toy box



コマの中の助演者



すきだと告げた言葉に、知っていると返されるのが幸せなんて。
そんなの少女漫画の中だけで。


ソファーの上でドラマを眺めれば、甘ったるい告白シーン。片思い同士のふたりが結ばれる、よくあるワンシーン。
こんな漫画のようなことあるわけないだろうと溜息を吐いて、膝に座った愛しい人にそっと視線をやれば、テレビなどそっちのけで整えたばかりの指先を眺めて瞳をうっとり潤ませる表情が煌いた。
愛らしいものを好む腕の中の人は、自分が主役でない物語はお気に召さないようで。どれだけハッピーエンドの話でも、ドラマも漫画も見向きもしない。

「ずっと、すきだったんだ。」
「そうだと思ってた。」

テレビから聞こえるふたりの声は、平たくて現実味がなくて。幸せそうな横顔すら、白けた心地にさせる。
ふたりきりの公園に夕陽がきらきらと瞬いて、柔らかな曲に合わせてエンドロールが流れ始める。地面に伸びた影がひとつになって、間接的に唇の触れ合ったふたりの幸せを思わせて。

「ハクバ、みて。この爪の艶。」
長い睫毛に名を呼ばれれば、ぼんやりとした思考が晴れて同居人に心が惹かれて。
淡いピンクの爪先は丁寧に磨かれて、硝子のように美しくて。さらに愛しい人を人とは違う尊い存在へと誘うようで。そっと指を絡めて、手を繋ぐ。
「こんなことして何になる?」
素直に綺麗だと告げる気になれなくて意地悪く問うてみれば、尖らせた唇があまりに恋しくて、合わせた視線を静かに逸らせた。
すでに充分な美しさを手にして尚、上を目指すこの人を、オレは繋ぎ止めておけるのだろうか、なんて恐くなって。握りしめた手に力を込めた。
「ハクバは、ぼくが美しくなるのに反対なの?」
するりと猫のように胸元に寄せられた頭に、ほんの少し寂しげな声。そんな風にされて、否定なんてできなくて。それでいて、自分の元から離す気もなくて。
「美しさなんて必要ない。」
そうぶっきらぼうに呟いた。


「今のままの、そのままのお前を、愛している。」
そう瞳を覗いて、素直に告げてみたところで。
「知ってるよ。」
笑って返す、その言葉は何度目だろうか。
「ぼくは世界に愛されてるもの。」
悪気無くただただ純粋に溢れる言葉は鋭くて、どれだけ熱く真っ直ぐに伝えたところで変わりはなくて。


「だから、ぼくも世界を愛してる。」
くすりと漏れた甘い息が憎たらしくて、世界の全てを醜く思う。




嗚呼、嗚呼、この想いはいつになったら届くのだろう。
そう考えて、人生の主役が自分なことに気が付いて。

他人の物語に興味を示さない可愛い人に小さく囁く。


「オレを早く助演にしてくれ。」


きょとんとした視線に、柔らかな微笑みが眩しくて。
ぴとりと触れた唇の熱が、嫌にはっきり心に響く。






コマに捕われもがく自分を、消し去りたいと嘆いても。
彼女の愛した世界の中に、自分の欠片があるだけで、未練がましく乞うてしまう。

枠線を壊そうと振り回した腕が、幾多の物を破壊しようとどうでもよくて。
この、繰り返される世界に、希望を描いて。


静かに離れた体温に、脳を溶かす甘い声。
「ねえ、ハクバ。」

読み返し、巻き戻してみたところで、きっと隠れた意味などないのだろうに。
未だ、ここに縛り付ける言葉は彼女の物。




「もっとぼくを愛して。」









2018.03.05
ヒーローとヒロイン、それじゃあ許してくれないだろうか。









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