Beast



ペアカップ*


普段通り、ただいま、と玄関に入ると、なぜか涙目のルフィにぎゅっと抱きつかれ…

「ごめんなさい…」

と小さな肩が揺れる。


「どうした?」

と聞いたってふるふると首を振るだけで…



ゾロのコートを握るルフィの柔らかな手がチラリと見える。

真っ赤……


「ルフィ…その手…」

ゾロが驚いたようにそっとルフィの手首を掴んで、真っ赤に染まった手を自身から離させる。

ぎゅっと閉じられた拳の中には、何かが光って…

「ルフィ…手、開けて?」

小さな拳を大きな手のひらが包む。


「ゾロっ…やだっ」

まだ涙をホロホロとルフィは零して、


「お願い…ルフィ…」

とゾロが涙の溢れ落ちるルフィの目尻にキスをする。

「ルフィを泣かせる原因…見せて?」

とそっとルフィの柔らかな指に手をかけ

「大丈夫だから…」

ゆっくりと開く。




小さな手のひらにガラスの破片。


白地に緑のラインが入った、その小さな欠片は、どこか見覚えがあって……




「俺の?」

ゾロが静かに尋ねる。


ルフィはうんうん頷いて

「ゾロの、お揃いの…ペアカップ…」

涙いっぱいの瞳にゾロを映して…


「ゾロのカップ、洗おうって思って、ゴシゴシして、ぴかびかにして…布巾で…拭いてたら……」

ホロホロと涙が頬を伝って、スーッと血がルフィの腕を流れる。


「おれと、ゾロのっ…大切なっ…大切なコップなのにっ」




愛おしくてぎゅっと抱きしめた。


ここまで大切に想ってくれる恋人に

頭がクラクラと揺れて……


苦しいほどだった……




「ゾロっ…ごめん、なさい」

謝らなくたって怒ってなどいないのに…


それでも泣き続けるルフィを抱いて、洗面所に向かう。



洗面台の前にルフィを立たせて、後ろから抱くように、ゾロがルフィの腕を掴む。

「滲みるかもしんねぇけど、我慢な?」

耳元でそっと、優しい声で呟いて、ルフィの真っ赤な手を流れ落ちる水につける。

赤透明な水がくるくると小さなまん丸穴に吸い込まれていく。




「俺はな……ルフィ…」

ゾロが低く温かい声で、まだ涙の止まらないルフィに囁く。


「ペアカップが割れたことより、お前の手が真っ赤に染まってる方が悲しいんだぞ?」


ルフィがピクリと肩を揺らし、ふと顔を上げ、鏡を見つめる。

鏡越しにゾロと目があって……


「ペアカップは、また新しいのを買おう?でも……」


ゾロはそっと水に浸かった小さな手のひらを撫で


「俺の好きな手は、世界にひとつしかねぇんだよな…悲しいことに…」

とルフィの首筋にキスを落とす。




「じゃあ、」

ルフィの瞳から落ちる涙が涸れ始め…

「また、どっか、連れてってくれる…?」

と愛おしい、赤い唇が静かに動く。


「デートして、また、ペアカップ…買ってくれる?」

鏡を通して真っ黒な瞳がゾロを射る。


「あぁ、もちろん。」

とゾロは微笑んで…






「ルフィ…涙だらけの顔をお風呂で綺麗にしよっか?」

とゾロがにっと笑う。


ルフィは恥ずかしげに、こくんと頷くとゾロを見上げる。

「ゾロも一緒にっ…」


「うん、入ろうな…」

そっとルフィの頬を撫でて、ルフィのボタンを丁寧に外してやる。


ルフィもそっとゾロのコートに手をのばすが、すっとゾロに手首を掴まれて…

「怪我人さんは、だぁめ。」

とその手を温かく撫でられて…




「なぁルフィ……」


ルフィの前に跪いて……


「次からは、あんなカップじゃなくて、俺をぎゅっと抱きしめてくれよ…な?」


なんて、ゾロは少しふざけたように笑って……




ルフィがクスリと小さく笑う

「ゾロ、大好きっ…」


細い腕がゾロの背にしっかりとしがみついて…………








もしも

ただのカップを割っただけなら

私は泣かない…


あれが

貴方と私の愛の証だったから…

恐くなったのよ……


でも

今はあのカップがなくたって

きちんと愛が伝わってるってわかるから…









/どんなカップでも、お前とのペアカップだから、俺のお気に入りなんだ。
09/01/21


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