slam dunk



負けず嫌いの狂詩曲



その声をいつまでも。


「オレが仙道と一緒にいるところ、見た奴がいて。それで。」
もごもごと小さく張りのない声と外らされた視線に、長い髪を纏めていたヘアゴムをするりと解いてやる。ゆったりと押し倒した身体に、ベッドが小さくギシリと音を立てて。
「だから、しばらく会うのはやめないかって?」
スパイ容疑だか何だか知らないが、こうして肌を重ねお互いを欲している2人に部外者など必要なくて。
寝室まできたくせに、その先の行為へ進む気など無いのだろう相手の心を知っていながら、ばさりとシャツを脱ぎ捨てれば相手の手首をシーツに押し沈める。

つい先程、隣駅のパン屋で見かけた相手の表情はとても子供ぽくて。甘えた子犬のようで。
「え?神さん買ってくれるんですか?」
まるで尻尾を振るように明るく笑うその様に、何故だか心臓がチクリと痛む。その甘い声は自分だけのものではないのか、と。
チームメイトに笑顔を振りまいて、それなのに自分と会うことを隠そうとする相手の行動が、正しいことだとわかっていても思考はどうも追いつかなくて。

制止する声を遮るように、深く深く唇を合わせる。
小さな抵抗を見せた相手の両手をぐうっとシーツに繋ぎ止めて、生温い口内に押し入れた舌先で形良い歯列をなぞる。上顎をくすぐるように舐め上げれば、それだけでヒクヒクと跳ねる肩が愛らしくて、苦しげに赤みを帯びた頬にそっと微笑んだ。いつもと違い息継ぎすら許しもせず、繰り返す口付け。酸欠気味に浅くなった鼻呼吸に、脱力した腕を手のひらに感じ取れば、銀糸を引いて唇を離す。
甘い快感を覚えた身体は既に興奮を示していて、苦しげに張ったズボンを無視するように、また深く口元を寄せた。

「この前、先輩に見つかって。だから、見えない所に。」
そう恥ずかしげに告げる相手の言葉なんか忘れたふりをして。首筋に噛み付くように吸い付いて、しっかりと跡を残す。
「仙道…話をっ」
相手の声が耳に届くたび唇を重ねれば、もう回数など覚えていなくて。都合の悪い言葉は塞ぎ込んで、ずっとずっとその潤んだ瞳を向けていてほしくて。
決して性急ではないゆったりとした行為。それでいて、いつもと違う感覚に不安を抱く相手があまりに愛おしくて。

キス以上のことはせず、反応を示した身体にも触れてやらず。ただ柔らかな体温を唇で感じるだけの時間。
「仙道の、」
ほろりと溢れた声に、またふやける程に熱くなった口元を寄せた瞬間。
「バカ野郎!!」
きんと響いた声に、大粒の涙がボロボロと落ちて。
「オレの声がすきだって、言ってたのに!なんで、こんな…さっき、から…」
はっと手から力を抜けば、腕で目元を隠されて心配さえさせてくれなくて。
「会いたくない、なんて、言ってないだろ。オレは話が、したく、て。」
ぽろぽろと溢れた柔らかな愛おしい声に、そっと息を吐いてぎゅうっと強く抱き締めた。



「仙道がスパイなんてするはずないだろ!」
「じゃあ、なんでわざわざお前なんかと。」
スタメンでもない部員の何気ない言葉に腹が立って。笑って流す方法すら頭から吹っ飛んでしまえば、
「オレは、」
あれだけバスケに真摯な相手を卑怯者のように言われるのだけは許せなくて。

「オレはあいつと付き合ってんだよ!」

体育館に満ちたドリブル音にも負けない大きな叫び。しまったと見開いた瞳に、唇を噛んでも出てしまった言葉は引っ込めようがなくて。
「清田、お前。」
唖然としたような部員の表情に、言い訳なんて思い浮かびもしなくて。瞬時、脳裏を掠めたのは困った顔をして頭を掻く大好きな人の姿。
途端、ぽかりと丸めた紙で頭を叩かれて。
「うるさい。」
落ち着いた穏やかな声に振り返れば、まるで興味などないというような、いつもと変わらぬ静かな表情。
「神さん、それが、」
もごもごと言いかけた言葉を遮って、
「わかりにくい言い方だから、誤解されるんだよ。付き合ってやったんだろ、仙道の買い物に。」
ふわりと開いた資料に吐息をつきながら、
「オレが頼んだんだよ。仙道から欲しい雑誌を探してるから店を案内してくれって頼まれて。オレも暇じゃないし、清田に。」
長い睫毛に柔らかな視線は既にアップを始めている部員を捉えて。
「もしそれがスパイ行為なら、清田を誘導したのはオレだけど。」
びくりと肩を揺らした部員に、ひらりと見せた紙の中身は細やかに分析されたデータ表。温かな表情なのに、ほんの少し冷たさを感じる口調。
「こんなに細かく調べられるのに、わざわざ接触してわかることなんて知れてる。無駄口叩く前にアップした方がいいよ。」
ひらりと背中を向けたその横顔を見つめれば、とんと背中を叩かれて。
「清田。お前はもう少し情緒のコントロール。」
ふっといつものように笑われて。



「だから、もしかすると、風の噂で仙道にも迷惑かかるかもって、思って。」
既に止まった涙の跡はからりとして、眉を下げながら告げる恋人の話に、今の感情をどうするべきかわからなくて。目元を押さえて、ふうっと深く息を吐く。
「神の連絡先をくれ。」
出た言葉にきょとんとした恋人の表情が愛らしくて思考が止まりかけるも、
「オレの弱味を握られたままだろ。」
そう少し強がって告げる。
相手の話を聞くに完全に此方のことを理解し助けてくれたのだろう人物を思い浮かべれば、この事実を無闇に外に言いふらすような相手にも思えなくて。ただ、一言礼を伝えたくて。
「神さんに何する気だ。」
意図を読めず、むうっと不機嫌に尖った口元が愛おしくて堪らなくて。そっと抱き締めて耳の後ろにキスをする。
「さぁ?」
甘ったるい声に、恋人以外のことなどどうでもよくなって。
「それより、」
何より恋しくて堪らない相手の囀りを求めて、先程まで触れていなかった熱のこもったそこへと手を伸ばす。
「オレの好きな声、聞かせて。」




ベッドの上でステップを踏んで、
くるりと回って歌いましょう。

誰も知らないラプソディー。








2019.10.20
涙に震えるその声すら、愛おしくて。





Back



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -