






そっと、口付けし…

頬を優しく優しく撫でて……



「ルフィが悲しいと、悲しいんだ。俺は。」

ゾロの瞳は美しくて…



「ルフィが悲しむ理由が知りたい。」








ゆっくりと入ったキッチンは………






カレーの海




絨毯も床もカレー塗れ。
人参やらジャガイモが、そこらじゅうに転がって…


ルフィが慌てて拭いたのであろう、大量のタオルが山になってある。






ゾロがルフィをそっと降ろす。

「びっくりしたよな?」

優しく手を伸ばし

「恐かったよな……」

柔らかな手で瞳を擦るルフィの頭を、そっと撫でてやる。


「ごめんな…ひとりにして…」
ゾロはそっとルフィの手首を掴んで、顔から小さな拳を離す。

そして…



可愛い眉間にちゅっとキスを落とす




「ゾロっ…ごめん、なさいっ」

ルフィがゾロを見上げて、

「カレーも駄目にしちゃったし、絨毯も…もう使えないし…。部屋中カレーの匂いだし…」


まだルフィの瞳からは涙が止まらなくて…






「全部、全部、許してやるから…」


ゾロはルフィをぎゅっと抱いて……




「だから…泣くな…」




柔らかな唇に吸い付き、優しく小さな頭を撫でて…




「ルフィ。一緒にお片付け、しような?」










床をふたりでゴシゴシ吹いて、

ふたりでタオルを洗濯機へ運び

絨毯はふたりで丸めて捨てた……


ふたりで一緒に、真っ白なご飯で、おにぎりを作って………


そのあと、ふたりで約束…




来週はふたりで一緒に

美味しいカレーをつくろう…


指切りの変わりに

抱きしめあって、キスをした……




その味は

甘くて、甘くて……










/貴方のシャツに付いたカレーの染みさえ愛しくて…
09/01/22
(2000hitフリー小説)
09/02/07
(配布終了)


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