toy box



人魚姫と満月



ぽろぽろと落ちる涙に、愛の言葉は泡になる。


ぴくぴくと震える腰から手を離せば、痕の残りやすい真っ白な肌が色付いて。もう一度、今度はふわりと添えた手のひらを腰から脇腹を通して胸元に伸ばす。
「今日はクラシックを聴きましょうか。」
そう告げた言葉に、蓄音機から流れる軽やかな音楽は部屋の温度には不釣合いで、枕に顔を埋め口元を押さえる陶器のような首筋に噛み付いた。
ぐっと奥まった腰にくぐもった声が耳に届けば、桃色の蕾をきゅうっと抓って、静かに囁く。
「長官は音楽もまともに聴けないんですね。」
返事の出来ない相手に尋ね、柔らかな膨らみを両手で包めば、
「声は曲の邪魔だから、目で教えてくれませんか?」
そのまま細い身体を持ち上げて、違う角度で熱い内部を掻き回す。ふうふうと漏れる鼻息に、両手で唇を隠した表情は既に蕩けきっていて。涙でいっぱいの瞳ではイエスともノーとも伝えることは叶わなくて。

既に体力の限界近い相手から身体を離せば、寂しげに腰に纏わりついてくる腕をそのままに、ベッドから身体を起こし側に置かれた蓄音機の針をあげる。くるくる回り続けるレコードに、ぎゅうっと背中に寄せられた頬が脳を痺れさせて心地良くて。
「続き、できるなら、お喋りしてあげてもいいですよ。」
そう、細い腕をとって抱き上げ、軽い腰を膝に乗せれば、
「でも長官は体力がないから、もう無理ですかね。」
なんて、惚けながらも頬に優しく触れ、指先で滑らかな肌を撫でる。
「でき、る。まだ、大丈夫。」
まるで自分に暗示をかけるように呟く掠れた声をベッドに倒して、そっと臍を撫でれば、

「なら、もう一曲聴いてからにしましょうか。」

ぽろりと落ちた涙を舐めてくつりと笑えば、レコードを差し替えて、オペラの序曲で部屋を満たす。
「ほら、もっと楽しそうにしてください。」
ぴとりと添えた熱に、自然と絡まる脚。きゅうっと引き寄せられた身体に、華奢な手首を掴んでシーツに繋ぎ止めて。
「でないと、おれが悪者みたいでしょ?」
そう、微笑んで甘く柔らかなキスをした。


陸に上げた魚のように跳ねる腰に、ぱくぱくと酸欠気味に開く唇。
音楽を流している間は声を出さずに、なんてルールが適応されるのは相手だけ。それでも文句を言わずに、健気に従うのはそうすることしかできないから。他の男を知らないから。

声を失いながらも動かされる唇は、いつだって愛おしい名を呼んでいて。口から漏れた熱い息は気泡にすらなれず、空気に溶ける。


憧れの如く煌めく、満月によく似た金色の髪。
伸ばそうとした腕は繋がれて、声を出そうと開いた唇は言葉を持っていなくても。


私はあなたを感じてる。




人魚姫はふわり笑って泡になった。







2018.01.23
満月に伸ばした指から夜露が落ちて、静かにそっと涙に変わる。








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