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薔薇色ワインと夢

(「秘密のバースデーカード」後のお話)


ふわふわと霞む視界に、淡い水色の部屋は夢のようで。零れた吐息が甘く溶けた。


脱ぎ捨てたジャケットはベッドに転がるテディベア達の目隠し代わり。薄暗い部屋の中でもわかる赤く上気した白い肌は、きっとアルコールのせいだけではなくて。同僚が用意したという年代物のワインボトルを視界から外した。
ふたり沈んだベッドに、さらりと揺れた天蓋から降る柔らかな布切れすら煩わしくて、ぐっと腰を引き寄せれば、高くくぐもった声が繊細な指の隙間から溢れて、それだけでまた体温が上がる。
涙の溢れる飴玉のような瞳に、ふわふわと波打った淡色の髪。もどかしげに背中に伸ばされた腕に唇を合わせれば、鼻から抜ける葡萄の香りがまたくらりと思考を歪めた。

普段以上に欲に浮かされた視線の理由は見当がついていて。それでいて、こんな簡単な罠にかかった自分が情けなくて腹が立つ。
薬入りらしいワインを用意した同僚は、今頃、自分の楽しみのために海列車に揺られているのだろう。長官の手帳に書かれた予定を確認すれば、今夜は真夜中からの任務予定。自分を部屋に呼んでおいて、その後に仕事に出る予定だったらしい腕の中の人に呆れて溜息を吐くも、その息さえ甘みを帯びて視界が潤む。
「ただの視察なら、日程をずらすくらい可能ですよね?」
高まる快感に震える背中をそっと撫でれば、ぴくぴくと過敏に跳ねる身体。
こうなることを見越して早めにパーティー会場を出たというルッチの計画性に怒る以前に感心するも、いや、自分が鈍感なだけなのかと思い直して。首元に擦り寄った長い睫毛に考えるのをやめた。

静かに倒した細い肩に、我慢できないと自らの衣服に伸ばされた桃色の指先は薬のせいかボタンをひっかいているだけで。
「カリファ、」
熱くて、それでいて少し掠れた声が耳に届けば、シャツなど着ていられないほど空気がむわりと湿度を持って。
「たすけて。」
これだけ近い距離でなお不安げな言葉に、勘弁してくれとネクタイを外し投げ捨てた。

荒っぽく開いたシャツの飾りボタンははぜて、中から現れた桜色のレースを摺上げれば、羞恥など感じる余裕すらないらしい愛らしい人は華奢な腕を此方に伸ばす。胸を密着させた状態で、耳五月蝿い金具に目を瞑ってベルトを外せば、弱い力ながらも腰を挟む白い膝に笑みが零れた。
「下品なお強請りですね。」
そう呟く自分でさえ、乱れた髪にぎらついた瞳はきっと上品だとは言えないだろうに。
甘ったるい蜜に溢れたそこに熱をあてがって、なのに、自分からは決して媚びる気はなくて。熱い体温を重ねて、柔らかな唇をそっと合わせた。

途端に鳴り響いた電伝虫の音に、そっと離した腹部。今にも泣き出しそうな可愛い人の髪を撫でて、受話器を取れば若い海兵の慌てた声。どうやら、今夜の任務への海列車の出発時刻が迫っているらしい。
「早く、用件だけ伝えてください。自分もルッチも急な用件が入った、と。」
強い快感にぽろぽろと涙を溢れさせたその人の耳にキスをして、優しく優しく頬を撫でる。
「上手にできたら、ちゃんと助けてあげますから。」
無言の対応に訝しんでいるらしい海兵の声に、受話器を赤い唇に近づけて。
「ほら、可愛い声を聞かせて。」
ぐっと押し潰すように寄せた熱は限界近くて、震えた声が空気に溶けた。

がちゃりと乱暴に投げた受話器に、剥ぎ捨てた淡色レース。
「おれも我慢の限界なので。」
そう告げて口付けたのは柔らかな唇ではなくて、事の元凶であるワインボトル。傾けたそこから喉元を通るそれは焼けるように熱く、それでいて渇いた身体を潤して。透き通った薄紅色を含んだままに、子供のように愛を欲するその人に優しく静かに口移した。

全て全て、薬のせい。こうして、獣のように浅はかな行為に及ぶのも、品のない荒い息を吐くのだって。
だからこそ強いワインの力を借りて、この一夜の記憶すら曖昧にしてはくれないか、なんて願って。




唇から零れた薫り高いロゼ。
淡い淡い薔薇色に、踊り、溺れて、夢をみる。









2018.04.30
二日酔いすら薄紅色の夢の中。





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