ClassicaLoid



清純行進曲

(「みかん!みかん!焼きみかん?!」後のお話。)


執拗に口内を弄る温かな舌に細い肩を押そうにも、掴まれた手首はシーツに繋ぎとめられて。鼻から溢れる熱い息に、とろりとした唾液は蜜の味。


「ヴォルフ、しつこいぞ。」
離れた唇に逸らされた瞳は涙に潤んだエメラルド。
溢れた吐息は荒くて、赤く色付いた頬が愛おしい。
「ルー君、もう一回。」
そう今度は指を絡めてベッドに押し付けて、文句を言おうと開かれた口元を唇で塞いだ。

そっと伸ばした舌先で歯列をなぞって、上顎のアーチを撫でる。躊躇うように逃げる舌を掬い上げて、ちゅっと吸えば、大袈裟な程に跳ねる肩が初々しくて。それだけで満たされて。本日、何度目かなんて忘れた接吻を繰り返す。
唇だけの刺激がもどかしいのか、はたまた、甘ったるい行為が彼の羞恥を煽るのか、愛しの人はこの行為に軽い抵抗を見せていて。それでも、強くは拒まないその態度に愛を感じて。
普段ならキスをして自然と次に進むはずの空気が、今夜は何故か気になって。少しの引っ掛かりに足踏みをして、また柔らかな口壁に触れては、ちゅっと唾液を吸い上げる。
鼻にかかった響きのある声に、額に浮かんだ汗が目につけば、つい先日のみかんの祟りが脳裏に浮かんで。触れている口から受けたオレンジジュースをはっと思い出せば、嗚呼、あの時、蜜柑味の唇にキスしておくべきだった、なんて。ぎゅうっと力が籠った手のひらに瞳を細める。
口から吹き出した甘い魅惑の液体に比べれば、今のキスはほろ苦いコーヒーの香り。別にそれが嫌いだというわけではないけれど、気付いてしまった欲求に見向きもしないのは何だか気持ち悪くて。

離れた鼻先に、銀色の糸が煌めけば、真っ赤に茹だった表情が目について。
「ヴォルフ、そろそろ、」
意を決したように、それでいて泳いだ視線が美しくて。先の行為を求めているらしい相手に笑みが溢れる。
「駄目だよ、ルー君。そんな顔しちゃ。」
軽く離した身体に、驚きに見開かれた瞳をふわりと見つめれば、睫毛を揺らして囁いた。
「もっといじめたくなっちゃう。」

甘い時間の後、ゆったりふたりで喉を潤そうと用意していたオレンジジュース。とくとくとグラスに注いだそれを口に含んで。
そのまま相手の頬を包んで、唇を合わせた。
やっと新たな快感が得られると期待していたらしい恋しい人の声が鼻から溢れれば、少し温くなった橙を口移す。
柔らかな酸味にどこか懐かしい甘さ。それはまるでふたりを表しているようで。心にあった引っ掛かりがほろり溶けていくようで。

橙の海に踊るふたりの舌に、白い髪を撫でる指先。
余裕無く伸びてきた恋人の腕は、もう抵抗する気なんてなくて。躊躇いがちに背中に回され、ぎゅっと体温が密着する。
重なった胸元に心拍数が上がるのがわかれば、その音に耳を澄ませて、こくこくと動く相手の喉元に微笑んで。

口端から溢れたオレンジジュースを拭って、シャツに手をかけて。同じテンポの心臓に、ふわりと甘い吐息をついた。








2018.09.04
足踏み揃えてワンツーワンツー。心を揃えてアイラブユー。

みかんの花言葉「清純」




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