slam dunk



Shining jealousy



きらきらと輝いた視界にはっとして、艶めく唇で熱い息を吐いた。


スポーツ店の袋がかさりと揺れれば、肌寒い秋風にオーバーサイズのカーディガンの袖をきゅっと握る。早く帰ろうと見上げた夕空に、見慣れない街並み。
お気に入りのスポーツメーカーの限定シャツを求めやってきた、少し離れたその場所は静かで。秋の始まりを告げるように柔らかな虫の声が聞こえる。
揺れる短いスカートに、教科書のほとんど入っていないエナメルバッグにはタオルと着替えが詰め込まれていて。揺れるキーホルダーは小さな橙のボール。
思った以上に冷たい空気に、リップを塗り直したばかりの唇をちょんと尖らせれば、ほんの少しだけ歩調を速める。このまま行けば目当ての時間の電車に乗ることができるだろう、なんて考えれば、しなやかな足にきゅっと力がこもって。飛ぶように駆け出すその瞬間、澄み切った世界に遠く弾む音が響いた気がして。

「バスケットボール。」
はっと振り返った瞳に、跳ねるボールの音が煩いほどに脳裏を満たして。
心躍るその音に吸い込まれるように、知りもしない小道に駆け出した。

重く、それでいて柔らかなバウンド音。ゴールが決まった瞬間の軽やかな音。薄暗くなってきた空に、冷える身体。それでいて胸の奥はときめきでいっぱいで、熱く感じる程で。
ぱっと曲がったその先には小さな空き地に立つ、1つのバスケットゴール。フェンス越しに見たそこには、寒空には似つかわしくない汗を流す大きな背中。
その影が軽く駆ければ次の瞬間、まるでボールが踊るようにゴールに向かってふわりと飛んで。

世界の全てがきらきら光る。

シュートを放った指先は美しくて、自然に地面から離れた爪先はふわりと軽やか。リングから視線を外すことのない真っ直ぐな瞳に、煌めく汗。
ツンツンと立った髪に見知った横顔が、心をぎゅうっと締め付ければ、ぽろり唇から声が溢れて。
「仙道。」

声に気付いてか、ちらりと向けられた視線に手招かれた気がして。そっとコートに足を踏み入れれば、軽い足取りでドリブルを続けながら近付いてくる大きな影。
「オレのこと、知ってんの?」
優しいのに逃げ場を与えてくれないその声に、瞳が揺れれば睫毛が震える。
「雑誌で見た。」
ぽつり呟けば、大きな手のひらに吸い付くように乗ったバスケットボール。
「へぇ。」
興味があるのかないのかわからない、どこか不思議な返事にそっと伸びてきた指先に肩を跳ねさせれば。細まった瞳が甘く微笑んで。
「なに?別に変なことはしないけど。」
エナメルバッグについたキーホルダーにそっと触れて、
「バスケ部?」
そう尋ねる声は、とても愛おしげで。

「海南っ。」
ばっと顔を上げれば、空気を透かし流れる髪が揺れて、
「海南大附属高バスケ部1年!清田信長!」
きらり瞬いた大きな瞳は暮行く秋空を映して、ちらちらと星屑を散らす。
相手のペースになんて呑まれてやるか!と眉毛を寄せれば、じっと見つめ返してくる瞳は深くて柔くて。
「へぇ。」
先程と同じ調子で。それでいて、どこか楽しげな口元がふっと緩む。

再開されるドリブル音に、ゆったりとした動きで背中を向ける大きな影。ゴールに向かい歩き出したその後ろ姿に音もなく鞄を置いて軽やかに駆ければ、相手の死角から腕を伸ばす。
指先に触れた慣れた感触にしめたとばかりに橙のそれを引き寄せれば、
「残念。」
耳元に響いた優しすぎる声に、指先ごと大きな手に包まれて、くるりと素早く避けられれば、気付けばボールは相手のもの。そのまま、離れたゴールに向けて放たれたシュートは、美しい弧を描いて真っ直ぐにリングの中に落ちて。トンと軽く地面で跳ねた。

「もう遅いから、帰ったら?」
ボールを拾い上げながら告げられた一言に、はっとすれば一気に頭に血が上って。むうっと赤くなった頬に尖らせた唇。長い睫毛はふるふると悔しさに震えて。
「余計なお世話!」
きんと響いた声に、鞄を掴んで髪を揺らして駆け出した。


ボールを奪われることなく、いとも簡単にシュートを決めるその様が。意地悪く告げられた、あの一言が。こちらを見て、細まったあの優しげな瞳が悔しくて。
バスケットボールに選ばれた相手に嫉妬する。

「私だって!きっと!もっと!!」

駅のホームで思わず声を上げかけて、むぐむぐと唇を噛めば、頭に浮かぶ相手の柔らかな表情に首をぶんぶんと横に振る。


「ノブナガちゃん、か。」
地面に置き去りにされた見慣れたスポーツ店の袋を持ち上げて。大きな影が甘く笑った。


死角から狙った球を取れなかったことよりも、目の前でゴールを決められた事実よりも。自分よりもバスケットボールに愛されているのではいう、ほんの少しの劣等感なんかより。もっともっと悔しいのは。


あの横顔が、何より、きらきら見えたこと。








2019.10.17
ねぇ、またあの瞳で見つめてくれる?





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