slam dunk



それは綺麗な貴方色



さらり、爪に色を乗せる。


「焼き芋。」
ぽつりと告げられた言葉に視線を上げれば、丁寧に飾った指先を相手の前にずいっと出して。
「海南カラー!」
むっと唇を尖らせる。
柔らかな紫に、黄色のライン。秋にぴったりな大好きなその色に、言われてみればと旬の味覚を思い浮かべてぶんぶんと首を横に降る。
そっと包み込むように伸びてきた手は大きくて、長い指にどきりと胸が跳ねる。ふにふにと関節に触れる指の腹に、丸く切り揃えられた相手の爪が愛らしく思えれば。こてんと髪に乗る相手の頭に、ほんの少し不安になって、
「似合わない?」
ぽつりと小さく尋ねてみる。

試合と練習の繰り返し。普段、割れないようにと爪を綺麗に整えることはあっても、頻繁には塗らないマニキュア。久々に会えるからと張り切り過ぎた自分が恥ずかしくて、こんなことするんじゃなかったと少し後悔し始めていて。
「塗るなら、もっと、地味な方がよかった?」
ドラッグストアに並んだ宝石のような色々を眺めて、ふと手に取ったのは大好きな自分のチームカラー。視界の端に捉えた淡い桃色よりも、人気色だとポップのついた優しいベージュよりも、何より心惹かれた大切な色。
それでも考えてみれば、相手には思入れなどない、ただの色なわけで。独り善がりの自分に鼻の奥がつんとする。

初めて訪れたコーヒーの香り立つカフェ。混んでいるからと通された壁に向かったカウンター席。並んで座ったこの状態で、カフェラテの甘さのせいで涙が出てきたとは言えなくて。
「お待たせしました。」
途端、後ろから聞こえた店員の声に、注文していたセットケーキがテーブルにゆったりと降ろされて。目の前に並ぶそれらに視線をやる。
バスケットボールを思わせる鮮やかなオレンジで飾られたガトーショコラに、ふっくらとした生クリーム。
「じゃ、いただきます。」
隣から聞こえた声に、ちらりと見つめた相手の前に置かれたそれは、純白のホイップクリームが乗ったシフォンケーキ。今更ながら気付いた事実に、はっと視線をやったテーブル端のメニュー写真と同じ、そのケーキの上には、

紫に黄色が眩しいパンジーの花。

クリームと共にフォークに乗せられた小さな花弁は、確かに自分の大好きな色。
「いい色だろ?」
くつりと笑ったその笑顔に、紫に鮮やかな黄色が揺れて、ほんの少し意地悪く甘い声が耳を擽る。
一気に堪えていた涙が瞳を覆って、視界がゆわりと弛む。
「仙道さんの、馬鹿。」
ぽろりと落ちた大粒の涙に、そっと添えられた温かな指先。
ゆったりと流れる店内のBGMに、ふわりとコーヒーの香りをまとった温かな空気。
フォークに乗ったパンジーが大きく開かれた口を潜って、消える。彼には甘過ぎたのか、はたまた食べるべきではない飾り花だったのか、小さく眉間に皺がよって。ごくん、喉元が波打った。

「オレにとって、これはノブナガちゃんの色だから。」
そっと引き寄せられた指先に、熱い唇が触れる。

部活帰りに羽織ったジャージに、指定鞄の刺繍。手首につけたリストバンドに、友達からもらったミサンガ。その色々が頭に次々と流れれば、
「この時期は焼き芋見たら、ノブナガちゃんが浮かぶ。」
真っ赤になった頬に、口付けられた爪先が震えれば。嗚呼なんて幸せなの、と心が揺れる。

「帰りに寄りたいところがあるの。」
ガトーショコラをほろりと崩して小さく告げれば、細まった視線が「仰せのままに」とでも言っているようで。



小さな紙袋からコトンと机に小瓶を並べて、ほうっと甘い息を吐いた。
柔らかな紫と鮮やかな黄色のマニキュアの隣。
幸せそうな視線を受けて立つ、その色は。


凛とした彼の横顔を思わせる美しい青色。









2019.10.22
ねぇ、もしかして、焼き芋って褒め言葉?





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