書き初め
「ゾー…ロっと!」
真っ黒けな船長は笑顔で半紙に向かう。
目の前の半紙には大きくへろへろな「ゾ」「ロ」の二文字。
「あのなぁ、ルフィ。書き初めって言うのは、今年の目標とかを書くもんなんだぞ。」
と隣で座る剣士はやれやれとため息をつく。
「いいんだ、これで!」
ルフィはにこにこ笑うと書き終えた紙を床に置き、新たな紙を机に乗せる。
しょうがない奴…と一言呟くと、ゾロはふぅーと息を吐き、目を閉じた。
そして筆を静かに持ち、しなやかに書き上げた二文字は…「鍛錬」
「げ、ゾロまだ鍛えるつもかっ?」
ルフィがゾロの書き初めを見て、驚いたように尋ねる。
「まだ俺には足りねぇもんが、たくさんあんだろ?だから鍛錬。」
ゾロは当たり前のごとく言うと
「それにお前のよりマシだろ。」
とルフィの頬についた墨をゴシゴシ擦ってやる。
「違うんだぞっ!ゾロ。これはぁ…」
とルフィは今まで書いた字を縦に並べ始める。
「ほらっ読んでみろっ!」
と床に並べた半紙をぴっと指し、ゾロを見る。
しぶしぶというようにゾロは立ち上がると、並べられた半紙をじっと見た。
「ずっと」「ゾロ」「と」「幸」「せに」「なりた」「い」
一枚の紙には書ききれない!っと
その字はしっかりと主張していて…
「何書いてんだ…。」
とゾロはルフィのおでこを軽く小突く。
「だってこれが、おれの望みだもんっ。」
ルフィはにっと笑い、ゾロに抱きつく。
ゾロはルフィを見つめる。
嬉しそうに自分を見上げる真っ黒な瞳に、一生懸命筆を握っていた手、先程までなれない正座を我慢していた細い脚…あちこち墨が飛び散った体。
全てが愛おしかった。
愛おしくて堪らなかった。
「なぁ〜これ、どこに飾ろっかぁ〜?」
と呑気に尋ねるルフィを抱き上げると、ゾロは洗面所へと足を運ぶ。
「ど、どうしたんだ?ゾロっ!」
と急に抱き上げられ驚いたルフィは足をパタパタと動かす。
洗面所につくとルフィをそっと降ろし、ゾロはドアに鍵をかける。
カチャンという軽い音にルフィは不安げにゾロを見る。
「ゾロ……?」
それは一瞬の出来事で…
ゾロとルフィに重なって…
そして…
唇に感じる柔らかな感覚は
確かに「キス」で…
いつも以上に優しく甘い。
「ルフィ…愛してる。」
耳元で聞こえる温かな低音は
確かに「彼」で…
いつも以上に優しく甘い。
「あんな可愛いことされたら、俺、我慢できねぇだろっ?」
少し困ったように笑う顔も、
確かに「ゾロ」で…
いつも以上に優しく甘い。
「いつものことだろ…?」
ルフィはにっこりと微笑むと、ねだるのだ。
「もっと…もっとちょうだい?」
お前が願わなくたっていいように…
俺がお前を幸せにしてやるよ……
それはお前の目標や望みなんかじゃない…
俺たちの未来だ……
/書き初めしている間だって、集中できない。だって貴方が頭の中で私を呼ぶから。
09/01/01
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