Beast



待ち合わせ*


プルルル…
という今日12回目の寂しい音に

「お掛けになった電話番号は只今…」
という綺麗で無機質な女性の声…




「ゾロの馬鹿っ」
パカンと携帯を閉じてポケットにしまう。

ケーキ屋の前を通ってふっとショーウインドーを遠目に眺める。
チョコレートが乗った可愛らしいものから、色とりどりのフルーツで飾られたホールケーキまで、きちんと並んで座っている。

「あんな大きなケーキ、食べたかったな…」
と小さくつぶやいて、トボトボと商店街を歩く。


空を見上げると、オレンジ色の空に一筋の飛行機雲がのびていて…

「綺麗っ」
とほぅと白い息を吐く。


ジャケットに両手を突っ込んで、ゆっくり歩く。

もし彼が追いかけてくれば、追いつけるぐらいゆっくりと。


また携帯を開き、画面を見る。
……着信なし

「ゾロの馬鹿っ」
また呟く。

腹いせにメールを一件送ってやる。





ソファーに座って携帯が鳴るのを待つ。

「学校が終わったら電話するからっ」
と微笑むルフィの顔が頭に浮かぶ。

今日と明日は、ルフィの為だけに尽くしてやろうと、ルフィには秘密で2日の休みをとった。

今日はルフィが学校だが、明日は土曜でお休み。

今晩遅くまで、甘い時間を過ごして、明日の朝は2人ベットで遅い起床…

なんて、上手く行くわけねぇよな、と自分に苦笑し、卓上の携帯にチラリと目をやる。


いつもなら帰っていい時間なのに、携帯は鳴る気配さえ示さない。

何かあったのかも、と机の上から携帯を取ると、画面を開く。


……真っ黒


「しまった!電源っ!」
先ほどから身動きひとつ見せなかった携帯は、無意識に電源を切っていたらしく…


パァと画面が明るくなり、トップ画面には着信履歴…

ページを開けば、全て愛するその人の名。

一件だけ届いていたメールを開いてみれば、短い、文章。


ゾロにあいたい


コートをひっつかみ、走る。
携帯をぎゅっと握りしめて…


いつも待ち合わす公園には、人影はなくて…


携帯を開き、ルフィを呼ぶ。


プルルル…

早く出てくれ


プルルル……

頼むから…


「……もしもし」
ボソリと聞こえるルフィの声。
不機嫌だけれど、ゾロは少し安心する。

「ルフィ?」

ただ、声の主に会いたくて走り続ける。

「今、どこ?」




「言いたくないっ」
拗ねたようにいつもの可愛い声が返ってくる。


「ごめんな?電話してくれたのに…」
そっと電話の向こうにいる相手に謝る。




いつもの通りを抜けて、本屋を右に曲がって、ケーキ屋を覗く。

商店街のアーケードを潜り抜け、角を曲がるれば…

そこには……




愛しいアイツの後ろ姿。




「待ってたのにっ」
耳元では携帯電話を通して聞こえる震えた声、目の前の背中は寂しそうに揺れて…

「寒かったよな。ごめん…」
ゾロはルフィの背中を見つめ、静かに応える。



歩くテンポを少し落とし、
「なぁ」
と、ルフィは空を見上げる。
「ゾロ…今、空見れる?月出てるんだけど。」


ゾロも薄い月を見る。
消えてしまいそうなほど儚い明かり…

「月が、どうかした?」
ゾロが静かにルフィに尋ねる。


「一年前の今は、ゾロと一緒にいたよな。」
ルフィも静か。

ルフィは寂しそうに、消えてしまいそうな声でそっと呟く…


「会いたいな…」






「どこに向かってんの?」
ゾロがまた尋ねる。目の前の愛しい背中に…。


「商店街のアーケードの近くっ」

ルフィがふと足を止める。
「今ついた…」


冷たい風がさっと吹き、ルフィの髪がキラキラ揺れる。


「思い出の橋…」


2人の目の前には、初めて唇を重ねた思い出深い橋が月明かりに照らされて……




「ゾロ、まだ仕事だよな?ごめんな。おれ、拗ねてばっかで…」

ルフィは恥ずかしそうに、へらっと笑う。

「おれ、わがままばっかだけど、ゾロのこと大好きだからっ」


橋を見つめる背中が愛おしい、愛おしい…


「ここで言いたかったんだっ、好きって」


可愛く微笑んで、でも少し寂しそうにルフィは話す。
「だって、今日は…っ!」


プツンと電話の切れる音…


「…ゾロ?」
ルフィが驚いて携帯を見つめる。

かけなおそうと、慌てて携帯のボタンに親指を添え……








後ろから抱きしめられた。


「ゾ、ロ…?」
愛する人の香りがする…

「ここで、何て言ってくれるって?」
ゾロは意地悪く笑って、ルフィの髪に顔をうずめる。




「ゾロ、お仕事、は…?」
「休み。明日もな。」

心配そうなルフィに優しく囁く。

「だから、ずっと一緒。」




「なんで、電話…出てくれなかったの?」
とルフィが悲しげに俯く。

「心配、したんだぞっ」
と柔らかな唇でそっと囁き、睫を揺らす。


ゾロはルフィの肩をもち、ゆっくりと自分の方を向かせ…

「ごめんな…」
とぎゅっと正面から抱きしめた。


ルフィは顔をゾロの胸にうずめ
「謝るなら…」


瞳を潤わせ、真っ赤な顔でゾロを見上げる……

「キスして…」


甘い刺激が脳に届き、まるでシャンパンでも飲んだかのよう……

愛の甘さに頭がくらくらする…




「今日は特別な日にしような?」


耳元で囁く声は低く優しい……

ぞくりと背筋が逆立つほどに言葉は体に染み渡り………




静かに唇が重なった








今日で、もう…
お前とこんな関係になってぴったり一年…

一緒にお祝いしよう?


フルーツたっぷりの大きなケーキを食べて…

風呂に入って、月を眺め…

そして……




ベットの中で甘い時間を……










/次の待ち合わせは、ベットの上にでもする?絶対迷わないし、迷わせないから…
09/01/08


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