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ふたりだけのハッピーエンド

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春の日差しに反射するレンズに、羽織ったカーキのアウターはまだ肌寒い春風に合わせて揺れる。
「ふたり一緒ってなると恥ずかしいな!」
頬を染めて笑う相手に並んで歩けば、どこか幼さを残した恋人の表情に胸の奥が熱くなる。
以前から買いたいと話していた造船雑誌に、残りの少ない文具を購入すれば、時計の針はすでに正午を指していて。
「ランチの店は決まったか。」
朝から尋ねていた質問を再度告げれば、
「煙草が吸える店ならどこでもいい。」
そう告げる相手の手を握れば、
「却下。」
甘ったるく囁いた。

結局、よくいくカフェでパスタとサンドウィッチを食べれば、休日の外出に満足したのか、すでに自宅に向かう恋人の足。
「疲れたか?」
さらりと金色の髪に指を通せば、するりと手のひらに寄せられる頬。
「お前が疲れてそうだから、気を使ってやってんだ。」
にへらと笑った表情に、
「おれはそんなヤワじゃない。」
そう告げ瞳を細めれば、
「なんてったって、一流造船会社の職長様だもんな。」
きらきらと瞬く瞳を遮るように陣取った眼鏡を外せば、そっと腰に腕を回して、
「少し黙っていろ。」
自分のかぶっていた鍔広帽を相手の頭にぱさりと乗せて、唇を合わせた。


「今は声を出してもらっても構わないんだが。」
意地悪く笑ってみるも、枕に顔を埋めた恋人には返事する余裕すらなくて。
ぐりぐりと密着させた腰元に、喉奥から漏れる高い喘ぎ声。それでいて逃げることなく、更に押し返してくる涎を垂らしたそこを視界にとらえれば、愛おしくて堪らず背中から抱き締める。
耳の付け根に舌を這わせれば、ぴくぴくと跳ねる肩にきゅうっと締まる欲望の入り口。胸を撫でた手を喉をなぞるように滑らせて小さな顎に手をかければ、涙でぐちゃぐちゃなその顔を上げさせる。
「いやッ・・・ま、て。いや、だ、」
ひいひいと息を吐く艶めいた唇に、零れる言葉は心からの拒絶ではなくて。零れる滴は甘く籠もった熱と自身の醜態に堪えきれない羞恥心。毎度、繰り返すこのやりとりはきっとふたりにとっての合図のようなもので。
むくむくと形を変えたものに、顎を支える指先がみるみる鋭くなって柔らかな肌に爪先が食い込む。ぱくぱくと開いた唇に、震える指先が手の甲に触れれば両手をシーツに導かれて、指を絡めるようにベッドに押しつけられる。顎を枕に置く形で恋人の胸元がシーツに密着すれば、腰元だけがぐっと上げられて。ひとりの男に全てを捧げる姿勢で固まる。
「本当にお前は、」
雌猫を思わせる格好に、喉から漏れる唸りはまるで喉を鳴らしているようで。呼吸に合わせることなく上がってくる高く鼻に掛かった鳴き声に口元を弛めれば、突起のついたそれで中を掻き回し、先程の名残をどろりと揺らす。汗ばんだ肩にざらざらと舌を這わせれば、ゆっくりと牙を肌に沿わせて。
「ハレンチな男だな。」
低く囁いた瞬間に激しく揺さぶった身体。白く反らされた首元が余りに恋しくて。

がぶりと深く噛みついた。


「そんな顔されると不安になるからやめろ。」
ベッドの上で這い蹲るように茂みに顔を埋める相手の髪を撫でやれば、不機嫌そうに此方を睨む瞳。
「ちゃんと加減してやっただろ。」
赤く残った歯形を親指でなぞれば、頬張った口をもごもごさせて文句を言う可愛い人。まだ慣れないらしいフェラチオに苦戦しながらも、お前の大切な部分はおれの口の中なんだぞ、なんて脅しているつもりらしい、その表情があまりに愛おしくて。
「ほら、ちゃんと気持ちよくしてくれるんだろう?」
両頬を包んで頬を撫でやれば、とろんとし始めた目元にそっと唇を寄せる。
拙い舌の動きに飲みきれないらしい唾液が口端から溢れて、顎を伝う。
ふうふうと少し荒くなった鼻息に黒々とした茂みが揺れれば、びくりと跳ねた恋人の肩に視線を移す。
「これが終わったら、シャワーだな。」
そう膨らんだ頬を撫でながら太股を伝う白濁色に息を吐けば、もごもごと不機嫌な可愛い声。
「なんだ?」
ずるりと唾液に艶めいたものを相手の口から抜き取れば、腕で唇を拭った相手にむすりと睨まれて。
「明日から、また出張、だろ。」
ぱさりと落ちた前髪に指を伸ばし耳に掛けやれば、
「お前の仕事してる姿は、嫌いじゃない。けど、」
ぎゅうっと握りしめた拳が白くなるのがわかれば、
「どこか遠くに行くくらいなら、やめてほしいと思う自分も、いる。」
珍しく素直な相手にはっと唇を開き掛けるも、声を出す前にその言葉は遮られて。
「でも、ついていけないこともわかってるから。今夜は、もっと、」
思わぬ言葉にゆったりと瞳を細めれば、
「もっと、抱いてくれ。」
恥ずかしげに小さくなった我儘を、強く柔らかに抱き締めた。


濡れた髪を拭きながら時計を見れば、すでに夜中の二時は過ぎていて。
「明日、寝坊するなよ。」
隣島行きのチケットを眺め、にっと笑った恋人に、
「遅刻理由をきかれたら素直に答えることにする。」
意地悪く口角を上げれば、
「恋人が寝かせてくれなかった、と。」
可愛い人の顔がみるみる真っ赤に染まる。
「そんなこと、アイスバーグさんに言うつもりか?」
そう尖らせた唇に、触れるだけのキスをして。
「まあ、遅刻なんてしない。」
愛しい人と共にベッドに潜る。
「そうだろうな。」
くすりと甘い声が聞こえれば、テーブルに置かれた空のグラスを眺めて、
「なんせ明日の出張先は、」
コップ横に置いておいた錠剤が消えていることを確認すれば、
「お前憧れの」
ぱちりと部屋の明かりを消した。


「"ガレーラカンパニー"だからな。」




お気に入りの記憶を消して、
そっと隣の島に移して。

大切に大切に、
そっとそっと、
お前だけを取り除く。

ほら、

これこそが本当の、


ふたりだけのハッピーエンド。









2020.03.21
お前以外は変わりない。





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