ClassicaLoid



混沌と愛のアリア



この気持ちは何なのだろう。
湧き立つ煌めきに深い渦めき。
心の奥を燃やす、この炎は。


この数日、もやもやと身体の中心で膨らむ想いに瞑想を続けていても、結局、この屋敷では邪魔が入って。新たなインスピレーションのために外出するかと鍵を開けドアノブに手を掛ければ、どっと流れ込んできた外の風にピンク色の影。
どんと押し倒されるように床に背中をぶつければ、腹の上に腰掛けたモーツァルトはきょとんとして。その後、いつものけたけたとした笑い声が部屋を満たす。
まったく、と息を吐いてみたものの、なんだかそこにこの数日の答えがある気がして。
「ルー君、なにしてんの?」
「お前のせいで倒れている。」
むっとした表情で見つめ返せば、何故か胸の奥が熱く疼いて。
「そっか!ごめんごめん!」
ひょいと退いた相手の体温が恋しくて、無意識に掴んだ細い手首。はっと見開いた瞳に映るのは、不思議げに瞬くアクアマリン。
「ルー君?」
さらりと踊った甘色の髪が鮮やか過ぎて、どくんと鼓動が大きく揺らぐ。
「固まっちゃった?」
目の前でひらひらと振られる手のひらは、もう視界に入っていなくて、急激に脳内を掻き混ぜる混沌に身体が動かなくて。激しいリズムが身体を駆ける。

「ヴォルフ。」
小さく動いた唇は、乾いていて。零れた声すら、少し枯れていて。
「ん?」
帽子から溢れた髪が煌めけば、それだけで甘い旋律が部屋を満たすようで。
ごくりと飲んだ唾液にすら違和感を覚えるほど異様な空気に硬直する身体。なのに、目の前のその人は柔らかで穏やかで。
「俺は、探しているんだ。」
ぽろりと出た言葉は止まらなくて、それでいいのだと息を吐く。
「近頃、何故か胸の奥が騒つく。何かを求めているのに、何が必要なのかわからないんだ。」
ぐっと胸元を握り締めれば、
「ヴォルフといると心が無性に熱くなって、だからといって離れても胸が酷く痛むんだ!何故だ!この落ち着きのない鼓動は、どこからくる?」
音量制限の外れた声は部屋に響いて、ぐわりと熱が身体を巡る。

「今も、熱いの?」
ふわりと胸元に置いた手の甲に重なった手のひらは優しくて、下げられた眉に合わさった視線はまっすぐで。
「今も、苦しい?」
傾げられた小首に睫毛が振れるのがわかれば、それだけでぐつぐつと血液が沸き立つようで、瞳を閉じて深く息を肺に送る。
「それを知って、どうなるんだ?」
どうせ医者ではないのだし、この身体の異変について聞いたところでどうしようもないだろうと考えて。

「僕ね、ルー君が欲しいもの、多分わかるよ。」
くすりと漏れた笑みに、脳が破裂するような、ぱんと弾けたティンパニにも似た音が聞こえた気がして。
「いったい、これはなんなのだ!この気持ちは、いったい!」
胸に寄せていた手を小さな肩に乗せれば、そっと静かに伸びた指先が、細い手首を未だ離せずにいる手の甲を撫でて。
「自分でもう、持ってるでしょ。」
興奮でぐるぐる渦巻く脳内に意味がわからず相手の瞳を見つめれば、そこにはあまりに柔らかな光が射していて。
「どういうことだ?」
ほろりと零れた言葉は濡れているようで、少し震えてみえた。

「ルー君は僕が欲しいんでしょ?今もこうして、僕の手、持ってるし。それに、離れるのも寂しくて嫌だって、さっき言ってたじゃん。」
事も無げに告げられる言葉に反論もできずに、アクアマリンに映る自分の表情を見れば、するりと撫でられた頬に肩が跳ねる。
「ねえ、ルー君。それってさ、」


ひとり静かに過ごしていた筈の部屋には、桃色の帽子を被った不思議な同居人。触れ合った唇に、嫌な気などしなくて、自分で自分を疑いたくなる。
嗚呼、本当に、俺は。


「僕のこと、すきなんじゃない?」
きらきらと瞬いた宝石に、胸奥の混沌がぶわりと消し飛ぶ心地がして。
「わからない。」
そう告げながらも手首から離れた手のひらは、気付けば愛しい人の背中に回っていて。
「なら、わかるまで待っててあげるね。」
大人びた視線にふわりと軽やかなフルートの囀り。
「いや、」
渋るように震えた声帯に、桃色の唇に親指を寄せて。

「わかるまで、愛してくれ。」
掠れる声で甘く歌った。




ふたりして転がった畳は古く懐かしい匂いがして。
「すきだよ、ルー君。」
なんて、夢の中の声に身を任せれば、また。

熱く蕩けるキスをした。









2018.09.01
僕が歌うには、あまりに甘過ぎる歌だけれど。




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