toy box



ミルキーレッスン



口から溢れたそれは苺を飾る練乳に似ていて。
なのに、苦くて嫌になる。


喉奥に当たった熱に、鼻につんと上がった刺激に咳き込めば、
「あーあ、またですか。」
なんて、呆れた声に桃色の唇からとろりと溢れた白濁色。もう一度するからと、相手の太腿に手をかけ鼻先を下腹部に埋めるも、
「もういいですよ。何回やっても下手ですし。」
そう頬を包んだ両手に視線をあげる。
優しい瞳に映った自分の表情は涙でいっぱいなのに、ふやけて溶けて幸せそうで。笑顔なのに冷めている想い人とは対照的で。
「カリファ。」
喉に引っかかった違和感に枯れた声を漏らすも、それ以上何も言えなくて。
「本当に何も出来ませんね。」
低く甘い声が脳に届けば、泣きそうになって。謝ろうとした唇すら許されない気がして。そっと倒されたシーツの海、ゆっくりゆっくり沈んで鳴いた。

「報告書です。」
はっとして上げた視線の先、ルッチの瞳はぎらりと光って。
「えっ、と、ありが、とう。」
ばさばさと重ね隠したのは男性向け雑誌の艶かしい体験談ページ。
何でもないように扉に向かって歩き出した革靴に、ほっと息を吐けば、今度は成人向け漫画を机から引っ張り出してそろりと中を覗く。
乱れる官能的な体型の女性キャラクターに、コマからはみ出す程の擬音と喘ぎ声。目を覆いたくなる台詞と行為の数々に唾を飲み込めば頭に焼き付ける。品のない言葉は告げられなくとも、口に含む愛撫くらい私にだって。そう思えば、なんだか上手く出来る気がして。

シャワーを浴びて、ほんの少し露出の多いランジェリーを身に付ければ、ソファーの前で相手を待つ。
開いた扉に、驚くことなく勧められるままソファーに腰掛ける恋人は、本当にいつもと変わりなくて。
「ベッドではなくここでするんですか?長官の趣向はわかりませんね。」
からかうように繕われたその笑顔が美しくて、金色の髪がキラキラと瞬いて。
「今夜は、たくさん、気持ちよくなってほしいから。」
そう、聞こえないほど小さな声で呟いた。


先端に愛おしむように口付けて、するすると鼻先を擦るように温かな根本にちゅっと吸い付けば、それはまるで溶けかけのアイスのよう。
たっぷりの唾液に内頬に擦り寄せた淡いスモモの実は、柔らかな肉を押して飴玉を含んだかのようにぷくりと頬を膨らませて。
見様見真似で差し出す愛情は拙くて。それでいて見上げた先の整った表情が、ほんの少し崩れたのがわかって瞳がキラキラ瞬いた。
「上手ですね。」
なんて呟いてくれなくたって。
「気持ちいいですよ。」
そう髪を撫でてもらえなくとも。
僅かに寄せられた眉間の皺が愛おしくて愛おしくて。

ちゅうっと吸い付いた熱に、未だ白い泡を与えてくれない相手を喉奥に押し込めば、苦しさに涙を浮かべふうふうと鼻で息を吐く。
「長官。」
そう、やっとのこと声を漏らした恋しい人に、伸びた指先を見つめれば。ちょんと摘まれた鼻先にがつりと押さえ込まれた後頭部。
「こんなので達せなんていいませんよね?」
ぐんと奥の奥に進んだ柔らかな肉に、嗚咽を漏らそうにも、ギラギラとした視線に胸がときめいて。
すきにしてください、なんて言葉には出来ないけれど。心が望んで、きゅんと収縮した下腹部の内側が正直に涎を垂らした。


愛らしい上司のデスクから覗く下世話な雑誌に淫らな漫画。純な相手に不釣り合いなそれを紐で縛れば焼却場に運んで。想像の中ですら相手になった者たちに火を放つ。

「あーあ、またですか。」
また同じ言葉を繰り返せば、酸欠気味にとろとろと溶けた瞳に頬を撫でて。口の端からぽたりと落としたそれに笑う。
「本当に貴方は何をやっても下手ですね。」
隠れて上達を目論んで、仕事仲間に見つかって。
「仕方がないから、」
他の誰かに痴態を晒すくらいなら、


「一緒に練習しましょうか。」

ふたり一緒に堕ちてやる。









2018.03.22
ほら、その口で受け止めて。




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