toy box



オン・ザ・デスク


「例えば、ですが。」
そう耳元を擽る甘い吐息に睫毛が震えれば泣きたくなって。何かを告げようと薄く開いた艶めいた唇に、そっと相手に触れようと伸ばした腕がデスクに転がっていた万年筆に当たって床に落ちた。


コーヒーを片手に窓の外を眺める。永遠に続く海に、暮れることのない太陽の光が余りに眩しすぎて。対照的に薄暗く冷たい牢獄のような部屋が嫌になる。
「何か見えますか?」
静かに響いた声に、
「何も。」
呟いた唇をカップにつけた。
日の光に瞬いた色の髪は、夜のこないこの島には不自然なほど月を思わせる淡い金色。底の見えない藤色の硝子玉に長い睫毛が掛かって細い眼鏡のフレームが上げられれば、重なった視線に肩が跳ねた。
変わらない毎日に、デスクに積み上がる資料達。ペンを片手にサインをして、時折、よくわからない書類に判子を押すのが私の仕事。他の海兵や部下達は外の島へと出掛けては、見たこともないような話をしながら廊下を過ぎるのに、私はいつまで経っても籠の中の鳥のよう。
「次の任務は私も一緒に連れてって。」
驚いたように見開いた瞳が瞬時細まれば、美しい指先が頬に触れて。
「いきなりどうしたんです?」
いつになく甘い声に、するりと顎を伝う指の腹すら冷たくて、この目の前の人物すら紛い物じみて。なのに、この繊細で愛おしい存在を否定することなんて出来やしなくて。この部屋、全てが夢と現実の狭間で宙に浮く。
「外は危険ですよ、長官には。」
そっと上げられた視線に、近付いた鼻先。
柔らかに触れた唇に、まるでからかわれているような気がして、
「でもちゃんと訓練も受けているから、私はここに居るのよ。」
強がって出した声は何故だか震えて儚げで、やっぱり彼には適いっこないと理解している自分に呆れた。
「体術は苦手だけど、護身術も習ったし。」
瞳を泳がせながら囁けば、優しい手付きでコーヒーカップを奪われて。静かな足音に離れた影、扉に近い棚上にことりと置かれた飲み掛けのそれに、がちゃりと錠の落ちる音。
「・・・カリファ?」
世界から切り取られた部屋の空気が急に上がった気がして、不安げに零れた名前に美しい瞳が瞬いた。
「長官。」
愛おしむように溢れた溶けてしまいそうなほど官能的な響き。そっと引かれた手に導かれ、窓辺から離れるように出した足先は自分の意志を示す前にマリオネットのように操られて。踊るようにくるりと回された身体に捻られた腕を背中に押しつけられて、ぐっと屈まされた胸元はプレジデントデスクに伏せ置かれる。
「こんな風に動きを封じられでもしたら、抵抗すらできないでしょう?」
どうにか身体を動かそうと力を込めた脚の間に膝を割り居られれば、意図せず持ち上がった腰に床から浮いたヒール。
「まァ、大抵の場合、拘束される前に処分されて終わるんですが、長官という立場もありますし拷問される可能性も想定できます。その場合、"訓練を受けている"長官は口が堅いんでしょうね。」
くすりと笑った口元に、羞恥で頬が熱くなるも揺らした肩はびくともしなくて。柘榴に似た色のピアスが瞬けば、腿を掴まれ机上に座るように体勢を変えられ両手首をデスクに繋がれて。
文句のひとつでも告げてやろうと開いた唇を塞がれて、熱い舌が絡まれば、酸素を奪うように深く深く密着する身体。トントンと響いたノック音に、大袈裟なほどに跳ねた肩も今は石になったようにほんの少しも動かせやしなくて。乱れたスカートに、押し込めるようにぴたりと貼り付いた腰元。これではまるでベッドの上でしているイケナイことのようで、扉の向こうから響く海兵らしい声すら靄掛かって。頭の中に響く唾液の混ざる音に、上顎を優しく舐められれば伸びた足先からヒールが落ちた。

「例えば、ですが。」
銀糸を引いて離れた口元が波打つ髪に触れて、熱を持った吐息が耳を掠めるだけで高い声が漏れれば、丁寧な手付きでシャツのボタンが外されて。
「こんな状況から逃れる術も知っているんですよね?」
優しい視線に絆されそうになって。否、絆されたいと願ってしまえば、もう何もかもがどうでもよくて。

「御教授、願います。長官。」
意地悪な声に酔いしれて、固いはずのデスクに沈んだ。










2019.04.14
プレジデントデスクで許しを乞うて。





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