toy box



混沌世界と秩序の乱れ



真っ赤に染まった頬に、そっと添えられた手のひらは白く優しくて。甘く向けられたその瞳に唇を重ねて。
ふたりぱたりとその場に倒れた。


「キャベンディッシュ。」
小さく漏らした声にほわりと向けられた青い視線は真っ直ぐで、熱に満たされた脳内をゆっくりゆっくりと宥め鎮める。
軽い身体を抱き締め寝転がった地面はひんやりと冷たくて、胸に乗った体温にほっとして。
「汚れる。」
泥に塗れた衣服を思えば相手の純白のシャツが目について、はっとしたように細い肩を押し離せば、さらりと降ってきた金の髪が木漏れ日のようで、夜の路地裏を別世界に映す。柔らかな身体から溢れる果実を思わせる甘い香りに、月明かりに照らされた肌が煌めいて。視界に入る幾つもの赤が、まるで御伽噺の中の薔薇の園のようで。
「汚れたってぼくは美しいから。」
両方を包む手のひらは陶器のように滑らかで、零れた澄んだ声に、全てがどうでもよくなって。

「オレは、お前を愛していいのか?」
弱く漏れた言葉にふわりと睫毛が広がって、瞬時、何ともないように愛らしい微笑みが溢れて。

いつもと変わらず、当たり前のように返事が届いた。




暗闇の中、高まった興奮に止めようのない破壊欲求。にやけた口元に、わなわなと沸き立つ想いは名称を付けようがなくて。
冷たい夜風に深く息を吐くも、速まった鼓動に目についた男達の笑い声が頭の中、わんわんと木霊して。けたけたと狂った心が笑えば、剣を握り込んだ手に力が籠った。
ザンッと空気が斬れる音がして、パタパタと倒れる影にゆらりと身を起こせば、まだ息があるらしい男に近付いてゆらりと視線を下ろす。
カタカタと歯を鳴らし、なんでもするからと煩くも懇願する枯れた声を無視して、するりと顎に刃を添えれば、口から熱い息が漏れて。次いで、零れた声は胸焼けするほど甘ったるい。

「キャベンディッシュがルールだ。」

見開いた瞳に何かを告げようとした喉元を勢い良く貫けば、飽き足らずに抜いた直後の刃を胸元に幾度と刺して肉を断つ。
口元から漏れた声に、見下ろす月は柔らかで。煌めく星を映す細い路地は、冷たく暗い真っ赤な血の海。

「あの女、自分が好き過ぎてイカれてるんじゃないか?」
「見た目はいいのに、勿体無いよな!」
ゲラゲラと響いた声が胸の奥をドロドロと溶かして、汚らしい笑いが溢れていた唇から落ちたドス黒い赤を何も感じず眺めた。

愛しい人が愛する世界が憎くて。愛されているくせに彼女を馬鹿にし笑う存在が腹立たしくて。胃の奥から黒いヘドロが迫り上がって、剣を握った手にまた力が入った。
ガツガツと突き刺した原型を崩し始めた死体の山に、少しだけ心が落ち着いて。すっと剣を引けば、さらりと光る金糸が視界の端に輝いて。


「ハクバ?」


瞬時、耳に響いた恋しい声に、返り血を浴びた自らの姿は対照的に醜くて。泣きたくなって、剣を落とした。
「キャベン、ディッシュ。」
掠れた声に言い訳なんて考えられるはずもなくて、近付く相手に身動きが取れなくて。
すぐには抱き締められたという事実に理解が追いつかなくて、優しく包まれた両頬に荒くなった息が静かにゆったりと今の状態を心に刻む。
「お前のことが、すきだから。お前を笑う奴は、消さなきゃならなくて。」
グルグルと回る思考に、未だ怒りの収まらない心はめらめらと燃えていて。
「だから、刺した。」
真っ直ぐに伝えた言葉に、ふわりと細まった瞳は光がなくて。なのに、それが愛おしくて。
「ぼくのためにしてくれたんだね。」
確認するように返された言葉に目を見開けば、触れ合った唇に絡まる舌。ぐっと寄せられた体重に、腰を支えるように抱き締めたまま地面に倒されれば、角度を変えて口付けを深くする。


「人殺しのオレは、お前を愛していいのか?」

弱く漏れた言葉にふわりと睫毛が広がって、瞬時、何ともないように愛らしい微笑みが溢れて。


「ぼくを嫌いになる理由なんてある?」


そういつもと変わらず、当たり前のように、甘い甘い返事が響いた。




触れた唇は熱くて。
思考が溶けて、形を崩す。

世界は全て、貴女がルール。









2018.03.06
真っ赤な海の真ん中で、唇重ねて誓いを立てた。





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