toy box



砂糖菓子の誘惑


美味しそうな蒼瞳に、ふわりと甘い金糸が香る。


海列車のホームでぼんやりと時計を眺めれば、先程までの乱闘で高まった鼓動が嘘のように穏やかで。
美食の街と言うだけあって、脂の乗ったターゲットは捌いて盛りつければ、それなりの料理のように見えて。大理石の箱に真っ赤なソースが映えれば、生臭い匂いに安物のワインをかけて、最後の仕上げにと華やかなフランベ。
燃える屋敷に誰ひとり声の聞こえない炎を思い出せば、くつくつ笑みが込み上げてシルクハットを深く被る。まるで汽車の起こす風に備えているかのように装って白い牙を光らせれば、暗くなった空の下、豚肉たちの悲鳴を鼻歌交じりに頭に浮かべた。
プルプルプルとしつこい電伝虫にそれ以上に煩わしい長官の声。聞く耳持たず、短く一言、
「任務完了。」
と呟けば、小さな通信機を仕舞おうとトランクを足下に降ろす。
ことりと開いた鞄からロープが溢れて、はっとしゃがみ込めば、屈んだ身体に合わせるようにホームに入ってきた海列車の汽笛に、脇をかける子供の足音。高い悲鳴に似た叫び声に、ふと上げた目の先には真っ赤なボール。止まらぬ機関車に飛び込むように球を追う幼女の髪は短な金色で、何かを思い起こさせて。

「借りるね!」
と奪い取られた縄に聞き慣れた甘い声。ヒールの跳ねる足音に、真っ白なワンピースが夜風に揺れれば、
「ロープ・アクション!」
するりと伸びたそれが小さな腰を掴んで、煙を吐く汽車から離すように引き寄せて。小さな子供を抱き締め、優しく笑うその表情は今朝もベッドで見つめた愛しいもので。
「もう大丈夫。飛び出したら危ないよ?」
輪にした麻縄を馴れた手つきで纏める相手の名を、この姿で呼ぶわけにもいかなくて。それでいて、隠れるにはタイミングが遅すぎて。
ぺこぺこと頭を下げる母親をいなして、くるりとこちらに向いた真っ青な瞳が煌めいて、まるで夢のように星空を映す。
「ルッチ・・・!」
まるで運命のようだとでも言いたげな視線が痛くて、作業着ではない相手の服装に心が惹かれる。夜風にはまだ早い純白のスカートは、いつもの鮮やかなジャケット姿とは違って、ふわふわとした笑顔に、どこまでも深い海色の瞳に合っていて。
「こんな格好で、どうしたの?今日はお休みをとって遠くの島に本を買いに行くんじゃなかったっけ?」
小さな顎にあてがわれた指先は桃色で、尖らせた唇はあまりに艶やか。他のメンバーへの伝達係として放ったハットリがいない今、相手に返す声がなくて。仕方がないと、すこし強引に細い手首を掴んでずんずんと歩く。
そういえば、今朝、毛布にくるまりながら蕩けた瞳の可愛い人が、仕事終わりにおいしいものを食べにいくの、なんて話していたのを思い出して。島を出るならそう言えと、苛立ちながら人気のない公園に引き込んだ。

誰もいない遊具の傍、小さなベンチに座らせれば晒されたままの肩に上着を掛けて。相手の額にキスをする。
「ルッチ?」
そう潤んだ瞳はきっと、唇に絆され何も考えていなくて。愚かで、純で、恋しくて。
「あ、これ。」
と赤らんだ頬を隠すように俯いて差し出されたロープを受け取れば、やっと気が付いたのか何も乗っていない肩を細い指先が撫でて、引き寄せるように背中に腕を回されて。

「声を出すのが恥ずかしいなら、唇を合わせて囁いて。」
そう、熱い声が耳に響いて。

「ちゃんと、理解、するから。」
なんて、自信なさげに呟かれる声に、誰が逆らえると言うのだろうか。

手にした麻縄で、この柔らかな身体を縛り付けてしまいたい。
誰にも取られないように、盗み食ってしまいたい。




青い空に瞬く月は甘ったるいメレンゲ。
金色の飴細工に、揺れる瞳は琥珀糖。

艶めく唇に口付けて、喧しい電伝虫を蹴りつけて。
そっと静かに身体を沈めた。









2017.05.21
真っ赤なディナーのその後に、メインディシュのデザートを。



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