slam dunk



悪魔の天使



薄暗い室内、白い光に綺麗な横顔がちらちらと瞬いて。嗚呼、可愛いなと、少し悔しくなる。


券売機の前でうんうん唸る恋人に、呆れて溢れた吐息は甘い。
ポップコーンの香りに、最新作の予告を繰り返す耳うるさいモニター音。
「観たいのがあるんじゃなかった?」
映画に誘ってきた相手の横、ひょいと屈んで画面を見つめれば、
「仙道さんが遅いから、もう発効無効になってます。」
ぼそぼそと呟く尖らせた唇に揺れる睫毛。
「あー、もう、これでいいや!」
ぴっと細い指先が触れたのは、最近よく耳にする冒険ストーリーの洋画タイトル。

はっきり言って、映画がすきかと尋ねられればイエスとは答えないだろう。身体を動かさず長時間画面を観続けるくらいなら、試合の映像を観る方が有意義であるわけで。
静かに響く低いサウンドに、大きくなる主人公の心音。観客の殆どが窮地のフリースローを思わせるほど息を飲んで見守るストーリー後半は、自分にとって少し退屈な時間。どうせ、このあと敵の誰かに見つかって一悶着あってハッピーエンド。初めから進むシナリオ通りのストーリーは、いつもの試合を思うと刺激が足りなくて。
隣で息を止めて画面を見つめる、長い睫毛を眺めれば、きゅうっと力がこもった手のひらが乗る相手の太腿に視線が落ちる。ほんの少し揶揄ってやろう、そう考えて。そろりと指先を伸ばして進行する画面に合わせ、一際音が絞られたその瞬間に、トンと手のひらを白い足に乗せる。
「っ!?」
途端、思惑通りぴくりと跳ねた肩に、はっと此方を見つめる視線。不機嫌に頬を膨らませ、怒るだろうかと様子を伺えば、驚いたように見開いた瞳が白い光を反射して、ちらちら瞬いて。
とろり、甘く微笑んだ。
鼻から吐かれた柔らかな息づかいに、こちらがきょとんとすれば腿に置いた手をぎゅっと握られて。
「仕方ないなぁ。」
そう音のない唇がふわり笑った。

真っ赤な絨毯のロビーに、黄色いステッチが眩しいブーツが跳ねる。
「仙道さんが、恐がるなんて予想外だったなぁ。」
手を繋いだまま上機嫌に腕を振る相手に、なんと告げるべきか思い悩んで。
「次はホラーでも観る?」
くすくす楽しげに笑う相手に、色々なことがどうでもよくなって。
「なら、ずっと手を繋いでくれんの?」
柔らかな声でそっと尋ねれば、不意を突かれたというようにふわりと見開かれた睫毛が震えて。
瞬時、周りも気にせず、かっかっか!と高く響く笑い声に
「この清田信長に任せなさい!」
そう大きな声で可愛い人が胸を張る。


本当にどうしようもない恋人を見つめて。頬についたクリームを拭った親指をちろりと舐めれば、幸せそうにクレープを頬張る相手を見下ろす。子供のように無邪気で、純真で、真っ白な人。
「仙道さんも食べる?」
リップの落ちた唇の柔らかな桃色が心を魅いて。
「ねぇ、このあとさ、」
不思議げに見上げてくる瞳の艶めきを恋い焦がれて。
「オレの家、いこっか?」
ぶわりと広がった睫毛に、薄く開いた口元。嗚呼、今すぐにでもこの腕に閉じ込めてしまいたくて。
「それって、」
戸惑うように俯いた視線に、みるみる赤くなる頬。クレープの包み紙がくしゃりと軽い音を立てて。
「何もしないよ?ただ、」

自然な動きで相手の腰を抱き寄せて、意地悪な甘ったるい声で、ゆっくりと囁いた。


「ホラー映画を観て、手を繋ぐだけ。」




その先は、お言葉に甘え、
君にお任せしますので。









2019.10.20
僕が天使で、君が悪魔でしょ?





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