slam dunk



染みの抜けない白靴下



私だけ見て。なんて、贅沢すぎる願いよね。


隣に並んで歩く。少し背の高いその人のゆっくりな歩みに合わせてみれば、街の風景が違って見えて。
手も繋がず、ただの友達のように話しかければ、返ってくるのは短い相槌。
「もう。」
むうっと唇を尖らせて小さなフードショップ前で立ち止まる。
「これ、食べたいの?」
ちらりと視線を上げ、指差された先には愛らしいアイスクリームストアのネオンサイン。
シングルアイスに犬の耳を模したクッキーが飾られて、舌を出した鼻先をデザインしたチョコレートが心を惹く。
こんなことで絆されないぞ、と考えながらも、自分の好みを知った上で気遣い尋ねられたのだろう質問に嬉しくないわけなくて。すっと列に並ぶ相手の後に続く。
「仙道さんもこんなの食べるの?」
看板下に大きく飾られたメニューを眺める瞳に尋ねれば、
「時による。」
またもや、冷たい返事。
ねぇ、もう少し興味を持ってくれてもいいんじゃない?なんて言ってやりたくて。それでいて、こういう相手が好きな自分に腹が立つ。
「私はバニラがいいかな。でも、チョコも美味しそうだし。」
むむっと眉間に皺を寄せたところで回ってきたカウンター。慌てて店員に視線を移せば、
「これとこれ、1つずつ。」
隣から伸びてきた指先がとんとんと目当ての2つのアイスを指差して。
「バニラは垂れた耳のやつ、あとチョコのは立った耳のクッキーで。」
此方への確認もなく、さらさらと告げられるオーダーは確かに自分が考えたままのもので。
「仙道さん、なんで、」
ぱっと相手を見上げた瞬間、すぐ後ろで小さく慌てた声が聞こえて。振り返るまもなく、ばしゃり足元でブラックコーヒーが跳ねた。

「大丈夫、このくらい。少しかかっただけだから。」
お気に入りの白ソックスについた小さな斑点。
「ちゃんと謝ってもらったし、気にしていないから。」
アイスクリームを両手に眉を下げた恋人は、確かに今、私しか見ていなくて。
「それ、気に入ってただろ?」
バスケットボールの刺繍を見つめ、優しい声が囁きかける。
会う日に合わせ履いていた靴下に気付いていたことに驚けば、それ以上に嬉しくて。あなたが褒めてくれたから履いていたのよ、なんて言ってやるものかと幸せに笑った。
「ほら、アイスが溶けちゃう。」
伸ばした手に迷う事なく差し出されたバニラアイスに、瞳が瞬けば、
「ノブナガちゃん家の犬、こんな感じだったよな。」
ぽつりと告げられたその言葉に心臓がきゅうっと掴まれて。




洗濯機から出てきた染みの抜けない白ソックス。
そっと胸に抱き寄せて微笑めば、唇を緩めて。


つれないあなたを想って、キスをした。









2019.10.21
ねぇ、この染みまで愛せると言ったら笑われちゃう?





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