toy box



yours


テーブルに並ぶローズサラダ。散らされた真っ赤な薔薇に微笑めば、そっと摘んで唇に寄せる。


キラキラ瞬く星を窓から見上げれば、キッチンに立つハクバの背中に睫毛を揺らす。
自分と同じ星色の髪はパサついて、食器を取るために振り向いた表情はいつもと変わらず不機嫌で。それでいて対照的に器用な手つきに、皿をテーブルに運ぶ動きは柔らかで。普段と違って、身に纏う空気すらどこか優しく感じられる。
そう、今日は。ぼくらがこの世に生を受けた日。

「何か手伝おうか?」
なんて尋ねたところで
「座っていろ。」
視線も合わせず返される言葉。
やれやれとソファーに腰掛けて見上げた夜空は、ようやく昼間の火照った空気を溶かし、澄んだ宇宙を広げていて。
せっかくの誕生日にふたりで出掛けないかと提案したところで、首を縦には振らない相手に溜息を零すも、今こうしてキッチンに立つその姿を眺めてみれば、外食などをさせない為に自宅に閉じ込めておきたかったのかもしれないと思われて。そう考えれば、なんと可愛いことだろう。

テーブルに並べられたサラダの真ん中には生ハムで作られた一輪の薔薇。そこにふわりとかかった花弁は燃える愛の如く深い赤。
あっさりとしたスープに、メインディッシュはラムのトマト煮込み。
いつも口にしているシェフが作った料理には敵わないものの、食欲をそそる香りに美しい盛り付け。
「美味しそう。」
甘い笑みにほっとしたのか、溢れた吐息にきゅっと結んでいた口元から力が抜ける。
ほろりと柔らかな羊肉を口に運べば、爽やかなトマトの甘みが鼻に抜けて、心をぼんやりと熱くさせる。
「これが、ハクバからのプレゼント?」
サラダに踊るバラの花弁を唇に寄せれば、静かな声で尋ね瞳を細めて。
困ったように逸らされた視線の先にはファンから贈られたプレゼントの山。ブランドバッグに有名宝石店のアクセサリー。どれも紙袋を見るだけで何が入っているか想像できそうなものばかり。
気後れなんてしなくても、想いの込められた贈り物に後悔なんてしなくていいのに、そう考えて俯いた表情に合わせ落ちた相手の髪をそっと耳にかけながら、
「とっても嬉しい。ありがとう。」
手のひらで冷たい頬を撫でた。
「これなら、エプロンをプレゼントするべきだったかも。」
くすりと笑えば、既にベルトに通されたお揃いのキーケースを愛おしげに触れる仕草に、
「物なんて、なんでもいい。」
ぶっきらぼうに返される言葉すら子供ぽくて。
「それよりも、」
いつもに比べ饒舌な薄い唇を見つめれば、
「お前が欲しい。キャベンディッシュ。」
そう、珍しくも真っ直ぐに視線を合わす。
ぱちくりと見開いたサファイヤに、震える睫毛。艶めく髪を揺らし、頬に触れた手を引こうとすれば、しっかりと手首を掴まれて。
「オレはお前が欲しいんだ。」
同じ言葉を繰り返される。

嗚呼、なんて愚かなのだろう。そう考え、蕩けるような瞳を向ければ、柔らかな声で小さく囁く。
「そんなの、当然。だって、」
不安げに揺れる瞳に、幼い日のふたりの姿を思い出して。
「世界がぼくを欲してる。」

はっと見開いた瞳はどこか哀しげで、手首を離した手が掴んだフォークがサラダの中心を飾る愛らしいローズを捉え、勢いよく深く突き立てられる。
がしゃんと乱暴に響いた音に、瞳を細めれば。

「ぼくは"白馬のキャベンディッシュ"だもの。」
甘ったるく微笑んだ。


嗚呼、嗚呼、愚かな人。
どうしてそんな馬鹿げた問いを?

だって、ぼくは、ずっと前から。
異名を与えられるより、もっともっと以前から。

そう、生まれた時から、僕は。

「ハクバのキャベンディッシュ」なのに。









2019.08.31
ずっと貴方のものでしょう?

Happy birthday to Hakuba&Cavendish...!!





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