toy box



テイクアウトメイクアウト


「えっ、と。」
小さく漏らした声に、きょとんとした瞳が愛おしくて、胸がきゅんと跳ねる。それでいて、なんとなく居心地が悪いのは、特に深く考えもしなかった服のせい。
「サボ、だよな?」
秋色のパーカーをハンガーごと掴んで身を隠した不自然な姿勢に、エースの甘い声が耳に届く。

久々のショッピング。
どうせ1人だから、とスキニージーンズにスニーカーのラフな格好で出掛けたのはいいものの、大好きな人のお気に入りショップは覗いておきたくて。新作を着こなしたマネキンが視界に入れば、ああ、どれも似合いそうだと、明るい笑顔を頭に浮かべる。秋色は愛しい彼を引き立てて、あの温かな体温を思い出させるエースにぴったりの色。何かお土産に買って帰ってやろうか、なんて、また甘い思考を巡らせれば、ふわりと頬が緩んでしまう。

途端、
「お、サボもきてたのか!」
なんて、頭の中に居たはずの目の前の存在に瞳が瞬いて。にっと笑った眩しいほどに白い歯に視線がいって、
「今日はひらひらしてないんだな!」
と恋い焦がれた相手からの何気ない真っ直ぐな言葉が胸に刺さる。

いつもならくるんと上げた睫毛に、桃色に色付く頬。髪だって綺麗に整えて、艶めく唇には薔薇色のグロス。そうやって、丁寧に丁寧に準備して、前日から悩み抜いて決めたふんわりと愛らしいレースワンピースに身を包んで、大好きな人の隣を歩くのに。
こんな運命的な出会いをした日に限って、ただ白いだけのTシャツ姿だなんて。

「…人違い、です。」
手を掛けていた売り物を引き寄せて、顔を隠して返せば、
「でも…サボの声、だろ?」
んーと唸りながら傾げられた表情が可愛くて堪らなくて。ほわりと力が抜ければ、ぐっと引かれた腕に近付いた整った表情。そっと手のひらに包まれた両頬に、額を重ねるように見つめあった瞳が深く澄んでいて。
「やっぱりサボだ。」
そう、あまりに嬉しそうな笑顔に、幸せ過ぎて泣きたくなった。

「なんで、隠れたんだ?」
と熱い親指で目元を撫でられれば、誤魔化しなんてきかなくて、絡めた視線すら解けなくて。
「今日は、可愛くないから。」
薄付きのファンデーションを隠すように、やっとの事で俯けば、きゅっとシャツの裾を握り締める。本当はエースの背中に回すべき腕を、今の自分では、と制して。
「化粧もちゃんとしてないし、服も可愛くないから。だから、この格好をエースが見たらって。」
躊躇いがちに言葉を零すと、なんだか、悪い事をした子供のような気持ちになって、心細くて唇を噛む。

瞬時、ぴとりと重なった赤い唇に、髪を撫でるように添えられた手のひら。抱き寄せられた腰に密着した身体は温かで、溶けてしまいそうだなんて、ぼんやり考えれば、ゆっくりと鼻先を擦って口元が離れる。
「今日もちゃんと可愛いぞ?」
大人びた行動に不釣り合いな、子供っぽい声に不思議げに覗き込んでくる瞳。
「それにベッドの中じゃ、裸だろ?」
思い出したように、けたりと笑う表情が心を満たして離さない。

「この格好なら、お揃いも似合うだろ。」
そう頭からフードを被せられて、そっと瞳を覗かれれば、
「エースが買ってくれるなら、着てもいい。」
なんて、照れ隠しに少し我儘を言ってみる。


そっと繋いだ手と手に紙袋。
ふわりと波打つ色違いの髪に、同じ歩幅が愛おしい。









2017.09.22
帰ったらふたりきりのファッションショー。


(はるりあさんへの贈り物)






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