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なんでもない日の星屑


煌めく視線に、甘い唇。
その後のおやつはアイスクリーム。
 

ほわりと湯気立つ和風ハンバーグは、此方に合わせたのだろう大根おろしにポン酢のさっぱりとした味付けで。普段に比べ少し豪勢な夕食に、機嫌を伺うように揺れる澄んだ瞳が愛おしくて、胸がきゅうっと締め付けられる。
数週間前に控えめに尋ねられた、理想の誕生日の過ごし方。あの時、深く考えもせずに返した言葉に、きっとこの目の前の優しい人は囚われて、悩んでいたに違いない。ただの生まれた日だからと、いつも通りで構わないから美味しい手料理が食べたい、そうとしか答えなかった自分は、今から思えばあまりに意地が悪くはないだろうか。ちらちらと向けられる視線に、先程、開いた冷蔵庫の中、ケーキ箱も作り置きのデザートもなかったのを思い出せば、ふうと鼻から息が漏れた。
大好きな人の大切な日、きっと愛しい恋人はたくさんの気持ちを込めて祝いたかったに違いない。手作りケーキを用意したり、リボンのかかったプレゼントを選んだり、もしかしたら外食の予定があったかもしれない。それら全てを取りやめて尚、此方の様子を伺う様があまりに健気で。それならいっそ「盛大に祝ってくれ!」と言うべきだったかも、なんて心の中で自分を責める。
残りの少なくなったグラスに気付いたのか、瓶を両手で包み此方に傾けるその仕草につられてコップを持てば、
「美味しい?」
なんて、はにかむ笑顔が眩しくて、
「もちろん。」
と自然と表情が緩む。
あれこれ悩んだって、結局、この可愛い笑顔には何も敵わなくて、どうでもよくて。
「こうしてふたりで過ごせるのが、なにより、おれは嬉しいよ。」
心から溢れた声に、ふわりと開いた瞳が瞬けば、何故だかきらりと潤んで見えて。
「うん。」
こくんと揺れた銀色の髪が、薔薇色の頬をそっと撫でた。
 
「何もいらないって言ってたけど。」
そう、躊躇いがちに差し出された箱の中には、色とりどりの入浴剤。
「旅行もいいけど、時間もお金もかかちゃうし。家で、のんびりするのがいいかなって。」
脚の怪我を気にし、遠出が必要な旅行を選ばなかった優しい人の手元には、もうひとつ大きな紙袋。
「それは?」
各温泉地の描かれた小さな袋から手を離し、相手の背中を押すように此方から話をふれば、さらりとした髪が揺れて、恥ずかしげに震えた睫毛に絡む。
「安かった、から。気分だけでも、どうかなって。」
そう、差し出された箱の中には、少し季節外れの夫婦浴衣が仲良く並んで。
 
ふたりで入った湯船は少し狭いけれど、いつも以上に温かで、柔らかな白濁色。
ぴとりと触れ合った肌に、藤色の浴衣を纏った姿を想えば、結い上げたそこから零れた髪を絡めて、ほんのりと色付いた頬を撫でる。
「そういや、今日はケーキなし?」
と少し拗ねたように尋ねれば、くすくす漏れた笑い声に窓から溢れた星屑が深い瞳に映って。
「今日は少し豪華にアイスケーキを作っちゃいました。」
なんて、また、あの大好きな笑顔が返ってきて。嗚呼、もう敵わないなと抱き寄せる。
「大きいのを作ったので、全部食べてくださいね。」
と、からかうように告げられた言葉があまりに愛らしくて、唇を重ねれば、
「そのケーキ、ベッドの後でもいいよね?」
そう、低く甘ったるい声が空気を満たす。
 



今夜は素敵な誕生日。
普段と変わらぬ、少し豪華な、そんな夜。









2017.09.21
シーツの海、煌めく瞳が嬉しくて。

 




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