相合い傘*
ぱらぱらぱら、と…
屋根の上で雨粒が踊る…
窓の外を見ると
キラキラと雨が降っていて…
ルフィは窓の淵に肘を乗せ、じっと外を見つめて、小さくうっとりと溜め息をつく。
「綺麗な雨っ…」
可愛いお家の窓縁には、雪で形づくられたかのような美しい写真立てがあり、その中から真っ白なタキシードを着たゾロが、ルフィをじっと見つめていて。
ルフィは薄いガラスの上から、愛しい愛しいダーリンの顔をそっと指で撫でる。
「ゾロもきっと綺麗だなって言って…」
ルフィの頬がほわんと染まり、
「きっと、キスしてくれる」
まだ帰らぬゾロを思って微笑むルフィの顔は…
白タキシードのゾロの隣で、純白のドレスに包まれ笑っているルフィと変わらず、幸せそうで……
結婚してよかった…
幸せだ…
と物語っていて…
ふとルフィが壁に掛かった時計に目をやる。
もうすぐ6時………
毎日ゾロは6時頃に「ただいま」と、ルフィの大好きな声で囁いて、キスしてくれる。
もうすぐ、ゾロに会えるっ!
と嬉しそうにルフィはぴょこんと立ち上がり、真っ黒な瞳で、また窓を見つめる。
先ほどまでキラキラ輝いていたはずの雨粒が、風に吹かれて暗い空から線を引いていて……
雨、強くなってきたな……
とふと考えて、
はっとする。
「ゾロ、傘持ってないっ!」
真っ赤なコートをさっと羽織って、傘を掴むと………
玄関の扉がパタンと閉まった……
あぁ、雨が強くなってきた…
ゾロはバスに揺られて、窓の外を眺める。
そういや、傘ねぇな…
とぼんやり考え………
「ルフィ…雨好きだよな…」
と小さく呟く。
可愛い可愛いゾロのハニーは、宝石のように空から落ちてくる雨が大好きで……
それを見てはしゃぐルフィも、抱きしめてやりたいぐれぇ可愛いけど……
と愛らしい笑顔を思い出し、ゾロは少し口元を緩める。
毎日毎日、ルフィは「おかえり」と飛びついて、あのふっくらとした唇で「ただいまのキス」をねだるのだ……
幸せで…
幸せすぎて…
ルフィと一緒になれてよかった…
と心から思うのだ。
雨降りバスは、少し遅れてバス停へとつく。
プシューという音で扉が開き、ゾロも土砂降りの中、足を地につける。
止めどなく冷たい雨粒は降り注いで…
「濡れて帰るのも悪くない、か…」
ゾロはどんよりと暗い空を見上げて呟く。
赤くて可愛い傘がくるり
ゾロが道路を挟んで向こうにあるバス停を見つめる。
赤くて可愛い傘がくるり
毎朝、ゾロがバスを待つ、その場所に真っ赤な傘をさした、愛する影が見えて…
躊躇わず走った……
いつもゾロがバスを待っているバス停。
ここにゾロが帰ってくるっ!
ルフィはくるりと傘を回す。
毎朝、ゾロが待っている上りバスの停留所。ということは、つまり、帰りは逆方向の下りバスにのって、愛しい人が帰ってくる筈なのだが、ルフィはそんなの知るよしもなく………
また、赤い傘は回る
「まだかなぁ…」
と、どんよりと暗い空を見上げて呟く。
「早く、帰ってこないかなぁ……」
傘がふわりと舞って…
びしょ濡れのゾロがルフィを抱きしめ…
「ただいま…」
と耳元で笑う。
ルフィは驚いたようにキョトンとし、
そして……………
「びしょ濡れっ」
とクスクス笑い、おかえりっ、とゾロの胸に顔をうずめる。
「迎えに来てくれたのか?」
とゾロがルフィの背を撫でて問う。
「うん。」
とルフィはにっこり答える。
「でも、もう、びしょ濡れだなっ」
ルフィはゆっくりとゾロの濡れた頬に触れる……
「あぁ…びしょ濡れ…」
ゾロが深い緑の瞳にルフィを映して…
「だからさ、ルフィ……」
ルフィの耳元で、低く濡れた声で、甘く甘く囁く………
「俺を温めて…」
ルフィの肩がふるりと揺れ、自然と瞳が潤み……
真っ赤な傘の転がる横で……
ふたりの唇がそっと触れ合い……
両手を繋いで、真っ赤な傘の元、
この恋が永遠であることを想う………
/そう、あの頃、黒板に描いたあの相合い傘が、今の私たち。
09/01/22
(2000hitフリー小説)
09/02/07
(配布終了)
*
[ 32/99 ][prev] [next]
Back