toy box



my sweet



金色の髪を掻き混ぜる。
それは、夜の空気に溶けてしまいそうな、
細く柔らかな砂糖菓子。


ベッドにゆったりと沈んで、大好きな人の背中に腕を伸ばす。同じ香りのする身体に、サイズ違いのバスローブ。薄いカーテンの向こう、煌めく街並みを映す大きな窓の端、夜を知らない島に向け走り出した海列車を視界の端でぼんやりと眺めた。


朝からバタバタと過ぎた1日。
大切なパパの誕生日は毎年、大きなパーティーが開かれる。恐い顔つきの政府の役人や、海軍のお偉いさん。みんな、お酒片手によくわからない話をして笑う。その中でただ、子供の頃から変わらず、にっこりして過ごすのが私の役目。まるでショートケーキの上の苺みたい。
そんなことを考えながら、退屈なパーティーに向けドレスを用意すれば、ふとあることに気が付いて。唇を尖らせ、少し考える。
そういえば去年も、その前も。

かつかつとヒールを鳴らし廊下を移動すれば、想像した通り大きな広間のデスクに座り、パーティー会場について、あれこれ悩む誕生日会の主役様。
ほんの少し良い子の顔をして、まるで提案するように、
「パパ、今年は、」
そっと小さな我儘を告げる。


ふわりと色付いた頬に気付かれてやしないかと、胸を高鳴らせれば、バスローブの前がはらりと開けて。薄暗い部屋の中、白い身体のラインが浮かぶ。調整された室温の中では、寒いとまでは言わないまでも、晒された肌にかかる空気に肩が震えて。そっと手首を握られれば、柔らかな唇に深く口付けられる。
ゆったりと動く舌に、バスローブの弛みを直すことすら許してくれない細い指先。お互いバスタイム後のはずなのに、彼の体温はどこかひんやりとしていて。私の熱を分けてあげたい、なんて必死に相手の真似をして舌を動かした。
軽く花弁を散らすように残された鬱血痕に、いつも以上にゆったりとした愛撫。もういっそ、全てを投げ捨て生まれたままの姿の方が恥ずかしくないのではないかと考えながら、ほんのすこし肩からずれたバスローブの下、触れる口元に熱い吐息をついた。


朝の空気に光る、つるりとしたグレーのマーメイドドレスに、パールの髪飾り。ファーのクラッチバッグを手に、いつもより高いヒールに足を通せば、
「今年もですか?」
呆れたと言うように此方を見つめる、眼鏡越しの瞳。
「ええ、そうよ。パパの誕生日会。」
そう返しながら、相手と同じ言葉を心の中で繰り返す。
「親孝行ですね。」
ふっと溢れた吐息に、深く息を吸って瞼を閉じる。数日前から、きちんと考えていた言葉を心で繰り返して、ぱっと長く伸ばした睫毛をあげる。
「ねぇ、カリファ。」
どこかに行こうとすでにドアに向かい進み始めた背中に声を掛けて、
「このヒール、思った以上に高くて足が痛くなりそうなの。」
すくっと立ち上がって見せれば、相手に向かって手を伸ばす。
ふと足を止め振り返った愛しい人が溜息を吐けば、
「その靴でないと?」
すっと優しく指先が触れる。
「このドレスには絶対にこれがいいの。だからね、」
退屈なパーティーに誘うことなんてしやしないけれど、
「迎えにきてほしいの。夕方、パーティーが終わる時間に。」
貴方の為の時間を作る。


「今年は珍しいランチパーティーでしたね。」
ぴとりと腰に触れた手のひらに、溶けてしまいそうで、揺らいだ視界に甘く笑う。
「パパが、明るい時間もいいだろうって。」
痕が残るのを嫌がることを知っているから、首筋に寄せた唇は触れるだけ。
毎年、父親の誕生日パーティーの夜、自分のことを連れ出す恋人のことを思い出せば、まるで自分と父親を天秤に掛けさせているようだと思えて。そのことが、なんだか擽ったくて幸せで。

するりと太腿から踵までを撫で上げられれば、自然と上がった脚に、身体の中央にピトリと当てられた熱。
「本当に、貴女は甘いですね。」
きっと父親に対しての言葉だろうと考えれば、何も知らない相手にくすりと笑って。
「カリファも、」
そう、心の中で呟いた。


繋がった唇はきっと、
バースデーケーキよりも甘ったるくて。










2020.01.19
マシュマロのように滑らかな足には靴擦れひとつありませんが?





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