ClassicaLoid



子守唄の微笑み



そっと髪に触れる優しいママンの指先を思い出して、真似るように甘い甘い息を吐いた。


「ちがう!ちがう!ちがーう!!」
廊下にまで響く声は聞き慣れた神経質な音楽家のもの。
「なになに?おもしろいこと?」
ひょいと顔を出したキッチンには、白い髪を掻き混ぜる声の主と、丸焦げの餃子。
「あー、またやってる!」
皿の上の真っ黒なそれを突けば、天を仰ぎ呻く相手の声はまるで獣のようで。
「今回こそは!うまくいくはずだったのだ!!」
折れんばかりにフライ返しを握った手に、充血した瞳。普段以上に希望を抱いていたらしい憧れの食べ物は、今や夢なき炭屑。
「これ、食べれるのかなぁ。」
にへらと笑って、皿の上の餃子だったものに触れれば、ほろりと崩れた黒色に焦げ臭い匂いが鼻先を擽る。
「なぜだ!なぜなのだ!!」
大声で吼えるその姿は癇癪を起こした子供のようで、それでいて震える声帯から響くのは絶望を嘆く低音。

仕方ないな、と息を吐いて。ゆったりと抱き寄せて。
「ルー君、よしよし。」
そう、白い髪をわしゃりと撫でる。
背中に回した腕でとんとんとあやすように触れるも、髪を撫で頸に触れた手は子供にするそれではなくて。
「リラックス、リラックス。」
いつも以上に甘く響いた声に、首筋に擦り寄る鼻先が擽ったくて。リタルダンドのかかった息が桃色の後毛を揺らす。

「ヴォルフ。」
柔らかさの含まれた声に名を呼ばれれば、身体を離す前に背中に腕が回されて、ぎゅうっと体温が密着する。
「落ち着いた?」
くすりと笑って尋ねれば、長い睫毛が肩口で震えて。嗚呼、愛おしいなと唇が緩む。
「ヴォルフ。」
繰り返し呼ばれる名前が心地よくて、温かで。
「なぁに、ルー君。」
また、とんとんと背中を優しく叩けば、
「子供扱いするな。」
なんて。
「ルー君がわーわー言うからでしょ。」
わざと唇を尖らせて拗ねたふりをすれば、ふわりと離れた身体に合わせて、相手の頬を両手で包む。
見つめた瞳は、穏やかなエメラルド。でも、その宝石がビー玉のように子供っぽく光るのも知っていて。
「でも、まぁ、僕もぎゅってしたかったのかも。」
そう、にっこり笑って見せた。

気難しくて頑固な人。そういえば、大人びて聞こえるけれど、本質はきっと子供で。自分より幼いのでは、と感じたりするわけで。
「ルー君。」
そう名前を呼んでみる。
「もうちょっとだけ、ぎゅうってしててもいい?」
なんて、相手の甘える口実を作って、逃げ道を用意して。
「少しなら、許す。」
ぽつりと呟かれた声にするりと腰を引き寄せて、ふわりと耳にかかる鼻息に笑みが溢れる。


このまま、眠ってしまえばいいのに。
温かな空気に溶けて、この腕の中でひとつになって。

そう、少し我儘な夢を見て。

ふたりでふわり欠伸を零した。









2018.09.01
子供のようで、子供じゃなくて、どこか幼い愛しい貴方。




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